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第1章 こんな転生聞いてません!!

07 期待しちゃダメだから

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「……う、立ってられない」


 子鹿のように足をぷるぷる震わせながら私は、自室のベッドに倒れ込んだ。
 昨晩キャロル様と激しい夜を過ごしたせいか、腰も足も今まで感じたことないほどにジクジクと痛んでいた。すまなかったと、キャロル様の魔法で腰の方は何とか治してもらったのだが、体力的に全て搾り取られたという感じだった。


(ぜ、絶倫すぎる……!)


 元からそういう設定だったのは知っていたし、攻略キャラの中で群を抜くほどの体力お化けということは理解していたけれど、まさかここまでとは思わなかった。もう一回と何度強請られたことか分からない。これは、このアドニスの身体じゃないととてもじゃないが耐えられないのでは無いかと思った。並大抵の人がキャロル様に身を捧げたら腹上死してしまうと。
 でも、自分で引き受けたことだしまだ生きているのだから、きっとこれからも呼び出されるんだろうな……とは、遠い目をしながら思っている。
 もうあんなことはしたくないと、思う反面、あの快楽が忘れられなくて困っている自分がいることにも気づいていた。


(だ、駄目だわ……キャロル様のことを考えちゃ……!)


 昨晩の事を思い出すだけで、お腹の中が熱くなっていく。それを誤魔化すかのように、私は枕を思いっきり抱き締めるとそのまま眠りについた。パパ様には疲れているから休みます、と伝えておいた。それがいけなかったのか、もの凄く心配されて主治医を呼ぶかとか何とか言われたため、逃げるようにして自室に籠もった訳なのだが。果たして一日で疲れが取れるだろうか。


(まあ、朝起きたときよりかは大分よくなったし、このまま寝ればどうにか……)


 そんな頻繁に呼び出されないだろうと、キャロル様が出撃するときはかなり苦戦を強いられる戦いだろうし。何て私は勝手に決めつけて眠りについた。
 しかし、これが私の受難の始まりだったのだ。


「体調の方が悪いと聞いて、見舞いに来たんだけど……その様子じゃ大丈夫そうだね」
「きゃ、キャロル様、どうしてこちらに……!?」


 あれから二日後だったか。メイドが慌てて私の部屋をノックしたため、何事かと思ってせっせ、せっせと身支度済まされ、応接室に行けばそこにはキャロル様がいた。私を見るなり、爽やかな笑顔で手を振ってくれてそれだけで心臓が飛び出そうになったのだ。推しが自分に向け手を振ってくれるという感覚、一生味わえないと思っていたから、心臓に悪い。


(――――じゃなくて!)


「あ、あの、今日はどういったご用件で?」


 身体は完全に硬直してしまい、笑顔なんて繕える余裕なんて無かった。心なしか、口角が上がっている程度で、どうしてここにキャロル様がいるのか不思議で仕方なかった。そんな昼間から、要求されないよね? なんて、キャロル様をそこら辺の猿だと思っているのかと、失礼な想像が頭の中をよぎった。


「取り敢えず、座ったら? 客人の僕が言うのも何だけど、体調が悪かったみたいだし、座った方がいいよ。風邪はぶり返すかもだしね」
「は、はい。では、お言葉に甘えて」


 私は、キャロル様に促されるままソファーに腰掛けた。
 客人……ということは、パパ様がオッケーしたのだろうかと。あのパパ様が、オッケーする様子が想像できなくて申し訳ないが、通されたと言うことはそういうことなのだろう。というか、何で私が仮病だったけど、寝込んでいることをキャロル様が知っているのだろうか。


(そんな、私に気遣わなくていいのに)


 発情さえしてなければ、キャロル様は爽やか好青年で、そりゃあ凄いおモテになるだろう。その王子様スマイルにやられたうちに一人だからよく分かる。だけど、夜は絶倫で言葉攻めが凄いSになる。そのギャップもたまらなくていいんだけど、今回はそういう問題じゃない。


「ええっと、何でキャロル様は私が寝込んでいると知っておられるのですか?」
「うん?」
「え、えっと……」
「侯爵から言われたんだ。うちの娘に何をしたってね。ありのままに話すのはあれかと思ったんだけど、侯爵も僕の体質のことを知っているから。まあ……」


と、言葉を濁しつつキャロル様は私の方を見た。

 ああ、全部察した。と私は、苦笑いを浮べるしかなかった。
 パパ様にもこの関係のことがバレてしまったと。でも、パパ様は何も言わないところを見るとかなりショックを受けているらしい。超過保護だが、精神的ダメージを喰らうと、口数が減ってしまうのだ、パパ様は。


(結婚もしていない、婚約もしていない男女とそんな関係になってたら父親だし悲しい気持ちになるというか、複雑だよね……)


 私からは何も言えない。
 せめてもの行動でか、キャロル様に娘が寝込んでいるのはお前のせいだと言ったんだろう。それで、キャロル様が見舞いに来たと。


「矢っ張り、可笑しいよね」
「何がですか?」
「婚約も結んでいない男女が、そういう関係になるのって。それも、皇族と貴族で……僕はどう言われようが良いんだけど、君の方は」


と、キャロル様は私を見た。

 申し訳なさそうに眉をハの字に曲げるため、私は首を横に振る。別に、私はキャロル様とならそういう関係になっても構わない。だって推しなんだもん。それに、キャロル様となら良いかなって思っている自分がいるのだ。でも、世間体を考えると貴族社会、こういうのはダメなんだろうなとは思った。
 けれど、誰かが買って出るしかない役なのだ。少なくとも、キールがその役を担わず、キャロル様と結ばれないというのなら。


「だ、大丈夫です! 私は、えっと、気にしなくても大丈夫ですから!」
「えっと、だから、僕は提案をしようと――――」
「誰かがかって出ないと、キャロル様の身体が大変なので! 寧ろ、キャロル様の命を助けられると思うと身に余る光栄なので!」
「あ、アドニス?」


 思わず、後先考えずにそう叫んで立ち上がってしまった。キャロル様は、落ち着いてと言わんばかりに私を見ていて、呆気にとられていた。


(ああ! また余計なこと言っちゃった気がする!)


 蛇足もいいところだった。
 これでは、ただのビッチにみえても仕方がない。貞操観念低い女と思われても仕方がない。


「きゃ、キャロル様……そういうことなので、お気になさらずに」
「い、いや……アドニス」
「身体の相性が悪いのであれば、この役はおります」
「ごめん、ちょっと落ち着いて貰っていいかな」


 キャロル様が私の肩を掴み、必死の形相で止めてくれたため、何とか冷静さを取り戻すことが出来た。


「落ち着くって何故ですか?」
「何故って、君は勘違いしてるから」
「勘違いも何も、私とキャロル様は婚約関係にあるわけでもないですよね?」
「……はあ、アドニス。君は」


 そこまで言うと、キャロル様は諦めたように席に座った。
 何て言いかけたのか気になってしまったが、私は知らないフリをして席に座り直した。


(うん、そう。期待しちゃダメ)


 そう言い聞かせ、私は息を吐いた。

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