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第1章 何かの勘違いよね?

09 夜は始まったばかり◇

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「……ぅ、うぅ」


 ソワソワしている。もう、ガラにもなくソワソワしていた。
 お父様との話は一旦落ち着いて、まあ娘の選んだ相手だから認めるって寛大な心で許して下さったこともあって、言い争いになったりはしなかった。だから、親公認……それもそれで、複雑だけど。
 可愛いネグリジェを選んで、でもこれちょっと露出が過ぎるんじゃないかとか一人で考えて、結局メイドに頼ってあれでもないコレでもないと選び抜いた。髪だって念入りに整えて、肌のお手入れもして、爪も磨いた。もう準備万端。
 結婚初日に初夜を迎える事が多いらしいが、別に決まりはないようだった。まあ、それでも結婚初日に夫婦となったあかつきとして身体を重ねるという風習はあるらしいけど。別に、そこら辺は問題ないようだった。でも、色んな人に股を開く女性は論外だと。それは、そうだ。


(ダメダメ、落ち着いて!)


 手のひらに人と書いては飲んで、書いては飲んでを繰り返して一人でむせたり、また素数を数えて気を紛らわしたりしようとしたがどれもダメだった。ロイがいつ部屋にやってくるかびくびくしながら待ってた。
 前世は処女で、昼間はOLしながら、夜はオタク活動に励んでいた一般人でこういうことに一切縁が無かったから、いざ初夜となると、本当にどんな反応をするのが正解なのか分からなくなってしまう。痛いとか聞くけど大丈夫だろうかとか、感じなくて満足させることが出来なかったらどうしようとか、次から次へと不安が出てくる。考えても仕方がないことだと分かっていても、考えてしまう。


(腹をくくりなさい、シェリー・アクダクト!)


 自分の記憶が無いからとはいえ、一応もう処女じゃないのよ! と、自分を焚きつけて、よし、と声に出してみる。そうだ、これはやり直しであって、本当の初めてではないのだ。


「シェリー様」
「は、はい!」


 コンコンとノックが鳴ったので、私は慌ててドアを開ける。
 そこにはロイがいた。ロイは、いつもの騎士服ではなく、ラフな格好をしていた。シャツにスラックスというシンプルな服装なのに、とても素敵に見える。


「……あ、あの、その、ど、どうぞ」
「はい、失礼します。あの、シェリー様、そこまでかしこまらないでください。一応、主人と護衛という関係ではありますから」
「で、でも、いずれ、ふ、夫婦に……」
「分かっています。それでも、俺が、その……慣れないので」


と、ロイは少し気まずそうに言った。頬が赤くなっていて、私を意識してくれていると言うことがすぐにでも分かる。

 ロイは部屋に入ると後ろ手で扉を閉めた。
 ロイは私を見ると、微笑んでくれた。それだけで、心が温かくなって、緊張の糸がほどける感じだった。



「シェリー様、その……凄く綺麗です」
「そ、そういうこと言わないで……」


 恥ずかしくて、私は思わず顔を両手で覆ってしまう。


「本当ですよ。嘘なんてついてどうするんですか。俺が、シェリー様に嘘をついたことありましたか?」
「な、無いと思う」


 まず、ロイってあまり喋らないじゃん。と、私は心の中でツッコミを入れ、隣に腰掛けてきたロイを指の隙間から見る。細いと思っていた身体には、筋肉がしっかりとついていて、男らしさを感じる。


(ロイって、こんなに格好良かったっけ?)


 つい見惚れていると、ロイと目が合った。ロイは私の髪を撫でると、そのまま手を滑らせて私の手を握った。そして、そのまま手の甲にキスを落とす。


「シェリー様、俺を見てください」
「え……へ」
「俺は、貴方が欲しくてたまらないんです。そうやって、顔を隠されると、悲しいです……俺にシェリー様を見せてください」
「……っ」


 そんなことを言われたら見せないわけには行かないだろうと、魔法にかかったように私は手を下ろす。そして、そこには確かに、欲情したロイの顔があった。本当に、私を求めてくれているんだって分かるぐらい、理性がギリギリ残っているか、残っていないかそんな狭間の獣の表情。暗闇で、そのワインレッドの瞳がギラリと輝く。
 今更ながらロイの格好良さや、その熱に当てられ、顔が熱くなる。
 私だって、ロイが欲しい。だから、これから行われる行為にも覚悟を決めた。そして、ベッドに押し倒されてロイは私を上から見下ろした。そのまま手を出されるのかと思ったが、ロイはそこで踏みとどまる。


