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第4章 飼い慣らして嫉妬
07 ロブロイside
しおりを挟む(手ごえの無い相手だ……)
シェリー様に優勝を誓って参加した剣舞大会。こういった催し物には始めて参加することもあり、自分が場違いなのではないかと思ったときもあった。けれど、シェリー様と約束した以上、俺は優勝を彼女に捧げなければならない。約束は約束だ。俺が守らなければ、彼女は失望するだろう。彼女の失望は、俺への信頼を損ねることにも繋がる。
俺は、どうしても勝たなければならなかった。
(愛しの人の為に、この剣を捧げられるのなら……これ以上幸せなことはない)
彼女が俺を望んでいる。俺の勝利を望んでいる。俺が強いと、そう信じてくれているから、この大会に出てみないかといってくれた。彼女は最近退屈そうな顔をしていたから、ここで彼女の気を引くのは、これからも彼女の隣にいる上で必要なことなのでは無いかと思ったのだ。
何百、何千という中からでも、俺はシェリー様を見つけることが出来た。シェリー様を見つけることが出来ないなんてことは絶対にない。何処にいても、必ず見つけられた。俺だけの宝物。俺だけのシェリー様。
順調にトーナメントを勝ち上がることが出来たが、骨のない、手応えのない相手ばかりで正直拍子抜けした。面白みも何もない。こんなので勝っても、当然だと、シェリー様に言われるだけだと思った。彼女を退屈させてはいけない。彼女を喜ばせなければならない。
ならば、俺は、強敵を打ち倒し、その上で彼女に勝利を捧げなければと。
「次が、最後か……」
靴紐を結び直し、鞘にしまってある剣の柄を握る。相手はどんな奴なのか。
今までの試合を見ても、大したことなかった。だが、油断はできない。どんな相手が来ても、全力で倒すのみ。それが、シェリー様の為になるのだから。
歓声が上がる。
最後の対戦相手が姿を現した。銀髪の、俺よりも少し背の高いがたいのいい男。その男に、俺は一度会ったことが会った。いや、一度だったか二度だったか。確かにその男とは言葉を交している。俺は、シェリー様以外興味が無いから人の顔と名前はすぐに記憶から削除するのだが、彼だけは残っていた。
(キャロル・デニッシュメアリー第二皇子の護衛騎士、クリス・アフィニティ……か)
あの、陽気で魔法に長けた第二皇子が直々に選んだ護衛騎士。彼の強さは、噂で聞いている。キャロル殿下も、皇太子であるあの憎きライラ殿下も認めた男。
そんな男に、俺が勝てたら――
(シェリー様は、さぞ喜んでくれるだろう)
ゾクゾクと、今まで感じたことのない興奮が俺の中を駆け巡る。シェリー様を抱いているときとはまた違う、スリル。俺の中の悪魔の血が、強者を求めて暴れているのかも知れない。元々、悪魔は好戦的だった。強い人間を好んでいたから。きっと、俺もそうなのだろうと。
今からクリスと戦うのが楽しみで仕方がなく、俺は自然と口角が上がる。シェリー様には見せられない凶暴な俺。
試合開始の合図が鳴る。
同時に地を蹴り、距離を縮める。クリス様は、一瞬驚いたような表情を見せたが、冷静に腰に差していた剣を抜き、構えをとった。
「流石、悪魔の血を受け継ぐ男といった所か」
「その言い方は嫌いです。差別されているみたいなので」
お喋りな男ではなかったはずだが、クリスの方から、話しかけてきた。
「それはすまなかったな。しかし、お前は悪魔と人間のクォーターなのだろ?」
「……否定はしません」
それと、この戦いに何か関係があるのか気になるところだったが、雑念がはいってしまえば、集中力が途切れると、俺は柄を握る手に力を込める。もしかしたら、彼は、ここまで勝ち上がってきたのが、悪魔の血のおかげだといいたいのだろうか。
剣が交われば、そこに言葉はいらないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。俺は、まだ戦いに集中しきれていないのかもしれない。
