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第3章 一難去ってまた一難

07 目覚めない婚約者

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 ベッドに横たわっている婚約者を見て、私は何を思えば良いだろうか。

 私を狙ったんじゃなくて、明らかにロイを狙った犯行だったと聞かされて、さらに頭を抱えた。分かっていて、助けてくれた。自分しか狙われていないけど、もしもの可能性があったから、私を庇うように立った。ロイらしい咄嗟の判断だった。
 まさか狙われている何て思わないし、襲われるなんて思っていなかった。それは、私の落ち度だ。
 あそこは、人気の少ないバーで、二人で飲むにはちょうどよかった。マスターとも顔見知りで、彼は口が堅い人だったし、彼が情報を流したとは考えにくい。だから、付けられていたか、それとも偶然発見したかのどちらかだろう。それはいい、だが、人気の少ない所というのがポイントで、夜で視界も悪かったし、狙うにはうってつけの時間と場所だったんだろう。私達も油断していたし。


「ロイ……」


 自分のせいだと責めてしまう。こうなったのは私のせい。もし、目覚めなかったら?
 私は、冷たくなったロイの手を握りながら、祈ることしか出来なかった。その様子を扉の向こうからミモザや他のメイド達が心配そうに見ているのが感じられた。ロイが倒れてから、一睡も出来ず、お父様にも心配されたが、私はロイの元をはなれられなかった。


「シェリーちゃん」


 そう、私の名前を呼んで肩を叩いたのはカーディナルだった。


「かーでぃ……なる、さん」


 彼女が何故ここにいるかは、お父様から聞かされた。ロイの変わった出生や、医療に精通した人物だから、公爵邸に呼ばれたのだと。確かに、カーディナルなら信頼できる。彼女は、ちょっと失礼、と言ってロイの様態を確認する。それから、暫くして深刻そうなかおをする。


「傷口は思ってより浅いけど……これは、毒だね。ある程度は中和して、進行を遅らせているけどどうなることやら」
「そ、そんな! ロイは……ッ!」


 遠方から駆けつけてくれたカーディナルは、赤く長い髪を揺らし、ベッドで死んだように横たわるロイを見て首を横に振った。
 胸がキュッと、まるで死刑宣告でもされた気分だった。
 私とロイの話を聞きつけ、カーディナルはわざわざ様子を見に来てくれロイの診療もしてくれた。今は脈は安定しているもののいつ目覚めるか分からない状況らしい。もしかすると、毒の周りが早くなり死ぬ可能性もあるのだとか。何にしろ結論づけることは出来ず、毒も解毒薬がないらしく魔法では進行を遅らせる程度しか出来ないと。


「まあ、ロブロイの身体は普通の人間よりかは丈夫だからすぐに死ぬことはないだろうけど……この状況が続くとどうなるか」
「助ける方法はっ、助ける方法はないんですか!」


と、私はカーディナルの服を掴み必死に叫んだ。

 しかし、彼女は目を伏せると申し訳なさそうに眉を下げて首を振るだけだった。
 私は、力が抜け膝から崩れ落ちる。

 そんな、嘘でしょ? なんで、どうして、ロイがこんな目に……?

 絶望感が胸に広がる。呼吸器が上手く動かなくなり、ひゅうひゅう……と口からは変な息が漏れ出た。
 私は、ただ呆然と涙を流すことしか出来なくて。そんな私を見てお父様は優しく肩を抱いてくれた。この年になってこんなに泣くことが出来たのかと、それと同時に悔しくて苦しくて胸が張り裂けそうになった。


「ロイ君を襲った奴に心当たりはないのか?」


と、お父様は口を開き、カーディナルに尋ねた。

 するとカーディナルはそうだね。と顎に手を当てながら考え込みぽつりぽつりと話し始める。


「心当たりはあるよ。というか、ロイを刺したあの短剣に家紋が刻まれていたからね……おそらく、ロイの一族を毛嫌いしているキューバリブレ伯爵の差し金だろう」
「キューバリブレ伯爵か……あまり、良い噂は聞かないな」
「ど、どういうことですか?」


 お父様とカーディナルはそのキューバリブレ伯爵とやらを知っているようで、頭を抱えていた。
 悪い噂とは何かとお父様に尋ねれば、お父様は口ごもった後、麻薬の密売や人身売買その他汚い裏取引などを行っている家らしい。だが、それはあくまで噂で証拠がつかめていない以上、捕まえることは出来ないのだとか。


「そのキューバリブレ伯爵に会えば、解毒薬が手に入るんですかッ!?」
「可能性は、ない……とは言い切れないね。いや、この際それに賭けるしかないかも」


 そうカーディナルは言うと、お父様と目配せし私の方を向き直った。
 お父様はそれはもう苦しそうな顔をして、私を抱きしめたが私はどんな方法を使ってでもどんな危険を冒してでもロイを救う今年か頭になくカーディナルを真っ直ぐとみた。


「危険だよ? アタシはついていってあげるけど本当に……」
「それでもいいです。危険でも! ロイが助かる方法があるのなら、私は」
「そうかい……ということだよ。公爵様。アンタの娘はアタシがこの身を持って守るから、キューバリブレ伯爵の所に行かせてくれ」


 カーディナルは深々とお父様に頭を下げると、私も一緒に頭を深く下げた。 
 すると、お父様は小さくため息をつくと分かった。と了承してくれた。


「ただし、私の娘に万が一のことがあれば、帝国の英雄とも言われる魔女とは言えただではすまないと思え」
「分かったよ。娘思いの良いお父さんだ」


 そうカーディナルは呟き、私の手を引きロイを部屋に残し作戦を話すと部屋を移動することとなった。


「……行かないで、シェリー様」
「ろ、い?」


 無意識か、彼は私の名前を呼んだ。とても辛そうで、見ていられなかった。
 もし、彼を治す薬があるなら、助ける方法があるなら私は自分を危険にさらしても助けたいと思った。彼がいつも私を助けてくれるように、今度は私が彼を助けたいと思ったのだ。もしかしたら、ロイはそんなこと望んでいないかも知れないけど。危ないですので、っていつもの表情でいってくるかも知れないけど。


「待ってて、ロイ。必ず助けるからね」


 私は、彼の手の甲にキスを落とし、部屋をあとにした。


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