不遇令嬢は発情皇子に溺愛される ~私は世界一不幸な女の子だったはずなんですが!?~

兎束作哉

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第2章 この世界で生きていくのは難しいです!!

03 ついに来てしまった舞踏会!

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 キラキラと輝くドレスに身を包んで、舞踏会へ……

 いつか見た絵本に出てきたプリンセスはそれはもう、小さな女の子の心をくすぐる物だった。憧れを抱かせるものだった。そんな、プリンセスが生きているような世界で、プリンセスが行くような舞踏会に今出席しているわけだが、現実という物は、重くて憧れは憧れだったんだと思い知らされた。


(ドレスは重いし、髪型が崩れたら笑われるし……)


 貴族は、身なりが云々……、皆驚くぐらい綺麗で決まっていて、自分の身なりに手を抜いていないこと何て一目で分かった。だからこそ、自分の姿はどうなのだろうかと、確認するほど自信をなくしてしまう。私の服を仕立ててくれたのはメイド達だが、それでもまわりの美男美女を見ていると、矢っ張りモブ令嬢じゃないかと思うぐらい美しい世界にポツンと取り残されてしまう。 
 私の今日のドレスは、黄色で、花柄のレースがあしらわれており、胸元には大きな宝石が埋め込まれていて、首回りはレースで隠されている。スカート部分はふわりとしたバルーンで膨らんでおり、裾は膝下まで伸びていた。髪の毛はアップにして、編み込みをしてあり、髪飾りが沢山つけられている。ドレスって動きにくい。それが私の感想だった。夢に見た舞踏会! 可愛らしいドレス! とか、そういう感想じゃなくて、本当にただ辛いと思った。会社の忘年会みたいな、休みたいのに出席しないと悪いし……見たいなそんなノリだ。現実って本当に辛い。
 転生したから楽しんじゃえ! とは、私はならなかった。初めのうちはそうだったけど、適応しきれていない部分もあって、新しい環境に放り込まれたひとり暮らしを始めたばかりの大学生の感覚だった。


「はあ……」
「いた、いた。アドニス」


 そんな風にため息をついて落ち込んでいる私に声をかけてきてくれたのは、シェリー様だった。彼女は胸元の開いたワインレッド色のドレスに身を包み、他の参加者達とは一線を画する美しさを放っていた。でも、色気がダダ漏れで、それをよく思わない令嬢や、下心のある令息達から気色の目を向けられている。まあ、そんな目を向けられていること何てシェリー様は気づかなかったけれど、そんな周りの人達をロイさんが牽制しているから、誰もシェリー様には声をかけなかった、と言うのが現在の状況だったが。


「ドレス、凄く可愛いわ。似合ってる」
「あ、ありがとうございます。シェリー様も」


 私よりも胸があって、凄く大人っぽくて! と言いかけたが、ロイさんの視線が怖かったため、何も言わなかった。
 私は、シェリー様に会えたことで、ぼっちを回避したわけだが、キールは何処にいるのかと辺りを見渡した。多分参加しているはずなんだけど、と見てみれば、二階のテラス席の方で皇太子殿下と何やら喋っているのが見えた。そういえば、キールと皇太子殿下って付合っていたなあ、何てぼんやり思っていると、シェリー様に肩を叩かれる。何事かと顔を上げると、見慣れた金髪が目に入った。皇太子殿下と同じ金髪なのに、彼のほうが輝いて見えるのは何でだろうか。私が、彼を推しているから?


「アドニス、来てくれたんだ」
「……キャロル様」


 現われたのはキャロル様だった。誰がどう見てもキャロル様。こんなに人が居る中から私を探せたんだと、感心してしまったのだが、矢っ張り遭遇してしまったという気持ちも大きかった。
 参加するだけして、そそくさと帰るつもりだったから。


「久しぶりです、キャロル様」


 私は、キャロル様にお辞儀をし挨拶をする。シェリー様も同じように後ろで頭を下げていたが、挨拶をし終えると「じゃあ、あとは二人で」といって私を残していってしまった。シェリー様が私の元を去ったと同時に、刺さっていたロイさんからの視線は消えて、安心感を覚えた。監視されるって辛い、と思うと同時に、次は、キャロル様の相手を……しなければならないと。


「どうしたの? アドニス」
「い、いえ。人が大勢いるところは苦手でして。酔ってしまって」
「そうか。なら、外に出る? 二階のテラスは人気が無くて静かで良いよ」


と、キャロル様はにこりと微笑んでくれた。

 そうしたいのは、山々だったが、二階のテラス、と聞いたときキールと皇太子殿下……ライラ殿下の姿が浮かんで首を横に振った。


「いえ、先ほど人影を見まして。多分、先客がいるのだと思います」
「凄いね」
「す、凄いですか?」
「人間観察が得意なのかなって思って、それって一種の才能だと思って」


 そういってキャロル様は私を誉めてくれた。 
 人間観察が得意って凄い、才能なのだろうか。誉められても微妙だなあ何て思いつつ、素直に誉めてくれるキャロル様のことを考えると「ありがとうございます」という言葉しかでてこなかった。人間観察が得意、というより人の顔色を伺って生きてきすぎたせいで周りを見る癖があるというか、周りに気を配りすぎているというか。自分ではあまりいいとは思っていないことを誉められて複雑だった。
 顔を上げれば、キャロル様の美しい顔がある。


「そ、それで、何の用でしょうか」
「これを言うためにここに来たんだ。僕と一緒に踊ってくれないかな」
「えっと、ダンスのパートナーと言うことでしょうか」
「アドニスがいいと思って」


と、にこりと笑うキャロル様。

 差し出された手を私は取れずにいて、キャロル様の顔と手を交互に見る。
 正直言うと踊りたくない。ダンスなんて、前世でもやったことがないし、練習を詰め込んでようやく形になったが、踊れる気がしない。第二皇子と踊るとなれば、それはもう注目されるに違いないし。


(キャロル様と、関わりたくないな……)


 キャロル様が嫌いというわけじゃないけれど、これ以上関わってはいけない気がしたのだ。戻れなくなると、警報が鳴っている。


「ダメ? かな……」


 そう、眉を下げていったキャロル様の顔を見ていると、私の中でこれまでこんがらがっていた糸がぴんと張るような気がした。


「は、はい。喜んで!」


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