再び、攻撃を仕掛けるが、それを彼は受け止める。俺は、力では負けてしまうので、上手く受け流すように攻撃を仕掛けるしかない。力で勝てない分、俺は彼の次の攻撃を読むが隙が無い。
俺は一旦後ろに下がり、体勢を整えるため距離をとる。クリスも同じように、息を整えているようだ。彼は、やはり強かった。今まで戦った剣士の中で一番と言ってもいいほど、彼は強い。
「ここまで、熱くなれたのは久しぶりだ。俺を本気にさせたのは、貴様で二人目だ。ロブロイ・グランドスラム」
「……俺は、一番じゃ無きゃ嫌です」
「何だと?」
二番手なんて嫌だった。
シェリー様との約束があったが、俺はそれよりも先にこの男に強いと、俺の存在を示したいと思った。今までの、相手の攻撃を読む戦いから、相手が思考をする時間を与えない攻撃のパターンに変えようと俺は考える。その分俺は、自分の思考回路を拘束で回し続ける必要があり、思考が途切れれば、その隙を狙われるという弱点がある。俺が選ばない戦い方。
けれど、捨て身にでもならなければ、今の自分を捨てなければこの男に勝てないと思った。勝ちたいと、そんな気持ちがわいてくる。俺は、自分自信冷静な人間だと思っていたが、こんなに熱くなれるのだと知ってしまった。
(シェリー様には、感謝しなければ……)
勿論、一番はシェリー様だ。だが、この瞬間だけは、ただ勝つことよりも、この男に自分の存在を脅威的なものとして植え付けたいと。
地面を蹴って、俺は一気に間合いを詰める。クリスは、俺の攻撃に少し反応が遅れているように見えた。
(いけるか?)
だが、相手も俺の攻撃に適応し、クリスの剣が俺の頬すれすれに通り過ぎていく。
「ッチ……」
俺は舌打ちをして、クリスから離れようとするが、それを許すはずもなく、クリスの追撃が俺を襲う。俺は、必死にクリスの攻撃を捌きながら、何とか避ける。
防戦一方の戦い方は、俺の性には合わない。俺は、もっと攻めていきたいのだ。俺は、守りではなく、勝つために、剣を振るうのだ。
「……っ!」
クリスの剣が俺の肩をかする。少しだけ血が滲み出てきたが、これくらいの痛みはどうってこと無い。だが、このまま攻撃を受け続けていれば、いずれは体力も削られ、動きも鈍くなる。
「ふぅー……」
大きく深呼吸をし、柄を握る手に力を入れる。シェリー様の視線が俺に刺さる。勝ってくれと、祈りを捧げているように感じる。
俺は、優勝しなければならないのだ。シェリー様の為に。そして、俺自身の為に。
「はぁああああっ!」
今までで一番大きな声を出して、俺は目の前にいる男を倒すべく、地を蹴りあげた。
クリスは一瞬反応が遅れたが、これが最後だと、彼も俺に向かって走ってくる。俺が狙っているのは、彼の懐だった。
俺は勢いよく剣を振り下ろすと見せかけて、彼の剣を避けた。そのまま彼の横を通り抜け、背後に回る。俺のスピードについて来れなかったのか、彼は驚いている様子だった。
「……くっ」
「……ッ」
けれど、彼は俺の想像を超えていた。俺の最後の意表を突いた攻撃にすら反応したのだ。そして、最後の最後で反応に遅れた俺は、クリスの攻撃を受け、その場に倒れる。
わーッ! とあがる歓声と拍手。だが、その歓声と拍手は俺に向けられたものではない。勝利を掴んだ、クリスに贈られるものだ。例え、この戦いが観客達の望んだ熱いもので、俺達二人に対して祝福を送っているのだとしても。
俺は負けたのだ。
(悔しい……悔しい、悔しい、悔しい……!)
「う……ぅ……」
「いい、試合だった。ロブロイ・グランドスラム。貴様は……強い。誇って良いぞ」
いらない、そんな言葉、惨めになるだけだ。
俺は、固い地面に爪を立て、自分の敗北を受け入れざる終えなかった。
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