上 下
5 / 45
第1章 何かの勘違いよね?

04 護衛の現状

しおりを挟む


 お父様から許しを得て、私はロイにこのことを伝えようと彼を探していた。昨日の今日で顔が合わせづらいって言うのはあったけれど、話さないことには変わらないと思った。
 襲ってしまったからには、私が責任を持たないと、と思ったし、貴族のそれも女性は、結婚するまでは純潔を守らないと云々って言われているのに、それをヤケ酒でぶっ飛ばした私は、ロイと結婚する敷かないんじゃないかとも思っていた。まあ、それは後々考えるとして……一応、恋愛感情を互いに持った人と結婚できれば良いな、何て言う私の淡い思いもあったわけだし。
 ぐるぐると、ロイと会うまでに気持ちを固めて、それからどんな顔で会おうか考え、公爵家の騎士達がすむ寄宿に向かう。ロイはここにいるだろうと思い尋ねたのだが、今はいないと言われてしまった。ロイは、一応公爵家の騎士の中では末っ子に当たるし、色んな事情があってここに流れてきた見たいな事を、昔チラッと聞いたことがあったので、深くは突っ込まないようにしていたが、騎士達は何だかロイを馬鹿にするような態度で言うのだ。


「それにしても、シェリー様はあんな騎士で良いんですか?」
「それ、どういう意味?」
「練習にもまともに参加しないような、奴が、シェリー様の護衛つとまるんですかっていってるんです」


 そう、一人の騎士が言うと、周りにいた人達も笑い出して「その通りだ」と声を上げる。その雰囲気が嫌で、私は眉間に皺を寄せた。護衛を馬鹿にするって事は、私も馬鹿にされているって事で良いんだよね? と怒りさえ湧いてくる。
 確かに、ここにいる如何にも筋肉あります強そうです、みたいな騎士に比べたら細いように感じるけど、まだ発展途上だろうし、一番若いからまだ技術も追いついていないかも知れない。でも、それで馬鹿にするのは違うと思う。それとも、別に理由があって?
と、私は考えたが、考えたところで、この人達に聞こうという気にもなれなかった。
 そして、嫌な想像が頭の中をよぎる。


「私の護衛を馬鹿にしているって事は、私も馬鹿にされているって事で良いのかしら?」
「え、いえ、そういうわけでは」


と、言い出しっぺの騎士の目が泳ぐ。

 もしかして、図星?

 ロイも馬鹿にして、私も一緒に馬鹿にされていたと言うことだろうか。それは、私が本物の公女じゃないからか。一年前に一気に性格が変わって、良いように見せようとして、変な目で見られていたことは知っていた。まさか、馬鹿にされていたとは思っていなかったけど。
 もしかして、シェリー・アクダクトの性格がひん曲がったのは、公爵……お父様だけのせいではないのかも知れないと。偽物だって相手にされなくて、馬鹿にされて。そりゃ、シェリー・アクダクトだって、人間だし、いくら公女になったとは言え元は平民だったし。耐えられなかっただろう。小さな頃から、そんな侮辱を受けていたら。性格が曲がっても仕方がない。


「そういうことよね。私に護衛がついているっていうことも、本当は可笑しいとか思っていたんじゃないの?」
「そのようなことは、仮にも公爵家のご令嬢な訳ですし、護衛は必要ですとも」


 そう、私の機嫌を取るように、騎士はへこへこと頭を下げた。本当に思っているか、怪しい。でも、それは確かめようが無いし、今更すぐに考えが変わるわけでもないだろう。だって、シェリー・アクダクトがここに来てから何年経っているか。
 私は、こんな人達と話していてもろくなこと無いと、その場を去ろうとした。すると、未練がましく待って下さいと、数人の騎士から声がかかる。どうせ、公爵にチクられるのが嫌で、止めたいだけだろう。機嫌を取って、なかったことにして貰えないかと私に直談判するつもりなのだろうか。


「私が、シェリー・アクダクトが受けてきた屈辱はそんな安っぽい言葉で掻き消されるほど軽いものじゃないの。貴方たちは、私が本物の公女に似ているから連れてこられただけのただの平民って思っているかも知れないけどね。今の私は、アクダクト公爵家の公女なの。身の程をわきまえなさい」


 私がそう言うと、騎士達はこれ以上言っても無駄だと分かったのか、下を向いてしまった。お父様に言ったら、彼らを全員解雇に出来るかしら。


(いや、そこまでしなくても……いいや、出来るのならした方が良いかもしれないわね)


 こんな調子じゃ、ロイも皆に交ざって鍛錬など出来ていなかったんじゃ無いかと思った。思えば、ロイは一人で素振りをしていたし、走っているときも一人だったし。
 私が馬鹿にされていたばかりに、私の護衛になったロイにも辛い思いをさせていたなんて。元々、私の護衛なんて誰もやりたがらない中、ロイが手を挙げてくれて。そんなロイは、私の護衛になったばかりに……
もし、知っていれば、もっと早くに知ることが出来ていれば、彼は……


(悔やんでも仕方ない。これからのことを考えましょ)


 過ぎてしまったことは仕方ないし、取り戻せない。だから、私は今を大切にしていこうと思った。


「ロイ」
「シェリー様? どうしたんですか。息を切らして」
「ちょっと、軽いジョギングを」
「走りにくい、ドレスのままで?」


と、丘の上で一人素振りをしていたロイを見つけ、私は走って近寄ったところ、彼はすぐに私に気づき近寄ってきた。ジョギングなんて嘘は、すぐにバレて、心配そうな目を向けられてしまう。


「大丈夫だから、そんな心配そうな顔しないで」
「俺は、シェリー様に何かあったらと思うと……」
「ありがとう。気持ちだけで十分だわ」 


 しゅんと、耳が下がったように俯くので、本当に可愛いワンコみたいだなあ、と彼の頭を撫でる。すると、嬉しそうに目を補足させるので、見ていて癒やされた。この笑顔を守りたいと、私はお父様に、もう一度話にいこうと思った。
 お父様との関係は一応改善されたし、今度は公爵家全体を改善していかなければと思った。我儘だって言われたらそれまでなんだけど、それでも、公爵家の、公女という立場を利用しようと思った。利用できるものは利用して、それで新たな幸せを掴もうと。
 本物のシェリー・アクダクトが掴めなかった幸せを、私が掴むことで彼女が少しでも安らかに眠れたら良いなと。あと、普通に婚約破棄されて追放とか、断罪とかあとから色々あっても嫌だし、とかいう個人的な事情も諸々込めてだが。


「ロイ、貴方は私が守るからね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? ~婚約破棄から始まる溺愛生活~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢の許嫁は絶倫国王陛下だった!? 婚約者として毎晩求められているも、ある日 突然婚約破棄されてしまう。そんな時に現れたのが絶倫な国王陛下で……。 そんな中、ヒロインの私は国王陛下に溺愛されて求婚されてしまい。 ※この作品はフィクションであり実在の人物団体事件等とは無関係でして R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年はご遠慮下さい。

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

【R18】「媚薬漬け」をお題にしたクズな第三王子のえっちなお話

井笠令子
恋愛
第三王子の婚約者の妹が婚約破棄を狙って、姉に媚薬を飲ませて適当な男に強姦させようとする話 ゆるゆるファンタジー世界の10分で読めるサクえろです。 前半は姉視点。後半は王子視点。 診断メーカーの「えっちなお話書くったー」で出たお題で書いたお話。 ※このお話は、ムーンライトノベルズにも掲載しております※

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

処理中です...