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第1章 こんな転生聞いてません!!
04 彼女は心強い味方です
しおりを挟むシェリー様は、私に「貴方は転生者よね?」ともう一度口にし、私の返答を黙って待っていた。
彼女と出会ってからの違和感が少し緩和されたような、分かったような気がして私は俯きながら「何故そう思うのですか?」と質問を質問で返す形で、彼女に尋ねた。
すると、シェリー様は少し困ったような表情で笑わないでね。と念を押した後言う。
「女の勘よ」
「女の勘ですか」
「ロイを見て驚いてたから。彼が、攻略キャラではないのに、格好いいとか……思ったでしょ」
と、シェリー様は私に問いかける。私は、こくりと静かに首を振るとシェリー様はやっぱりね。と言って続けた。
「でも、ロイは私の恋人だから! あげない! 渡さない! 色目は絶対使っちゃダメ!」
そうシェリー様はバンッと机を叩きながら叫んだ。その行動に私はあっけにとられ、ぽかんと口を開けてしまう。
そんなシェリー様の行動に私は驚きつつも、さきほどロイさんが私のことを見ていたから私が色目を使ったのではないかと誤解しているようだった。
(いや、使ってないし、寧ろ睨まれていたというか嫉妬を向けられていたというか……)
ロイさんの視線、あれは完全に嫉妬からくるものだった。
シェリー様の嫉妬心なんか目じゃないほど、狂気や執着を感じたのだ。あの時のロイさんの目を思い出してしまい、背筋が凍りつく。
女性である私にすら嫉妬心を向けているところを見ると、かなりロイさんはシェリー様に惚れ込んでいるようだった。
そうとは知らず、シェリー様はロイさんの話を続けるが、話が反れてしまったことに気がつき、また咳払いをして話を戻す。
「それで、貴方は転生者……なのよね」
「はい、ここは乙女ゲームの世界ですよね。『聖女様は今日も愛される』っていう乙女ゲームの」
「そう! やっぱり、そうなのね……私、勘が冴えてる」
と、シェリー様は嬉しそうに言った。
どうやら、その口ぶりからするに彼女も転生者らしい。
だが、不遇令嬢に悪役令嬢と二人とも外れクジを引いたも同然で、乙女ゲームに転生したというのに全然良いことがなさそうだ。
ああ、でも、シェリー様がロイさんと付合っているわけだから良いことがないわけではないだろう。寧ろ、愛されているなら尚更。
私達はお互いにため息を吐いた後、顔を見合わせ苦笑した。
なんでも、シェリー様は一年ほど前からこの世界のシェリー・アクダクトに転生し、一年の間頑張って攻略キャラの好感度を上げてどうにか結婚まで持っていこうとしていたらしい。しかし、結果は見ての通りで惨敗。
「皇太子狙いだったんですね」
「そうよ! だってあの中じゃ、一番格好いいじゃない! でも婚約破棄だーって! 一年の努力がパーよ」
そう言いながらシェリー様は泣き真似をする。
まあ、確かに皇太子はイケメンだし、このゲームで一番人気のキャラだったけど。
「私は、キャロル様が好きでした……あ、あ、このゲームの中で」
「あー分かる! 皇太子の弟だもんね」
「それで……その、先日、キャロル様と」
「うん?」
私がそこまで言うとシェリー様は首を傾げる。
私は、昨日のことを思い出して顔を赤くさせながらも、先日起こった出来事についてシェリー様に話すことにした。
するとシェリー様もみるみるうちに顔を赤くさせ、口をパクパクと動かし言葉を失っているようだった。
それから、私とシェリー様の間に沈黙が流れる。
「そ、それって、つまりそういうことなのよね」
「そういうことだと思います」
と、互いに顔を見合わせながら赤面するが、次の瞬間には二人とも机に突っ伏す形でうなだれる。
「多分、言っちゃ悪いけど、アドニスの方が私より外れキャラだと思う。私は断罪とか処刑とか死亡エンドある悪役令嬢だったけど、私にはロイがいるし」
そう、惚気も混じりながらシェリー様は言う。
私だってそれぐらい分かっている。シェリー様が今の時点で生きていて、恋人がいるのは驚きだったが幸せそうだし、それに比べ私は好きな相手の性欲処理に付合わされる羽目になっている。
