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第1章 何かの勘違いよね?

02 一夜の過ち

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 目覚めはとても悪かった。

 婚約破棄を言い渡された記憶、飲み過ぎた記憶。それらが渦を巻くようにして蘇り、二日酔いも相まって私は口元を抑えた。
 頭が割れるように痛いのだ。それに、口の中にまだアルコールが残っているようななんとも言えない気持ちの悪い感覚が朝から私を襲った。シェリー・アクダクトに転生してから、こんなに飲んだのは初めてだったので、もしかしら、身体のキャパ量を超えてしまったのかも知れない。でも、生きているんだし、問題ないでしょ、と一応楽観的に捉えることにした。ヤケ酒なんてそんなものでしょ。


「てか、ここ何処……?」


 起き上がると、私の身体には見覚えのないシーツがかけられていた。ここが、公爵家の自室でないことは確かだったが何処かを確かめる術はなく取りあえずは、あたりをキョロキョロと見渡した。
 そして、私は身体を起こした際に気づいてしまった。


「んんんんっ!? なん、何で私、下着姿なの!?」


 私は慌てて自分の身体をシーツで覆った。何も纏っていない状況じゃないだけマシなのかも知れないけど、恥ずかしさのあまり、条件反射的にシーツに身体をくるませる。
 初めは、酔ったせいで戻してしまったのだろうと、結論づけようとしたが次に目に入ったもので私は絶句した。


「ろ、ロイッ!?」


 部屋の隅で正座をし、こちらを見ているロイの姿を発見したからだ。その上半身は何も身につけておらず、鍛えられた筋肉質な肉体が露わになっていた。彼は、ワインレッド色の瞳をじっとこちらに向け続けている。
 一体どういう状況なのか。
 混乱する頭で必死に昨日のことを思い出そうとするが、靄がかかっているようで思い出せない。
 一旦状況を整理しよう。いや、状況を整理させて欲しい。その時間を頂戴と口に出して言いたいくらいだった。


「えー、えっと、えーとロイ……?」


 恐る恐る彼の名前を呼ぶと、ロイはゆっくりと口を開いた。
 私は、心の中で何もなかったと言ってくれと祈ったが、その祈りも何も通じることなく彼は全く予想外のことを言ったのだ。


「好きです」


 私は、耳を疑った。
 ロイの口から好きだという言葉が出たことに。私は驚きすぎて、口をパクパクさせてしまう。
 しかし、やはり頭はついていかず、昨日のことが思い出せない苛立ちとロイの意味不明な言葉に私は取りあえず目線を逸らす。ロイの瞳が、昨日とは明らかに違ったから。そのワインレッドの瞳の奥に、欲情を感じる。そういう熱っぽい目で私を見ている気がしたからだ。自意識過剰だったら恥ずかしいけど。


(ねえ、もしかしてのもしかしてだったらどうしよう……酔った勢いで、年下の子と……)


 嫌な想像が頭を巡る。けれど、ロイにかぎってそんなことはないだろうと私は一人納得しようとしていた。でも、彼の目を見ると私は現実を受け入れざる終えない状況に立たされる。違うって100%言うのはもう無理だ。
 そんな目で見つめないで欲しい。


「シェリー様」
「いや、ごめんね……私昨日の記憶なくて……えっとその……」


 ロイの声を聞くだけで、身体が過敏に反応し私は顔を覆った。自分でも分かるぐらいビクッと身体が大きく上下する。
 そんなことはない。断じてない。昨日は何もなかった。と煩いぐらい頭の中で自己完結させようとしている自分がいる。けれど、その反面ロイの熱い眼差しにドキドキしてしまっている自分もいて。 何だか、訳がわからなくなってきた。
というか、半裸の私と半裸の護衛が部屋の隅で正座しているというこのシュールな状況をどうにかしなければ。ロイに風邪引かれたら、私の護衛は誰がするのよ。第一に、私の護衛を率先してやってくれるって言ってくれたの、ロイだけなんだから。
と、何処か保身に走りながらも私はロイをちらりと見る。


「ロイ、取りあえず、服着たら?」
「シェリー様がお望みなら」
「え? いや、そういう意味じゃなくて! 普通に服を着てほしいっていう意味で」
「俺は別にこのままでも構いませんけど」
「私が構わないから!」


 私はロイに背を向けるようにしてベッドの上で体育座りをした。何だか、恥ずかしくてロイの顔が見れないのだ。
 ロイはしばらくすると、無言のまま立ち上がり部屋を出て行った。
 その後すぐに着替えたのか数分後にはロイが部屋に戻ってきたのだがその表情は先程とは打って変わって冷めきっていた。不満ありげな顔で私を見てくるのだ。


「何……?」
「覚えていないのですか、昨夜のこと」
「え、ええ」


 ロイは深いため息をつくと、私に近づいてきた。
 何かされると、私は思わず身構えてしまう。しかし、想像していたようなことは起こらずロイは私の前で膝を折り頭を下げた。


「体調方はもう大丈夫ですか?」
「あ、え……うん、まあ」


と、いきなり質問を投げられたため私はとっさに嘘をついてしまった。いや、まず、私が起きてすぐに何故それを聞かなかったのか、不思議なぐらい、何で今それを聞くのかと思った。別に悪いとはいっていないけれど、色々と順番が前後している気がする。

 あと、普通に頭が割れるように痛いし、まだ気持ちが悪いし、体調はよくない。二日酔いでガンガンに頭が痛い。
 けれど、心配そうに見るロイを見ていたら嘘をついてでも元気な風に装うと思ってしまった。それは、主人として従者にかっこわるいところ見せられないからだ。私のたった一人の護衛で、私のこと、婚約破棄されてからも、される前だって応援してくれて。私にとって唯一の味方がロイだったから。
 だからこそ、ロイと昨晩何があったのか知りたかった。けれど、聞くのが怖い。
聞かなきゃ流せるかも知れない。今なら、流しても良いんじゃないかと、事実をもみ消そうとしている悪い私もいるわけで。


「シェリー様、昨夜のこと……」
「昨日は何もなかった! うん、何もなかったのよ! だから、忘れて! 私がお酒によって吐いたことも、記憶ないことも全部忘れて!」


 ロイの言葉を遮るようにして私は声を張り上げた。
 私の言葉を聞いてロイは悲しそうな表情を浮べた。


(何よ、私が悪いみたいに……)


 その態度に少し腹が立ったが、彼の言い分も聞こうかと一応、何もないとは思うが聞いてみることにした。


「…………何があったの、昨日」 


 ロイの顔を見てから、聞かなきゃ良かったと思ったが、やっぱり言わなくていいと言う前にロイが口を開いた。真剣な表情で、彼も覚悟を決めたように。


「俺は昨夜、シェリー様を抱きました」


 まるで、時が止まったかのようだった。


「え……」 


 ああ、神様。矢っ張り私はやらかしていたようです。



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