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第2章 ヒロイン襲来

07 こんな気持ちじゃダメ

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「ミモザ、ごめんね。ついてきて貰って」
「いえ、これくらい大丈夫ですよ。それに、護衛なしで、公爵家の大切な公女様が攫われたりしたら大変なので」


 ミモザは、私が守ります。と腕まくりしてそのやる気を見せてくれた。

 ロイは、キールが言ったとおり、彼女の護衛として今夜のパーティーに参加するようだった。お父様はその事に関して何も言わず、もう見切りをつけているのではないかとすら思われた。それを、実際言葉にして伝えてくれたわけではないから、お父様の意思は分からないけれど。
 ロイが護衛としてついてきてくれないので、私は侍女のミモザに同伴を頼んで、第二皇子の誕生パーティーに出席していた。キールも来ると分かっているから、気が重くて、来る気にはなれなかったけれど。権力者である、公爵家の公女として、皇族との関係は良好に保たなければという意思もあって、渋々参加することになった。それに、ロイは一言「来てください」と私に言ってきたし。どういう意味なのか、これまた分からなかった。キールに完全に付き従うので、それを見に来い、と言うことだったのだろうか。それすら分からない。

 はあ……と、大きなため息をついて、私は会場に入る。煌びやかなシャンデリアは目に毒だった。ギラギラしすぎじゃないかと、目が眩む。
 第二皇子に挨拶して、すぐにとんずらしようと考え、目立たないようにと、私は部屋の隅へ移動するために、視線を動かす。すると、会場の中で見慣れた、サーモンピンクの髪を見つけ、私はミモザに行ってくると一言伝えると、彼女に会うために人混みを縫って移動した。


「ミモザ、私、ちょっとアドニスのところに行ってくるわ」
「分かりました。何かありましたら、また呼んで下さい」


と、快く、送り出してくれて、私は何の心配も無く彼女から離れることが出来た。まあ、この人混みに中、誰かが誰かに危害を加えることなんてまずないだろうと思うし。


「アドニス!」
「シェリー様?」


 正面から声をかければ、彼女は私に気がつきパッと顔に花を咲かせた。彼女の笑顔には本当に癒やされると思った。あざといとか、計算されたとかそういうの一切無い、普通の笑顔。その、普通さがいいとすら感じた。


「シェリー様も出席していたんですね」
「ええ。第二皇子の誕生パーティーだからね。公爵家の公女として。アドニスは、婚約者として出席したんでしょ?」
「ま、まあそうなりますかね。直接きて欲しいって言われましたし。でも、誕生日だって知ったの二日前で」
「まあ、攻略キャラの誕生日って書いてなかったものね」


と、アドニスはモジモジとしながら言う。

 実は、アドニスは今日の主役である第二皇子の婚約者で、彼女と第二皇子、キャロル・デニッシュメアリーはそれはもうラブラブなのだとか。今は、それが私にとって凄く羨ましくて、いつも以上に輝いているアドニスを見ると、私も……と思ってしまう。


「この間はありがとう。アドニス」
「ええっと、この間とは誘拐されたときのことですか?」
「そういえば、そんなこともあったわね……ううん、違うわ。そっちじゃなくて、この間ロイのこと、相談乗ってくれたでしょ。その時のお礼がしたいと思って。アドニス、本当にありがとう。相談に乗ってくれて。貴方は、私にとって大切な友達……いいえ、親友だわ」


 彼女への思いを伝え、私はアドニスの手を握った。
 誘拐されたときのことって、いつのことをいっているのかしら、と確かにそんなことはあったけど、と思いながらも、私は彼女に笑顔を向けた。
 キールの嫌がらせは、ロイを奪ったことだけじゃなくて、もっと余罪が一杯ある。それはもうあげだしたら切りが無い。大きなことから、小さなことまで。本当に悪知恵には頭が回るのねって、感心してしまうくらいだ。そんな彼女が幸せに……そして、私は絶望のどん底に……最悪だ。
と、私が顔を曇らせていれば、聞き覚えのある嫌なソプラノボイスが耳を貫く。


「二人して、本当に惨めねえ」


 案の定振返れば、そこには桃色の髪を揺らし、にまにまと私達に憐れみの目を向けるキールがいた。いつも以上に派手な服で、胸元もがっつりと開いている。私に散々、売春婦とか行ってきたくせに、自分は良いのかと、男受け良さそうな、女には嫌われそうな服をしている。
 私は、彼女からアドニスを隠すようにサッと、アドニスの前に立って、キールを睨み付ける。キールはアドニスが転生者だと知らない。だから、彼女は、アドニスのことをこれまでいいように使ってきた。それはもう、使い捨てる気満々で。


「何のよう?」
「用がなければ話しちゃいけないんですか~? 酷いですねえ。矢っ張り、悪役令嬢だわ」
「……言いたいのはそれだけ?」
「何よ。いつもより強気じゃない……アンタは私に勝てないのよ。所詮は、悪役令嬢……それに、アンタが友達って言ってるそいつは不遇令嬢。ヒロインの私に勝てるわけ無いのよ。幸せに何てなれないわ」
「それは、どうかしら。貴方も、すぐにボロが出るんじゃない?」


 皇紀になるってそう簡単なことじゃないだろう。というか、彼女に帝国をしょって立つ、ライラ殿下の妻になられたら、帝国が傾くんじゃないかと心配してしまう。頭は勿論いい。でも、それは人を扱うのになれた頭の良さだ。政治的な問題とか、そういうのには彼女は疎かったし、興味がそもそも無かったから。ああ、殿下の未来が思いやられる、と私はかつての婚約者であるライラ殿下を哀れんだ。彼に婚約破棄された当時は、目の前が真っ暗になったけれど、今じゃ、こんな女を婚約者として隣に置いて大丈夫なのかって、心配になってしまう。まあいい、彼が選んだのだから。それに、婚約破棄されたその瞬間に、今のキールになったんだから、仕方がない。それまでは、ヒロインの引力で、あらぬ証拠をでっち上げられて、婚約破棄されただけだし。


(悪役令嬢はどっちよ……)


 私が全く弱っていないことにイラついたのか、彼女はハンッと下品に鼻を鳴らす。


「そんな売春婦みたいな、ドレス着て……男を誘う気満々って感じで。品性疑っちゃうわ」
「き、キール! シェリー様をそんな悪く言わないで――」


 後ろにいたアドニスが、私の為に声を上げてくれる。心の中で感謝しつつ、これ以上は大丈夫だから、と言いかけた時、会場全体に声がかかった。


「皇太子殿下と、第二皇子の入場です」



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