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第2章 ヒロイン襲来
04 強奪
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怒りでわなわなと震える私をよそに、キールは愉快そうに笑っていた。何で、人の不幸を、人を陥れることにそんな快楽を見いだせるのか私には理解できなかった。
キールの中身は前世の私の妹だ。だけど、私は彼女のことを妹だなんて思っていないし、両親が離婚した理由も彼女にあった。
というのも、母親が浮気しておりその浮気相手が金持ちだったからだ。それを妹は知り、離婚を言い出せずにいた母親を唆し離婚へと追い込んだ。
母親は父親と違い子供の面倒を彼よりかは見ていたが、愛していたのは妹の方だった。妹は私よりも可愛くて、頭も良くて、人気があって……人を手玉に取るのが上手い子だった。
そのことに母親は気づかず、妹が何かをやらかしても私のせいにしたり、彼女の授業参観だけいったりと私のことはほったらかしにした。離婚する際も連れて行って貰えなかったし、最後まで妹を選んだ。
妹はこれまで私のものを全て奪っていったのだ。
そして、極めつけはあの口癖。
『私って、世界一幸せなヒロイン』
自分がさも、物語の主役のような、私を毎回悪役にして、自分は悲劇のヒロインぶって。自分が幸せになるためなら、他の人間を蹴落とし悪役にする、それが私の妹だった。誰に性格が似たのかは分からないけれど、こんなにも性悪な女がいて良いのかと思えるぐらいには、彼女は最悪だった。私が好きだと言った人を奪っていくような、終いには万引きの冤罪をふっかけてもきたし。言いだしたら切りが無いほど、彼女の悪事は思い出したら山ほど出てくる。
そして、彼女は手に入れたかったヒロインという座に座った。
「お姉ちゃん、悪役令嬢ってつんでんじゃん。アハハハッ! ほんとお姉ちゃんって可哀相」
「……笑うためだけにここに来たの?」
私が冷たい声でそう言うと、キールは目を丸くした後ニヤリとした表情になる。
その笑みに嫌悪感を抱きながら、私は彼女を睨んだ。すると、そんな私を見て彼女はまた笑い出すのだ。何がおかしいのかと問う前に、彼女は口を開いた。
「お姉ちゃんって運なさ過ぎだよね。一年努力したんだっけ? それで、この結果って、もう現実見た方が良いって。悪役令嬢が、ヒロインに勝てるわけ無いじゃん。最近の異世界恋愛小説読みすぎだって」
と、ケタケタ笑うのだ。それはもう下品に。品のひのじも感じない。
誰も周りにいないことを良いことに、本性をさらけ出す彼女。それが、皇太子にバレたらきっと幻滅されるだろう。けど、彼女がそんなボロを出すような女じゃないことは私がよく知っている。彼女は、人を騙すのが上手い。こういう演技をさせたらピカイチだと思う。他人を騙すのに長けているって、あまりいい才能じゃ無い気がするけれど。
私の努力は確かに無駄になった。でもそれは、仕方ないことだった。ヒロインの圧倒的な力に負けただけだから。けど、許せないのは努力も何もしずに、良いところだけとっていったという所だ。彼女は、たまたま私が婚約破棄されたその日に転生した。言ってしまえば、運は彼女に味方したのだ。運さえも、彼女は勝ち取った。
何でこんなに不平等なのだろうか。
別に、皇太子に未練は無いけれど、それでもこの結果は最悪だ。
「私は皇太子殿下のお嫁さんだけどぉ、でもお姉ちゃんが格好いい騎士を連れてるのが気にくわないんだよね。だから、私に頂戴?」
「はあ!?」
いきなり何を言っているのだろうか。私は思わず声を上げてしまった。
しかし、キールはその大きな目を見開きじっと私を見つめてくる。その表情からは何も読み取れないが、どうやら本気のようだ。
(ううん、違う……この子は私の持っているものが欲しいだけ)
私は一旦冷静になり、彼女を見た。彼女の目からは悪意しか感じられない。
別に本気で好きじゃなくても、欲しいと思ったものは全て手に入れる。私の持っているものは全て奪いたくなると彼女は言うのだ。ただ欲しい、奪いたい。それが彼女の原動力。
「シェリー様」
最悪のタイミングで、聞き慣れた声がかかる。
何でここにいるのか、誰もはいらないようにと言ったはずなのに。私の愛しの婚約者が、護衛騎士が庭園に現われたのだ。
「あ、ロイ……今大事な話をしてて……」
「ロイくーん、こっち来て」
と、突然現われたロイは私に一礼すると何故かキールの方へと歩いて行ってしまう。
私はそんな彼の行動が理解出来ず、呆然としていると彼はキールの前で立ち止まり私の方を振返る。しかし、彼はキールの隣に立っている。
「ロイ君みたいな格好いい人は、私の護衛にふさわしいの! ね、ロイ君も私の方がいいでしょ?」
「……」
ロイは何も答えずただ無表情でキールを見ていた。
しかし、その無言は肯定に思えて私の胸はギュッと締め付けられる。
私の恐れていた最悪の事態だ。
彼女と、ロイには接点がなかったはず。なのに、何故ロイはキールの方にいるのだろうか。私の方じゃなくて何で?
(何で……何で、ロイ?)
私の頭はぐるぐると回り、吐き気さえこみ上げてきた。
そして、いてもたってもいられなくなり私は立ち上がる。
「どうしたんですぅ? シェリー嬢。お花摘みにでもいくんですか?」
「帰って……」
ガタンと倒れた椅子を直す余裕もなく、私はキールに向かって叫ぶ。呼んでもないのに来て、私を笑って、そして、私の今一番大切なものを奪うと宣言してきた彼女に。
悪魔の笑みを浮べる彼女を、今すぐに追い出したい一心だった。
「帰ってよ。良いから、今すぐ帰って!」
「嫌よ。私はもう少し、ロイ君と話していたいんだもん、ね?」
と、ロイにすり寄るキール。
私は吐き気が込み上げてきて、一刻も早くここから抜け出したい思いで駆けだした。
見たくない、見たくない、見たくない。
後ろで、キールの笑い声が聞えたけれど、関係無かった。裏切られたような気持ちで一杯になって、知らぬ間に頬を伝って大粒の涙が溢れていた。
まだ、そうだって決まったわけじゃないけれど。それでも、彼女は欲しいものは全て手に入れるだろう。私から奪っていくだろう。
(何で、信じてたのに……)
慌てて部屋に飛び込んだ私を心配してくれたのは、ミモザ含めたメイド達だけだった。
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