19 / 45
第2章 この世界で生きていくのは難しいです!!
08 牢の中で夢を見る
しおりを挟む「――そういうことなので、アドニス・ベルモント侯爵令嬢。現場検証と、現場にいた令嬢方の取り調べが終わるまで、ここにいて貰います」
「は、はい……ご苦労様です」
私を連れてきた騎士達は、敬礼したあと、牢を出て行った。
鉄格子。逃げられない箱の中。
汚くて狭い牢屋に入れられることを想像していたけれど、思いの外広く、ベッドもあれば、椅子と机もある鉄格子の中に入れられた。一応容疑者……犯人かも知れない人間だし、拘束はするんだろうけれど、何せ、侯爵家のものだから、確実に犯人だ! と分かるまで、扱いが丁寧なのかもしれない。取り敢えずは、監視の目からは逃げられた……(牢の中に入れられているから、何かしらの監視魔法や何かはあるんだろうけど)、人がいなくなったことで一気に身体の力が抜けて、ベッドに倒れ込んだ。ベッドは、自室のベッドよりも硬い。寝返りを打つたびにギシィと壊れそうな音がする。前言撤回。そこまで良くない。
「はあ……」
それにしても、まさかこんなことになるとは思わなかった。
ゲーム上では絶対に起こりえないイベント。それは、私とシェリー様、そしておそらくキールも、転生者だから起こってしまったイベントだろう。でも、結局何かしらのイベント……厄介事に巻き込まれている時点で、不幸、不遇なことには変わりない。自ら、シェリー様に被せられるはずだった冤罪を被りにいったのだから、自業自得と言えば、自業自得なんだけど。
「……シェリー様、大丈夫だったかな」
私への疑いは、あのあとも薄いように感じた。また、ヒソヒソと「アドニス嬢が?」、「アドニス嬢って影薄いのに?」なんて、悪口も混ざりつつ、アドニスがそんなことするわけない、だから、シェリー様がやったんだ、と疑いは彼女に向けられたままだった。でも、私の説明が刺さったのか、一応容疑者として捕らえられたのは私で、牢に入れられるのも私になった。
シェリー様を救えた……と、思うことにして、次は自分自身のことを考えようと思った。
ずっと、このままというわけではないだろうし。もしかしたら、キールのことだから、使い物にならないって私に罪を被せるかも知れない。他の令嬢達が、今回の事件を起こしたとも考えにくいし。彼女たちも演技だった、と言う風には見えなかった。だったら、いったい誰が、ジプシーに毒を盛ったのだろうか。
(位置的に、キールは無理だし。矢っ張り、私とシェリー様……になるのよね)
お茶に毒が入れられていないのだとしたら、お菓子かティーカップか。可能性としては、ティーカップだろう。それか、他の何かか。
考えても、答えは見つからなかった。
現場に戻って証拠を見つけようにも、投獄されているままでは何も出来ない。あとは、外にいる騎士達にまかせるしかないと思った。何かしらは、証拠が出てくるだろうけれど。
(でも、男爵令嬢が倒れたからってこんなに大事になるものなのかな……)
倒れたジプシーは、男爵令嬢だった。毒を盛ったのがシェリー様だったと仮定しても、矢っ張り公爵令嬢が男爵令嬢を毒殺する理由なんて何もないはずだ。狙うのであれば、婚約者を狙ったキールになるのではないか。あの場にジプシーを殺す理由を持った人なんていなかったはずだ。だからこそ、何でここまで大事になっているのか分からなかった。
それにしても、倒れたジプシーはどうなったのだろうか。
本当に死んでしまっていたら、大事になるかも知れないけれど……
色んな事がありすぎて、倒れた一番の被害者を気遣う余裕がなかった。彼女も私と同じで、強く出れない女の子だと思うし……そう思うと、途端に胸が苦しくなってきた。目の前で、人が倒れて。もしかしたら、死んでしまったかも知れなくて……
それと、疑いが晴れぬままのシェリー様も。シェリー様が犯人ではないことは知っているけれど、彼女の身に何かあっては大変だ。私が庇ったとはいえ、キールがまた何か言いだしたら、彼女に疑いが向いてしまうし。あの取り巻きのような令嬢達もキールの味方だろうし……
そうやって、人のことばかり心配して、今度は自分の事をないがしろにしていた。自分が投獄されていて、冤罪を被っているという事実を忘れて、外のことばかりに気をとられていたのだ。
「キャロル……様」
ふと、頭に浮かぶキャロル様の顔。
このまま、ずっと牢の中……なんてことは無いだろうけど、もし、仮にもし、ここからでられなかったとしたら? そしたら、私はもう二度とキャロル様に会えないんじゃないかと、そんな最悪の想像が頭に浮かんできたのだ。出られたとしても、令嬢を毒殺しようとしたかも知れない女性と、キャロル様は会ってくれるだろうか。幾ら、性欲処理係が必要とは言え、変えられるのでは? そしたら、本当にキャロル様との接点が何一つなくなってしまう。
「そんなの……嫌だ」
キャロル様の幸せを願って、彼から離れようとした。けれど、離れてようやく、彼の側にいたいと思ってしまった。心理状態が不安定だからかも知れないけれど、強くキャロル様に会いたいと、心から思ってしまったのだ。
あれだけ、拒絶と、彼を避けるような行動をとっておきながら、会いたいと思うなんて、我ながら図々しい女だなあ、と思いつつも、キャロル様のことを思い出すと、お腹の中がキュンと疼くのだ。そんな、熱なんて思い出さなくて良いのに。今じゃなくて良いのに。