「どうしたの?」
「シェリー様、触れて良いですか?」
「どうして、聞くの?」


 そう、私が聞けば、ロイはあの夜を思い出すように目を閉じ、それから口を開いた。


「貴方の同意が欲しいんです。シェリー様が触れて良いって、シェリー様に触れられたいっていわれたい。俺だけじゃないって、安心したいんです」


と。強欲だなあ、何て思いながら少し震えているロイの手を見ていると、愛おしさがこみ上げてくる。

 ロイは不安なのだ。私に嫌われるんじゃないかとか、幻滅されるんじゃないかとか、そういう類の不安を抱いている。ロイは私を守ってくれるくらい強いけど、やっぱり不安になる時はあるのだ。
 私は、それに答えてあげなきゃと、彼の手を自分の頬に当てる。


「いいよ。ロイ。私に触れても」
「……本当ですか?」
「嘘ついてどうするの?」


 さっきのお返しだ、と私がいうと、ロイはゴクリと喉を上下させ私に近づいてくる。


「キスしても良いですか?」
「ど、どうぞ?」


 許可を出せば、唇が重なる。
 最初は触れるだけの軽いものだったが、徐々に深くなっていく。舌が絡み合い、お互いの唾液が混ざり合う。ロイの熱い吐息がかかり、頭がクラクラしてくる。


(キスだけで、こんなに気持ちが良いなんて……)

 とろけそうな感覚に、意識が持っていかれそうになる。でも、まだ、もっとロイを感じていたい。
 しばらくすると、ロイは名残惜しそうに離れていってしまった。
 ロイは私を見て、嬉しそうに笑った。その笑顔は、いつもの騎士としての顔じゃなくて、年相応の男の子のもので、私は胸がキュンとする。


(ああ、好きだなあ)


 改めて実感する。
 私は、ロイが好きなんだって。


「シェリー様、触ってもいいですか?」
「う、うん」


 ロイの手は、ゆっくりと私の身体をなぞっていく。そして、首筋にキスを落とし、鎖骨を舐め上げる。それだけで、身体中に甘い痺れが広がる。
 私の反応を見ながら、少しずつ、確かめるように丁寧に優しく私の身体に触れる。その度に身体が跳ね上がり、声が出てしまう。自分でも聞いたことがないような声に、思わず口を塞いでしまう。


「シェリー様、口塞がないで下さい」


 ふるふると首を横に振って拒否するが、ロイはそんな私を見て、くるぶしにキスを落とす。


「夜は長いですから、シェリー様覚悟していて下さいね」


 そう恍惚の笑みを浮べたロイは、私がこれまで一度も見たことの無い甘くて黒い表情をしていた。


「シェリー様、今から貴方を抱きます」


 そう宣言して、ロイはチュッと額にキスを落とす。


「貴方を愛しています」
「わ、私も……」


 恥ずかしくて顔を逸らすと、顎を掴まれ、また深いキスを落とされる。そして、ロイは器用に片手でシャツのボタンを外していく。
 露になった胸にロイの指先が触れ、ビクっと身体が震えた。そのまま、ロイの指先は突起を摘まむ。その瞬間、身体中を電流が走ったかのような衝撃に襲われる。
 身体が熱くて、心臓がドクンドクンとなっているのが分かる。ロイは私の耳元に顔を近づけると、囁いた。


「可愛いです」
「……っ!」
「俺の声好きですよね? 凄く身体びくついています」
「そ、それは、ロイだから……っ」
「嬉しいです」


 そう言って、ロイは私に微笑んでくれた。ロイは私に覆いかぶさると、首筋に顔を埋めてきた。
 そして、ペロリと舐められ、チクリとした痛みが走る。ロイが顔を上げると、そこには赤い花が咲いていた。
 その光景にドキッとしていると、ロイは満足そうに笑って、それから私を見つめる。


「綺麗ですね。俺のものだっていう印をつけておきました。本当は全身につけたいんですけど、流石に我慢します。その代わり、沢山可愛がらせてくださいね?」
「ひゃあっ! ロ、ロイ!?  や、んっ!」


 突然、ロイは私を口に含むと舌先で転がすように刺激を与えてくる。もう片方は、手でコリコリと弄ばれて、同時に与えられる快楽に、私はただひたすら喘ぐしかなかった。


「あぁっ! だめぇ……っ」
「駄目じゃないでしょう? ほらここ、こんなになっていますよ」


 そう言うと、ロイは下着越しにそこに触れた。そこはもう既に濡れていて、ロイが少し擦るだけで水音が部屋に響く。
 羞恥心に襲われていると、いつの間にかロイは私のショーツを脱がしていた。


「シェリー様、腰上げて下さい」
「え、ちょ、ちょっと待って! は、恥ずかしいからっ」
「初めてじゃないんでしょ?」
「そ、そそそそ、そうよね!?」


 名目としたらやり直しなのだが、ロイがこれくらい平気でしょ? という顔で見てくるので私はその場ののりでと言うか、勢いで返事をしてしまった。
 でも、やっぱりいざ脱がされるとなれば恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「大丈夫ですよ。全部見せて下さい」
「うぅ~」


 観念して私は足を開いた。すると、ロイはそこに顔を近づける。


「へ?」
「ちゃんと慣らさないと痛いと思いますよ?」
「う、うん」


 ロイは、私の中に舌を差し入れる。生暖かいものが入ってくる感覚に、身体が跳ね上がる。


「ふぁ……ああ……っ、だ、め……きたな……い……から……あッ!」


 抵抗しようとしても、身体に力が入らない。
 ロイは、舌を抜き差ししたり、中でぐるりと回したりする。その度に、甘い痺れが身体を襲う。暫くすると、ロイは私の中から舌を引き抜いた。ロイの唾液でべっとりと汚れた秘部は、ヒクついている。ロイは、指で入口をなぞりながら聞いてくる。


「指入れても?」
「う、うん」


 ゆっくりと指を入れられ、徐々に増やされていく。三本の指が入ったところで、ロイは動きを止めた。


「シェリー様、分かりますか?三本入ってます。これならいけますかね?」
「な、何が?」
「俺のものが入るかどうかって話です」
「…………っ!」


 ロイは、私に自分のものを見せつけるようにしてくる。大きく反り返ったそれに、私はゴクリと喉を鳴らす。


「無理そうだったら言ってくださいね」


 そう言って、ロイは自分のものを私の中に挿入した。


「いっ!」


 メリっと裂けるような音と共に激痛が走り、思わず声が出てしまう。ロイも苦しそうな表情を浮かべて、「すみません」と謝ってきた。正直に言えば、かなり痛かった。でも、ここで止めるわけにはいかない。ロイも苦しいだろうし、私だってロイと一つになりたいと思っている。だから、我慢するしかない。
 ロイは、私が慣れるまで動かないでくれていた。そして、しばらくすると、段々と痛みにも慣れてきた。


「動きますね」
「う、ぅん……んんッ!」


 ロイは少しずつ律動を始めた。最初はゆっくりだったが、次第に激しくなっていく。


「んっ! あっ! あんッ! ろ、ろいぃッ」
「はッ! しぇ、シェリーさまッ」


(ロイも気持ち良いんだ)


 それが分かった瞬間、嬉しくなって、もっと感じて欲しいと思った。だから、私はロイの背中に腕を回すとギュッとしがみつく。
 そして、耳元で囁いた。


「すき……だいすきよ……っ」
「俺も愛しています」
「うれし……あっ! やぁっ! そこダメぇっ」
「ここが良いんですか? 凄く、締る!」
「やぁっ! きもちいい……っ」
「俺もです……っ」
「いっしょにイキたい……」
「はい」


 そう言うと、ロイはラストスパートをかけるかのように、更に腰の動きを速めた。パンッパチュパチュンという卑猥な音が部屋に響き渡る。


「くっ……!」
「あああぁあッ!」


 そして、お互い限界に達した時、同時に果てる。熱いのが、お腹の中をまわって暫くは降りてこれなかった。
 行為が終わると、私たちはベッドの上で裸のまま抱き合っていた。
 まだ余韻が残っているのか、身体はまだ熱くて心臓はドクンドクンとなっている。ロイは私を抱きしめたまま、首筋にチクリと赤い花を咲かせる。何度、私の身体に所有印をつければ気が済むのだろうかと思ったが、大目に見る。


「もう、ロイったら、がっつきすぎ」
「嫌いになりました?」
「……聴き方が酷い。そんなわけないじゃん。嫌いに何てならないわよ」


 私はそういいながら、襲ってきた睡魔に負けて、瞼を閉じた。
 最後に「そうですよね、嫌いになんてならない。絶対に嫌いになったなんて言わせない」と黒い声が聞えた気がしたけれど、私は気づかないフリをして目を閉じた。


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