14 / 45
第2章 この世界で生きていくのは難しいです!!
03 ついに来てしまった舞踏会!
しおりを挟むキラキラと輝くドレスに身を包んで、舞踏会へ……
いつか見た絵本に出てきたプリンセスはそれはもう、小さな女の子の心をくすぐる物だった。憧れを抱かせるものだった。そんな、プリンセスが生きているような世界で、プリンセスが行くような舞踏会に今出席しているわけだが、現実という物は、重くて憧れは憧れだったんだと思い知らされた。
(ドレスは重いし、髪型が崩れたら笑われるし……)
貴族は、身なりが云々……、皆驚くぐらい綺麗で決まっていて、自分の身なりに手を抜いていないこと何て一目で分かった。だからこそ、自分の姿はどうなのだろうかと、確認するほど自信をなくしてしまう。私の服を仕立ててくれたのはメイド達だが、それでもまわりの美男美女を見ていると、矢っ張りモブ令嬢じゃないかと思うぐらい美しい世界にポツンと取り残されてしまう。
私の今日のドレスは、黄色で、花柄のレースがあしらわれており、胸元には大きな宝石が埋め込まれていて、首回りはレースで隠されている。スカート部分はふわりとしたバルーンで膨らんでおり、裾は膝下まで伸びていた。髪の毛はアップにして、編み込みをしてあり、髪飾りが沢山つけられている。ドレスって動きにくい。それが私の感想だった。夢に見た舞踏会! 可愛らしいドレス! とか、そういう感想じゃなくて、本当にただ辛いと思った。会社の忘年会みたいな、休みたいのに出席しないと悪いし……見たいなそんなノリだ。現実って本当に辛い。
転生したから楽しんじゃえ! とは、私はならなかった。初めのうちはそうだったけど、適応しきれていない部分もあって、新しい環境に放り込まれたひとり暮らしを始めたばかりの大学生の感覚だった。
「はあ……」
「いた、いた。アドニス」
そんな風にため息をついて落ち込んでいる私に声をかけてきてくれたのは、シェリー様だった。彼女は胸元の開いたワインレッド色のドレスに身を包み、他の参加者達とは一線を画する美しさを放っていた。でも、色気がダダ漏れで、それをよく思わない令嬢や、下心のある令息達から気色の目を向けられている。まあ、そんな目を向けられていること何てシェリー様は気づかなかったけれど、そんな周りの人達をロイさんが牽制しているから、誰もシェリー様には声をかけなかった、と言うのが現在の状況だったが。
「ドレス、凄く可愛いわ。似合ってる」
「あ、ありがとうございます。シェリー様も」
私よりも胸があって、凄く大人っぽくて! と言いかけたが、ロイさんの視線が怖かったため、何も言わなかった。
私は、シェリー様に会えたことで、ぼっちを回避したわけだが、キールは何処にいるのかと辺りを見渡した。多分参加しているはずなんだけど、と見てみれば、二階のテラス席の方で皇太子殿下と何やら喋っているのが見えた。そういえば、キールと皇太子殿下って付合っていたなあ、何てぼんやり思っていると、シェリー様に肩を叩かれる。何事かと顔を上げると、見慣れた金髪が目に入った。皇太子殿下と同じ金髪なのに、彼のほうが輝いて見えるのは何でだろうか。私が、彼を推しているから?
「アドニス、来てくれたんだ」
「……キャロル様」
現われたのはキャロル様だった。誰がどう見てもキャロル様。こんなに人が居る中から私を探せたんだと、感心してしまったのだが、矢っ張り遭遇してしまったという気持ちも大きかった。
参加するだけして、そそくさと帰るつもりだったから。
「久しぶりです、キャロル様」
私は、キャロル様にお辞儀をし挨拶をする。シェリー様も同じように後ろで頭を下げていたが、挨拶をし終えると「じゃあ、あとは二人で」といって私を残していってしまった。シェリー様が私の元を去ったと同時に、刺さっていたロイさんからの視線は消えて、安心感を覚えた。監視されるって辛い、と思うと同時に、次は、キャロル様の相手を……しなければならないと。
「どうしたの? アドニス」
「い、いえ。人が大勢いるところは苦手でして。酔ってしまって」
「そうか。なら、外に出る? 二階のテラスは人気が無くて静かで良いよ」
と、キャロル様はにこりと微笑んでくれた。
そうしたいのは、山々だったが、二階のテラス、と聞いたときキールと皇太子殿下……ライラ殿下の姿が浮かんで首を横に振った。
「いえ、先ほど人影を見まして。多分、先客がいるのだと思います」
「凄いね」
「す、凄いですか?」
「人間観察が得意なのかなって思って、それって一種の才能だと思って」
そういってキャロル様は私を誉めてくれた。
人間観察が得意って凄い、才能なのだろうか。誉められても微妙だなあ何て思いつつ、素直に誉めてくれるキャロル様のことを考えると「ありがとうございます」という言葉しかでてこなかった。人間観察が得意、というより人の顔色を伺って生きてきすぎたせいで周りを見る癖があるというか、周りに気を配りすぎているというか。自分ではあまりいいとは思っていないことを誉められて複雑だった。
顔を上げれば、キャロル様の美しい顔がある。
「そ、それで、何の用でしょうか」
「これを言うためにここに来たんだ。僕と一緒に踊ってくれないかな」
「えっと、ダンスのパートナーと言うことでしょうか」
「アドニスがいいと思って」
と、にこりと笑うキャロル様。
差し出された手を私は取れずにいて、キャロル様の顔と手を交互に見る。
正直言うと踊りたくない。ダンスなんて、前世でもやったことがないし、練習を詰め込んでようやく形になったが、踊れる気がしない。第二皇子と踊るとなれば、それはもう注目されるに違いないし。
(キャロル様と、関わりたくないな……)
キャロル様が嫌いというわけじゃないけれど、これ以上関わってはいけない気がしたのだ。戻れなくなると、警報が鳴っている。
「ダメ? かな……」
そう、眉を下げていったキャロル様の顔を見ていると、私の中でこれまでこんがらがっていた糸がぴんと張るような気がした。
「は、はい。喜んで!」
11
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる