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第1章 何かの勘違いよね?
04 護衛の現状
しおりを挟むお父様から許しを得て、私はロイにこのことを伝えようと彼を探していた。昨日の今日で顔が合わせづらいって言うのはあったけれど、話さないことには変わらないと思った。
襲ってしまったからには、私が責任を持たないと、と思ったし、貴族のそれも女性は、結婚するまでは純潔を守らないと云々って言われているのに、それをヤケ酒でぶっ飛ばした私は、ロイと結婚する敷かないんじゃないかとも思っていた。まあ、それは後々考えるとして……一応、恋愛感情を互いに持った人と結婚できれば良いな、何て言う私の淡い思いもあったわけだし。
ぐるぐると、ロイと会うまでに気持ちを固めて、それからどんな顔で会おうか考え、公爵家の騎士達がすむ寄宿に向かう。ロイはここにいるだろうと思い尋ねたのだが、今はいないと言われてしまった。ロイは、一応公爵家の騎士の中では末っ子に当たるし、色んな事情があってここに流れてきた見たいな事を、昔チラッと聞いたことがあったので、深くは突っ込まないようにしていたが、騎士達は何だかロイを馬鹿にするような態度で言うのだ。
「それにしても、シェリー様はあんな騎士で良いんですか?」
「それ、どういう意味?」
「練習にもまともに参加しないような、奴が、シェリー様の護衛つとまるんですかっていってるんです」
そう、一人の騎士が言うと、周りにいた人達も笑い出して「その通りだ」と声を上げる。その雰囲気が嫌で、私は眉間に皺を寄せた。護衛を馬鹿にするって事は、私も馬鹿にされているって事で良いんだよね? と怒りさえ湧いてくる。
確かに、ここにいる如何にも筋肉あります強そうです、みたいな騎士に比べたら細いように感じるけど、まだ発展途上だろうし、一番若いからまだ技術も追いついていないかも知れない。でも、それで馬鹿にするのは違うと思う。それとも、別に理由があって?
と、私は考えたが、考えたところで、この人達に聞こうという気にもなれなかった。
そして、嫌な想像が頭の中をよぎる。
「私の護衛を馬鹿にしているって事は、私も馬鹿にされているって事で良いのかしら?」
「え、いえ、そういうわけでは」
と、言い出しっぺの騎士の目が泳ぐ。
もしかして、図星?
ロイも馬鹿にして、私も一緒に馬鹿にされていたと言うことだろうか。それは、私が本物の公女じゃないからか。一年前に一気に性格が変わって、良いように見せようとして、変な目で見られていたことは知っていた。まさか、馬鹿にされていたとは思っていなかったけど。
もしかして、シェリー・アクダクトの性格がひん曲がったのは、公爵……お父様だけのせいではないのかも知れないと。偽物だって相手にされなくて、馬鹿にされて。そりゃ、シェリー・アクダクトだって、人間だし、いくら公女になったとは言え元は平民だったし。耐えられなかっただろう。小さな頃から、そんな侮辱を受けていたら。性格が曲がっても仕方がない。
「そういうことよね。私に護衛がついているっていうことも、本当は可笑しいとか思っていたんじゃないの?」
「そのようなことは、仮にも公爵家のご令嬢な訳ですし、護衛は必要ですとも」
そう、私の機嫌を取るように、騎士はへこへこと頭を下げた。本当に思っているか、怪しい。でも、それは確かめようが無いし、今更すぐに考えが変わるわけでもないだろう。だって、シェリー・アクダクトがここに来てから何年経っているか。
私は、こんな人達と話していてもろくなこと無いと、その場を去ろうとした。すると、未練がましく待って下さいと、数人の騎士から声がかかる。どうせ、公爵にチクられるのが嫌で、止めたいだけだろう。機嫌を取って、なかったことにして貰えないかと私に直談判するつもりなのだろうか。
「私が、シェリー・アクダクトが受けてきた屈辱はそんな安っぽい言葉で掻き消されるほど軽いものじゃないの。貴方たちは、私が本物の公女に似ているから連れてこられただけのただの平民って思っているかも知れないけどね。今の私は、アクダクト公爵家の公女なの。身の程をわきまえなさい」
私がそう言うと、騎士達はこれ以上言っても無駄だと分かったのか、下を向いてしまった。お父様に言ったら、彼らを全員解雇に出来るかしら。
(いや、そこまでしなくても……いいや、出来るのならした方が良いかもしれないわね)
こんな調子じゃ、ロイも皆に交ざって鍛錬など出来ていなかったんじゃ無いかと思った。思えば、ロイは一人で素振りをしていたし、走っているときも一人だったし。
私が馬鹿にされていたばかりに、私の護衛になったロイにも辛い思いをさせていたなんて。元々、私の護衛なんて誰もやりたがらない中、ロイが手を挙げてくれて。そんなロイは、私の護衛になったばかりに……
もし、知っていれば、もっと早くに知ることが出来ていれば、彼は……
(悔やんでも仕方ない。これからのことを考えましょ)
過ぎてしまったことは仕方ないし、取り戻せない。だから、私は今を大切にしていこうと思った。
「ロイ」
「シェリー様? どうしたんですか。息を切らして」
「ちょっと、軽いジョギングを」
「走りにくい、ドレスのままで?」
と、丘の上で一人素振りをしていたロイを見つけ、私は走って近寄ったところ、彼はすぐに私に気づき近寄ってきた。ジョギングなんて嘘は、すぐにバレて、心配そうな目を向けられてしまう。
「大丈夫だから、そんな心配そうな顔しないで」
「俺は、シェリー様に何かあったらと思うと……」
「ありがとう。気持ちだけで十分だわ」
しゅんと、耳が下がったように俯くので、本当に可愛いワンコみたいだなあ、と彼の頭を撫でる。すると、嬉しそうに目を補足させるので、見ていて癒やされた。この笑顔を守りたいと、私はお父様に、もう一度話にいこうと思った。
お父様との関係は一応改善されたし、今度は公爵家全体を改善していかなければと思った。我儘だって言われたらそれまでなんだけど、それでも、公爵家の、公女という立場を利用しようと思った。利用できるものは利用して、それで新たな幸せを掴もうと。
本物のシェリー・アクダクトが掴めなかった幸せを、私が掴むことで彼女が少しでも安らかに眠れたら良いなと。あと、普通に婚約破棄されて追放とか、断罪とかあとから色々あっても嫌だし、とかいう個人的な事情も諸々込めてだが。
「ロイ、貴方は私が守るからね」
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