上 下
15 / 45
第2章 ヒロイン襲来

04 強奪

しおりを挟む



(……性格が悪すぎる)


 怒りでわなわなと震える私をよそに、キールは愉快そうに笑っていた。何で、人の不幸を、人を陥れることにそんな快楽を見いだせるのか私には理解できなかった。

 キールの中身は前世の私の妹だ。だけど、私は彼女のことを妹だなんて思っていないし、両親が離婚した理由も彼女にあった。
 というのも、母親が浮気しておりその浮気相手が金持ちだったからだ。それを妹は知り、離婚を言い出せずにいた母親を唆し離婚へと追い込んだ。
 母親は父親と違い子供の面倒を彼よりかは見ていたが、愛していたのは妹の方だった。妹は私よりも可愛くて、頭も良くて、人気があって……人を手玉に取るのが上手い子だった。
 そのことに母親は気づかず、妹が何かをやらかしても私のせいにしたり、彼女の授業参観だけいったりと私のことはほったらかしにした。離婚する際も連れて行って貰えなかったし、最後まで妹を選んだ。
 妹はこれまで私のものを全て奪っていったのだ。
 そして、極めつけはあの口癖。


『私って、世界一幸せなヒロイン』


 自分がさも、物語の主役のような、私を毎回悪役にして、自分は悲劇のヒロインぶって。自分が幸せになるためなら、他の人間を蹴落とし悪役にする、それが私の妹だった。誰に性格が似たのかは分からないけれど、こんなにも性悪な女がいて良いのかと思えるぐらいには、彼女は最悪だった。私が好きだと言った人を奪っていくような、終いには万引きの冤罪をふっかけてもきたし。言いだしたら切りが無いほど、彼女の悪事は思い出したら山ほど出てくる。
 そして、彼女は手に入れたかったヒロインという座に座った。


「お姉ちゃん、悪役令嬢ってつんでんじゃん。アハハハッ! ほんとお姉ちゃんって可哀相」
「……笑うためだけにここに来たの?」


 私が冷たい声でそう言うと、キールは目を丸くした後ニヤリとした表情になる。
 その笑みに嫌悪感を抱きながら、私は彼女を睨んだ。すると、そんな私を見て彼女はまた笑い出すのだ。何がおかしいのかと問う前に、彼女は口を開いた。


「お姉ちゃんって運なさ過ぎだよね。一年努力したんだっけ? それで、この結果って、もう現実見た方が良いって。悪役令嬢が、ヒロインに勝てるわけ無いじゃん。最近の異世界恋愛小説読みすぎだって」


と、ケタケタ笑うのだ。それはもう下品に。品のひのじも感じない。

 誰も周りにいないことを良いことに、本性をさらけ出す彼女。それが、皇太子にバレたらきっと幻滅されるだろう。けど、彼女がそんなボロを出すような女じゃないことは私がよく知っている。彼女は、人を騙すのが上手い。こういう演技をさせたらピカイチだと思う。他人を騙すのに長けているって、あまりいい才能じゃ無い気がするけれど。
 私の努力は確かに無駄になった。でもそれは、仕方ないことだった。ヒロインの圧倒的な力に負けただけだから。けど、許せないのは努力も何もしずに、良いところだけとっていったという所だ。彼女は、たまたま私が婚約破棄されたその日に転生した。言ってしまえば、運は彼女に味方したのだ。運さえも、彼女は勝ち取った。
 何でこんなに不平等なのだろうか。
 別に、皇太子に未練は無いけれど、それでもこの結果は最悪だ。


「私は皇太子殿下のお嫁さんだけどぉ、でもお姉ちゃんが格好いい騎士を連れてるのが気にくわないんだよね。だから、私に頂戴?」
「はあ!?」


 いきなり何を言っているのだろうか。私は思わず声を上げてしまった。
 しかし、キールはその大きな目を見開きじっと私を見つめてくる。その表情からは何も読み取れないが、どうやら本気のようだ。


(ううん、違う……この子は私の持っているものが欲しいだけ)


 私は一旦冷静になり、彼女を見た。彼女の目からは悪意しか感じられない。
 別に本気で好きじゃなくても、欲しいと思ったものは全て手に入れる。私の持っているものは全て奪いたくなると彼女は言うのだ。ただ欲しい、奪いたい。それが彼女の原動力。


「シェリー様」


 最悪のタイミングで、聞き慣れた声がかかる。
 何でここにいるのか、誰もはいらないようにと言ったはずなのに。私の愛しの婚約者が、護衛騎士が庭園に現われたのだ。


「あ、ロイ……今大事な話をしてて……」
「ロイくーん、こっち来て」


と、突然現われたロイは私に一礼すると何故かキールの方へと歩いて行ってしまう。

 私はそんな彼の行動が理解出来ず、呆然としていると彼はキールの前で立ち止まり私の方を振返る。しかし、彼はキールの隣に立っている。


「ロイ君みたいな格好いい人は、私の護衛にふさわしいの! ね、ロイ君も私の方がいいでしょ?」
「……」


 ロイは何も答えずただ無表情でキールを見ていた。
 しかし、その無言は肯定に思えて私の胸はギュッと締め付けられる。
 私の恐れていた最悪の事態だ。
 彼女と、ロイには接点がなかったはず。なのに、何故ロイはキールの方にいるのだろうか。私の方じゃなくて何で?


(何で……何で、ロイ?)


 私の頭はぐるぐると回り、吐き気さえこみ上げてきた。
 そして、いてもたってもいられなくなり私は立ち上がる。


「どうしたんですぅ? シェリー嬢。お花摘みにでもいくんですか?」
「帰って……」


 ガタンと倒れた椅子を直す余裕もなく、私はキールに向かって叫ぶ。呼んでもないのに来て、私を笑って、そして、私の今一番大切なものを奪うと宣言してきた彼女に。
 悪魔の笑みを浮べる彼女を、今すぐに追い出したい一心だった。


「帰ってよ。良いから、今すぐ帰って!」
「嫌よ。私はもう少し、ロイ君と話していたいんだもん、ね?」


と、ロイにすり寄るキール。

 私は吐き気が込み上げてきて、一刻も早くここから抜け出したい思いで駆けだした。
 見たくない、見たくない、見たくない。
 後ろで、キールの笑い声が聞えたけれど、関係無かった。裏切られたような気持ちで一杯になって、知らぬ間に頬を伝って大粒の涙が溢れていた。
 まだ、そうだって決まったわけじゃないけれど。それでも、彼女は欲しいものは全て手に入れるだろう。私から奪っていくだろう。


(何で、信じてたのに……)


 慌てて部屋に飛び込んだ私を心配してくれたのは、ミモザ含めたメイド達だけだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

R18完結 悪女は回帰して公爵令息と子作りをする

シェルビビ
恋愛
 竜人の血が流れるノイン・メル・リグルス皇太子の運命の花嫁である【伯爵家の秘宝】義姉アリエッタを苛め抜いた醜悪な妹ジュリエッタは、罰として炭鉱で働いていた。  かつての美しい輝く髪の毛も手入れに行き届いた肌もなくなったが、彼女の自信は過去と違って変わっていなかった。  炭鉱はいつだって笑いに満ちていることから、反省の色なしと周りでは言われている。実はジュリエッタはアリエッタに仕返ししていただけで苛めたことはなかったからだ。  炭鉱にやってきた、年齢も名前も分からないおじさんとセフレになって楽しく過ごしていたが、ある日毒を飲まされて殺されてしまう。  13歳の時に戻ったジュリエッタは過去の事を反省して、アリエッタを皇太子に早く会わせて絶倫のセフレに再開するために努力する。まさか、おじさんが公爵様と知らずに。 旧題 姉を苛め抜いて炭鉱の監獄行きになりました悪女は毒を飲んで人生をやり直す。正体不明の絶倫のセフレは公爵令息だったらしい。 2022 7/3 ホットランキング6位 ありがとうございます! よろしければお気に入り登録お願いします。  話を付け足すうちにレズプレイ触手プレイも追加になってしまいました。  ますますぶっ飛んだ世界観です。

【R18】白と黒の執着 ~モブの予定が3人で!?~

茅野ガク
恋愛
コメディ向きの性格なのにシリアス&ダークな18禁乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私。 死亡エンドを回避するためにアレコレしてたら何故か王子2人から溺愛されるはめに──?! ☆表紙は来栖マコさん(Twitter→ @mako_Kurusu )に描いていただきました! ムーンライトノベルズにも投稿しています

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

初めての相手が陛下で良かった

ウサギテイマーTK
恋愛
第二王子から婚約破棄された侯爵令嬢アリミアは、王子の新しい婚約者付の女官として出仕することを命令される。新しい婚約者はアリミアの義妹。それどころか、第二王子と義妹の初夜を見届けるお役をも仰せつかる。それはアリミアをはめる罠でもあった。媚薬を盛られたアリミアは、熱くなった体を持て余す。そんなアリミアを助けたのは、彼女の初恋の相手、現国王であった。アリミアは陛下に懇願する。自分を抱いて欲しいと。 ※ダラダラエッチシーンが続きます。苦手な方は無理なさらずに。

【完結済】婚約破棄されたので魔法使いになろうと思います【R18】

風待芒
恋愛
 昔むかしこの世界には魔王がいて勇者がいて魔法があったという  全てがおとぎ話となり、魔法の消えた“その後”の世界の物語  メイジス国五大貴族の一つ、レグルス家侯爵令嬢であるスカーレットは王立学園の卒業パーティでレオナルド王太子に婚約破棄を突きつけられてしまう  家からも勘当され行くあてもなく彷徨うスカーレットに声をかけたのは自らを宮廷魔術師と名乗る怪しい男だった  オズという名の自称宮廷魔導師はスカーレットにとある提案を持ちかける 「一年の間、君の魔法の師匠になってあげる。一年後、君が行く先を見つけられなかったら僕のお嫁さんになってよ」 半ば賭け事じみた提案にスカーレットは応じることにした オズという男の正体とは、そして自身に迫る黒い影にスカーレットは立ち向かうことが出来るのか どうぞお楽しみくださいませ (絡みが濃いシーンには★をつけております。ご参考までに)

処理中です...