それでも、一人牢の中に居ると、寂しさが込み上げてきて、孤独が恐ろしくなって、誰かに大丈夫だよって言って欲しいと思ってしまった。縋る何かが欲しかった。
後悔はしていない。
でも、こんなことになるなら、この世界にきたくなかった。矢っ張り、アドニスなんて一番不遇な立ち位置だって。自分を、アドニスを呪った。
震える身体を抱きしめながら、硬いベッドの上で小さくなる。暗い地下の、牢の中。冷たくて、寂しくて、誰もいない牢の中で、私は枕を涙で濡らしていた。泣いても何も変わらないのに、自分で選んだ道なのに。
シェリー様を守れた、それでいいじゃないかと、自分を鼓舞して、どうにか耐えようと頑張った。いつか、ここから出られる。誰かがきっと、証拠を見つけて、冤罪だったって、私もシェリー様も解放されて。
(……キャロル様が、むかえに来てくれたら)
もう大丈夫だから、何て言って、キャロル様が私を迎えに来てくれる……そんな妄想をしながら、私は目を閉じた。
絶対にあり得ないけど、それでも、夢を見てしまうんだ。王子様が助けに来てくれるって、そんな、幼稚な妄想を、夢を。
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R18】オトメゲームの〈バグ〉令嬢は〈攻略対象外〉貴公子に花街で溺愛される
幽八花あかね・朧星ここね
恋愛
とあるR18乙女ゲーム世界で繰り広げられる、悪役王子×ヒロインのお話と、ヒーロー×悪役令嬢のお話。
ヒロイン編【初恋執着〈悪役王子〉と娼婦に堕ちた魔術師〈ヒロイン〉が結ばれるまで】
学院の卒業パーティーで敵に嵌められ、冤罪をかけられ、娼館に送られた貴族令嬢・アリシア。
彼女の初めての相手として水揚げの儀に現れたのは、最愛の婚約者である王太子・フィリップだった。
「きみが他の男に抱かれるなんて耐えられない」という彼が考えた作戦は、アリシアを王都に帰らせる手配が整うまで、自分が毎晩〝他の男に変身〟して彼女のもとへ通うというもので――?
オトメゲームの呪い(と呼ばれる強制力)を引き起こす精霊を欺くため、攻略対象(騎士様、魔法士様、富豪様、魔王様)のふりをして娼館を訪れる彼に、一線を越えないまま、アリシアは焦らされ愛される。
そんな花街での一週間と、王都に帰った後のすれ違いを乗り越えて。波乱の末に結ばれるふたりのお話。
悪役令嬢編【花街暮らしの〈悪役令嬢〉が〈ヒーロー〉兄騎士様の子を孕むまで】
ゲームのエンディング後、追放され、花街の青楼に身を置いていた転生令嬢シシリーは、実兄騎士のユースタスに初夜を買われる。
逃げようとしても、冷たくしても、彼は諦めずに何度も青楼を訪れて……。
前世の記憶から、兄を受け入れ難い、素直になれない悪役令嬢を、ヒーローが全力の愛で堕とすまで。近親相姦のお話。
★→R18回 ☆→R15回
いろいろいっぱい激しめ・ファンタジーな特殊行為有。なんでもござれの方向けです! ムーンライトノベルズにも掲載しています。朧星ここね名義作
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】
鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡
★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。
ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?!
★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます
★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』)
★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。
★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい!
その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。
いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!
ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?
yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました*
コミカライズは最新話無料ですのでぜひ!
読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします!
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。
王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?
担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。
だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる