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第1章 こんな転生聞いてません!!

09 話が急すぎます!

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(ん、今なんて?)


「へっ!? ち、違いますよ!?」
「君が振り向いてくれるまで、君を落とす努力をすることにするよ」
「だだだ、ダメです!」


 落とせば良いんだね。確かにそう聞えた気がしたのだ。聞き間違いじゃなければ。いや、聞き間違いじゃないな、これはと。
 そう思ってキャロル様を見れば、本気と伺える目をしていた。ああ、これはマジな奴なんだな……と、彼の二つの碧眼を見て察する。


(だから何で私!?)


 ギュッと捕まれた手を握り返されて、キャロル様を見ると、彼はにっこりと笑みを浮かべていた。
 その笑顔が、今は何故かとても怖かった。


「何でだい? 君は僕のことが嫌い?」
「き、嫌いではないですけど……」
「なら、好き?」
「すすすすす、す、すきでもないです!」
「そうなの?」 


(いいえ、違います。本当は大好きです!)


 キャロル様は首を傾げながらそう言った。

 ああ、どうしよう。
 この人、多分本気で私を落としにかかってくるぞ……

 シナリオから脱線することはまず無いと思っていた。と言うか、何でこんなことになっているのか、未だに理解できずにいる。
 何で、キャロル様は私にそこまで執着というか、興味を抱いているのか。身体の相性が良いというのであれば、他にもいるのでは無いかと思ってしまったのだ。というか、そんなことだけで、興味を抱かれるのも何だか複雑である。


「そっか。僕は、君に興味を抱いているんだけど」
「そ、それは、恐縮です」


 私は、そう言って縮こまることしか出来なかった。 
 嬉しくないと言えば嘘になるのだが、ただの好奇心で関係がずるずるいって、戻れないところまで来てしまったら。それから、ぽいと捨てられてしまったら。そう考えたら怖くて、彼の手を握り返すことが出来なかった。


(私はモブ。私はモブ。私は不遇令嬢なのよ。こんなの間違ってる!)


 不遇令嬢というレッテルを貼られ、そういう役回りをさせられるだけの登場人物。当て馬とか、物語を加速させるためだけの材料で、私が幸せになる未来なんて無い。それは、決定事項だ。だって、これまで私が転生するまでは物語通りいっているんだから、今更脱線しないだろうと。


「だから」
「だから、とかそういう問題ではないので。わ、私は今日はこの辺で失礼させて頂きます」
「ちょっと、アドニス」
「さ、触らないで下さい!」


 思わず、パシンと手を払ってしまって、サーッと身体から血の気が引くのを感じた。
 幾らなんでもキャロル様の手を払うなんて、不敬にも程がある。キャロル様に何かされたわけでもないのに、私は何をしているんだろうと。そう思ってキャロル様を見れば、彼は驚いた表情をして固まっていた。


「ごご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。お、お怪我は……」
「大げさだなあ。アドニスは。大丈夫だよ。でも、僕こそごめんね。嫌だったんだよね」
「い、いえ……嫌というわけでは」


 言い訳苦しかった気がする。
 腕を捕まれそうになって、悲鳴を上げながら手を叩いたのだから、これで嫌じゃないとするなら何なのかと言う話になる。照れ隠しで手が出るとかそれもどうかしている。いや、それが可愛いと思う人もいるだろうけど。


(じゃなくて、本当に……)


 ここで、私から興味が失せてくれればいいと思ったのだが、キャロル様は、眉をハの字に曲げるばかりで、全面的にこちらが悪いという風な顔をしていて、何とも居心地が悪かった。
 顔がいい人にさせちゃいけない顔をさせている。そして、推しを困らせたという罪悪感から、私の頭も胸もパンクしそうだった。


「まあ、婚約……結婚ともなれば、両家の事もあるし、僕達だけの問題じゃないからね」
「け、結婚!? 何故、そこで結婚が出てくるんですか!?」


 話が飛びすぎている。
 キャロル様って元々こんな性格だったっけと疑うぐらい。もしかしたら、別人なのではないかとも思えてきた。でも、確かに乙女ゲームをやっているとき、心を開いた人には、ちょっと阿呆な姿を見せていた気がする。
 でも、これは何でも……


「その、私達付合っていませんし、婚約だってしていませんから」
「そうだね……」
「分かってくれましたか?」
「じゃあ、婚約すれば良いんじゃないかな」
「分かってないですよね、絶対!」


 だから、何でそうなるんだと言いたかった。
 だって、身体の相性が良い女性にここまでするのかと。それも、グイグイと押し進んでくるところを見ると、少し怖いものがある。男の人に対しての耐性がなくて、二次元限定で恋をしてきた身としては、やはり二次元が現実になったとはいえ、現実の男性が押し迫ってくるところはやはり怖いと思う。
 積極的な男性がダメだとは言わないけれど、どうも、下心が見え隠れするというか。まあ、キャロル様がそう言うのではないとは分かっているけれど、圧が強いのは変わらなかった。


「あの、落ち着きましょう。多分、まだ魔力が落ち着いていないので、ハイになっているんじゃないでしょうか。だから、落ち着いてからまた話しましょう」
「落ち着いていても、気持ちは変わらないと思うけど」
「……取り敢えず、今日は帰らせて下さい。私も、気持ちの整理をしたいので」


 婚約を受け入れる? と、キャロル様はわざとらしくいった。そうじゃないと、私は彼を睨み付けて、服を着る。思えばずっと半裸の状態で話していたのだ。行為のあとだって分かっているけれど、ピロトークをするにしては白熱しすぎて、全くそういうよかったねとかいう内容じゃないので、もうこのまま帰りたい。私の初めては(まあこの身体の持ち主のアドニスもそうなのだが)行為中に転生したときだしあの時は、キャロル様も普通ではなかった。そうして、また身体を重ねたのだが、性欲処理係だから、ピロトークも何もないそもそも、そういう関係ではないので、なくていいのだ。けれど、どちらも認識がずれているようで、今みたいな会話が発生してしまう。
 キャロル様限定で、彼の体質のことを考えると、抱かれることに理由はいらなかった。でも、キャロル様は私を抱くことに理由があると言いたいようだった。
 私は、そそくさと服を着て、ベッドから降りようとしたところで、キャロル様に声をかけられる。


「また、呼び出したら来てくれるのか。君は」
「どうでしょう。ですが、キャロル様の命に関わることなら、呼んでください。私は、貴方の『そういう係』だと思っているので」


 少しだけ、冷たくいってやれば、それ以上キャロル様から何か言われることはなかった。
 これでいい。これぐらい突き放せば、キャロル様も諦めてくれるだろう。


(でも……)


 部屋を出て、ずるずると、扉を背に倒れ込む。


「推しには嫌われたくないなあ」


 両手で顔を覆って、私は誰にも聞えないくらい小さな声でそう呟いた。


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