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第2章 ヒロイン襲来
09 姉妹の過去を断ち切って
しおりを挟む「何よ! 私を憐れみに来たの! 悪役令嬢のくせに! 私を不幸にして、何が面白いの!?」
「全く、ずっとこの調子だよ」
地下牢に入れられても尚、反省していない様子のキールは私の姿を見るとギャンギャンと犬のように吠えてきた。美しいドレスもはぎ取られて、見窄らしい白い服装に着替えさせられていた。まあ、元が聖女っていう設定だったんだから、純粋に白い服でも可笑しくないなあ、と私の中の聖女像が他とずれていると感じつつも、彼女を見る。
私の隣には、キャロル様がいて、彼は手のつけようがないと、肩をすくめていた。まあ、妹が罪を正直に認めて改心するって、私は思っていないし。何よりも、彼女は自分が間違ってるっていうのを認めるのが嫌いだったから、予想はついていたけれど。ここまで、自分のしたことを何一つ反省していなくて、悪いと思っていない彼女は異常だった。いつから、こんな風になったんだろうか。
因みに、殿下ではなく何故キャロル様なのかといえば、殿下はよほどキールのこがショックだったようで、部屋に引きこもってしまったらしい。まあ、これに懲りて、女性を外見だけで見るのをやめてくれれば良いのだけど……
「貴方は、自分が悪いことをした自覚無いの?」
「はい!? 悪いことって何よ。全部、アンタのせいじゃない」
「話にならないわ」
ここに来たのは、彼女が改心していれば、彼女とゆっくり話す機会を貰おうと談判しようか考えてきたのに、この調子じゃ話すだけ無駄だと持ってしまう。
前世から散々彼女には酷いことをされてきたし、仕返しをしても……と考えたが、彼女と同じレベルに堕ちるのだけは嫌だった。私と、彼女は違うと。
私が愛されないなんて、誰が決めつけたのだと、そう彼女に証明したかった。彼女が羨ましくなかったわけじゃない。私の好きな人を奪って、私の好きなものを奪って。奪われてばかりの人生だった。私が、頑張れば頑張るほど、彼女がそれら全てを奪って輝いて。そんなことの繰り返しだった。
だから、この世界で自分の幸せを掴もうとしたのだ。奮闘して、でも悪役令嬢として名の広まってしまた私には、それを覆すのが難しくて。そして、矢っ張り、この子に全てを奪われてしまった。
私の最愛人も。
「何で、私がこんな所に入れられなきゃいけないのよ。全部アンタのせいでしょ。アンタが、皆に嘘広めたんでしょう」
「はあ……第二皇子の誕生パーティーを滅茶苦茶にした本人が何を言っているの。危うく、キャロル様は命を落しかけた。そして、貴方の親友だったアドニスも傷つくところだった」
実際傷ついていた。
アドニスは、ゲームの設定上、キールの親友だった。だから、キールはそれを利用して、アドニスに罪を被せようとしたり、彼女を駒として使い捨てようとしたりと、散々彼女をこき使ってきた。挙げ句、彼女を脅して、キャロル様を彼女から奪おうとしていた。
自らの手を汚さず指示をした、お茶会での令嬢の毒殺未遂や、私を誘拐し、その先で強姦しろと男達に指示していたこと、あとは帝国で禁止されている人身売買に荷担していたこと。大々的にはここら辺があげられるのだが、私が許さないのは、私の婚約者まで奪おうとしたことだ。勿論、それは私の私情だし、前者が最も彼女が罪に問われることなんだろうけれど、私からしたら、婚約者を奪われそうになったことが一番許せなかった。だって、キールは私の推しと結婚が決まっていたのに、そして、新たに掴んだ私の婚約者を、本物の愛までも踏みにじったのだから。
それが、許せなかった。嫌だった。
キールは、私が怒っても尚、自分は悪くないと主張する。何処までも我儘で救いよう無いと思った。もう、決まっているけれど、このまま国外追放で、厳しい規律のある修道院送りになってしまっても、私は同情しないと。
「最後に聞かせて、キール。貴方は、ロイとどういう関係だったの?」
「は? 何よ、今更。ロイ君とどんな関係だったかなんて? 聞いたら、きっと絶望するわよ」
と、彼女は下品に笑う。ヒロインの身体でそれをされると、これまでヒロイン視点で話を読んできたため、凄く不快な気持ちになった。
そんな風にしか笑えないし、最後まで私を笑いたいんだと私は、ため息をつく。
キールは思い込みが激しいところがあるし、思えば、彼女は過剰な自信家だった。だから、彼女視点ではそう見ているのかもだけど、実際どうか分からない。だから、一応参考までに聞こうと思ったのだ。ロイとどんな関係だったか。この後、ロイに会う予定があるから。
「ロイ君にね、格好いい騎士ですね~っていったら、何か気をよくしちゃってぇ。それから話し込んじゃって、ロイ君がもっと一緒にいたいですっていったから、抱かせてあげたのよ。そしたら、アンタよりも良いっていわれてぇ。私って罪な女よね。アンタの婚約者は、私にメロメロなの。アンタなんてもう抱けないわよ。早く婚約破棄されることね」
「分かったわ、ありがとう」
「可哀相ね~ハハッ! 私を陥れた罰よ。アンタは一生幸せになれないのよ……ッ!?」
ためらいなんて無かった。
バシンッと地下牢に響く乾いた音。目を丸くし、何度も瞬きをした彼女は、恐る恐る私に顔を向けた。そして「ひっ」と短い悲鳴を漏らし、ガタガタと震える。そこまで、怯えなくても良いじゃない。
「シェリー嬢」
「ごめんなさい。謹慎処分でも何でも受けるわ」
「いや、良いんだよ。君の気が済むなら……僕も、頭にきちゃったからね」
と、キャロル様は私を擁護してくれた。
私は、キールをもう一度睨み付ける「何よ……」と威勢を無くした、キールが私を見る。まるで、私が悪役だといわんばかりに。
(そうね、貴方にとって私は、貴方を輝かせるための創り上げられた悪役だったかも知れない。でも、違う)
私の物語の主人公は、私だ。
「地獄に堕ちるのは貴方よ、キール。しっかり反省しない。これまでの私から奪った人生の全てを」
じゃあ、と私は彼女に言い残し、踵を返す。
後ろから「悪かったから! 謝るから! 許して!」と彼女の泣き叫ぶ怖えが聞えたが、私はもう彼女の言葉に何も耳を貸さなかった。まずは、ロイの真意を、真相を聞かないと、と彼女のことはもう終わったこととして、私はロイの元へ急いだ。
もし、先ほどキールがいったことが全て本当だったら。
(そんな、わけ……ないわよね)
少し、手が震えていたのを、私は気づかないフリをした。
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