嫌なわけじゃない。でも、そこに愛はないんだろうなと思うとやはり虚しい気持ちで一杯になってしまう。
不遇で不幸な令嬢。
容姿だってそこそこよくて、地位もあって魔力量もそれなりにある。
でも、親友がヒロインである聖女というだけで扱いが雑になってしまっているのだ。本来ならもっと、輝けるはずなのに。
私に待っているのは、腹上死だけか。
「あっ、でもそういえば……ヒロインの態度が少しおかしかったんですよ」
と、私はふと思い出したことを口にした。
この間ヒロインであるキールにあったとき、明らかにゲームとは違う性格の彼女に戸惑ったこと。そして、彼女が私に対して何か隠し事をしていること。
私がそう伝えるとシェリー様は顎に手を当て考え込む。
「そう? 一年ここにいたけど、ヒロインに可笑しな言動はなかったと思うけど」
「そう、ですか……でも、あれは明らかにキールじゃないって思いました」
(見間違いとか、そう言うんじゃない。まるで、中身が違うような……)
私はそう思うが、シェリー様は私の話を聞き流しているのか、それとも興味がないのかは分からないが私の方をちらりと見ただけだった。
まあ、シェリー様が一年いて可笑しいことはなかったというのだからもしかしたら本当に私の見間違いなのかも知れない。
けど、やはり疑惑や違和感は拭えない。
乙女ゲームの知識を持っている転生者だからこそ、その不自然さに気づくことが出来きるのかもしれない。きっと、シェリー様も今のキールにあったら何か違うと気づくはずだ。
そう思い、彼女に詳しく話してみると、シェリー様は今度会う機会があったら確認すると約束してくれた。
それからは、他愛もない話しをし時間を過ごすことになった。
転生してから困ったこととか、私へのアドバイスとか。
でも、大半はシェリー様の惚気話だった。
「ヤケ酒した勢いで一夜を共にして……ですか?」
「うぅん……そうなの。だから、初夜のこと覚えてなくて。きづいたら、しょ、処女喪失……してた、みたいな」
「私と一緒ですね」
私の場合は行為中に転生してしまって、気づいたときにはもう身体が繋がっていたという訳だが。
それにしても、シェリー様はやってることはやってるのに、初々しいというかなんと言うか。先ほどのロイさんの言葉に過剰に反応しているところを見ると、そういったことに慣れていない様子だった。
私だって、あれが前世でも今世でも初めての体験だったわけだが。
というか、女の子同士のお茶会でこんな生々しい話をしていて良いのだろうか。もっと、可愛らしい話とかあるのではないかと、少しばかり疑問に思ってしまったが、どうでもいいと流すことにした。
シェリー様は自分で話し始めたのに、恥ずかしいのか顔を赤く染めながら俯いている。可愛い人だなと思いつつ、シェリー様の話は楽しく聞けた。
「それで、私が言いたいのは、過ちを犯してもそれから挽回できるって事! キールが皇太子ルートを走ってるなら、アドニスにもキャロル様を攻略するチャンスはあるってこと! だから、アタックしてみたらいいと思う!」
そう言いながら、シェリー様は私の手を握る。それから、何かあったら相談してとも言ってくれ心強い味方が出来たなあと、不安でいっぱいだった私の心は少しだけ温かくなった気がした。キールがあんな性格と態度を取る以上、私が頼れるのは同じ転生者のシェリー様の方だと思えたからだ。
私は、シェリー様に再度お礼を言い、その日は解散することとなった。
それから、帰路についた私は皇宮から手紙が届いていると渡され、自室に戻りその手紙の封を切った。差出人は皇太子殿下だった。
内容は、明日第二皇子が戻るから皇宮に来て欲しいと言うものだった。
皇太子殿下の誘いなら断ることは出来ないし、キャロル様からも用意をしておいてと言われたためもうこれは腹をくくるしかないと私は入念にお風呂で身体を洗って貰い、髪もいつも以上に綺麗に乾かしといて貰い、あれやこれやと身なりを整え寝ることにした。
きっと、明日は眠ることなんて出来ないだろうから。
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