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第1章 こんな転生聞いてません!!

08 そういう問題ではありません

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「――――えっと、話をまとめると、僕と君はその『そういう関係』ってことだよね」
「はい、そうです」
「はあ……一体誰が言い出したのだか」


 セフレと言うと何だか生々しく感じるため、どちらもそれを口にしなかったし、そもそもその言葉がこちらの世界にあるかどうかも不明だった。だが、その言葉をキャロル様が言うと思うと耐えられないので、私は取り敢えず『そういう関係』である、と濁した。
 これ自体やましいことなので、やましい関係ではないと言い切れないし、ふしだらな女だと私は周りから白い目で見られるかも知れない。このことが広まるのも時間の問題だろう。貴族は噂が好きだから。


「それで、君は……アドニスはそれでいいのか?」
「それで、大丈夫です。キャロル様が大丈夫なのであれば」


 私が笑って返せば、キャロル様は再度頭が痛いというように額に手を当てていた。


「頭痛いんですか?」
「うーん、君のせいでね」
「わ、私のせいですか!?」


 何か不味いことしただろうかと、思い返してみるがこれと言って覚えがなかった。そんな風にあたふたとしていれば、キャロル様は乾いた笑みを零す。


「君は、鈍感なんだね」
「鈍感ですか……? 初めて言われました」


 寧ろ、鋭い方だと思っていたんだけど。
 目をぱちくりさせれば、キャロル様は大きなため息をついた。ため息をつく姿も絵になるなあ何て馬鹿な事を思っていると、キャロル様は立ち上がって私の方へ歩いてきた。思わず身体が反応してしまう。


(えっと、えっと、何かした!?)


 怒ってるのか、何なのかも分からず身構えて居たら、キャロル様は私の隣に座って私を抱きしめてきた。


(えっ、キャロル様?)


 突然のことで思考が追いつかず、されるがままになっているとキャロル様は私を離し、真剣な眼差しで見つめてくる。
 私は、何を言われるかドキドキしながら待った。


「こんなことになってしまって責任は取ろうと思っている。この間は勝手に呼び出して悪かった。君との初めての夜の時もそうだったけど、君に何度も謝りたかったんだ」
「謝りたかったってそんな、滅相もないです……私がしたくて、しただけのことですから」


 いや、今の発言は何だか誤解を生みそうだ。そう思った時には遅くて、キャロル様も目を丸くしていた。
 私は慌てて訂正するためにキャロル様から少し距離を取る。


「ああ、えっと、そのひ、人助けっていうことです!その、身体を重ねたい……とか、そう言うんじゃなくて、ただたんに、そのさっきも言ったみたいに、キャロル様のことを思っての行動で」


 これで何とかごまかせただろうか。

 キャロル様を放置したら本当に死んでしまうかも知れない。そう思ったら、自分の身体のこととかよりも推しであるキャロル様のために尽くしたいと勝手に動いてしまったのだ。だから、キャロル様が負い目を感じることも、何もない。そう私は伝えたかったのだが、キャロル様の顔は暗いままだった。
 もしかしたら、こんな言い訳聞きたくなかったのかも知れない。それか、私に失望したか。
 どっちにしろ、もともとアドニスは不遇令嬢でキャロル様にも避けられていたし……
 そう思っていると、キャロル様は私の手をそっと取って口づけをした。まるで、忠誠を誓うかの様な仕草でどきりと心臓が跳ねる。


「アドニス、君はもっと自分を大切にしてくれ」
「へ?」
「君に酷いことをした自覚はある。でも、嫌なら嫌だって言ってくれ……歯止めが利かなくなるんだ、君を見ていると」
「ええっと、どうしてです?」
「どうしてって、僕は君のことが」


 そう言いかけたキャロル様の口を思わず塞いでしまった。
 その後、何となく言われる言葉が分かってしまったから。自意識過剰かも知れないし、そんなこと言わないかも知れないけど、もし言われてしまったら……そう思うと、この言葉を言わせるわけにはいかなかった。
 もごもごと、口を動かすキャロル様。くすぐったくて、私は手を離してしまった。


「ぷは……アドニス?」
「あ、あの、自意識過剰かも知れませんし、自惚れかも知れないんでけど! 私はそういう関係にはなれません」
「……どうして?」
「きっと、キャロル様にはもっといい人が現われるからです!」


 ヒロインとか……

 望みは薄いけれど、キャロル様が生きていると言うことはヒロインが攻略できる可能性もあると言うことだ。だから、ヒロインが私の前に立ちふさがったとき、私は何も出来なくなるだろうから。なら今のうちに割り切っていた方がいいと思ったのだ。
 恐る恐るキャロル様を見れば、彼は呆然としていて。私はその隙にキャロル様から離れようとした。
 だけど、腕を掴まれてしまいそれは叶わなかった。


「アドニス、僕の何処がダメなのか教えて欲しい」
「ダメなところ何てないですから!」


 くぅん、と捨てられた子犬のような目で見られたため、直視して目がつぶれかけてしまった。
 そんな顔も出来るなんて反則だと、私は歯を食いしばる。
 ダメなところが何処か教えて欲しい? そんなの無い。見つけようと思っても一生見つかる気はしなかった。でも、ダメなのだ。何でキャロル様が私に興味を持ったか分からないけれど、シナリオから外れることは決してないだろうから。シェリー様が、皇太子を攻略できなかったように、きっとヒロインハーレムがその内形成されると私は思っている。 
 キャロル様の一時期の気の迷い。そういう風にして思っておかないと、後々後悔することになりそうだと。


「じゃあ、何で」
「私は、ただの性欲処理係なので。それ以上でもそれ以下でもありません。なので、キャロル様とはお、お付き合いできません」
「…………分かった。なら、僕が君を落とせば良いんだね?」

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