一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

兎束作哉

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第3部1章

07 剣の才能

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「なあなあ、お嬢。俺が勝ったら、俺が、お嬢の護衛になるってどうだよ」
「用心棒から、正式な護衛に? でも、貴方は竜人族でしょ? 前例がないわ」
「ちえっ、差別すんのかよ」
「違うわよ。ちょっと難しいって言っただけ。まあ、取り合ってみないこともないけれど……まあ、なにかしらの報酬は用意しようとは思っているわ」
「やりぃ~やる気出てきた」


 単純なゼイは、何か報酬があれば、と木剣を最近身に着けた、剣術の基礎に従い、剣を構える。
 対するシュタールは、ゼイの動きを見つつ、剣を構えぎゅっと柄を握った。その姿勢は、ゼイよりも美しく、手練れかんが出ており、期待できそうだった。といっても、何も知らない私が、良し悪しなど分かるはずもないのだが、直感的に、期待できる、とは思ったのだ。


「それじゃあ――はじめ!」


 私の声を合図にして、二人の剣は動いた。ゼイはその性格が出ているように突っ込みつつ、攻撃に移るが、シュタールも経験者なだけあり、剣の動きを予測し、確実に守りの体制に入っている。ゼイとシュタールの剣の交わる音はけたたましく鳴り響き、火花を散らしあう。木剣とはいえ、握る人物が強ければ、鋭利な刃となり、相手を傷つけることもできる。ルールはいたって簡単で、相手に降参させること。それか、剣が手から離れ地面に落ちることだ。私は遠くから見物しており、その行く末を見守っていた。
 一度接近戦になれば、体格の差でゼイに軍配が上がるのだが、シュタールはそれをうまく避けている。


「やるなあ! お前」
「……っ!」


 ゼイがそういうと同時に、シュタールの剣をはじいた。一歩後ろに下がり、体勢を立て直すシュタール。やはり、ゼイの力任せの攻撃に耐えきれるほど筋力がないのだろう。そこは、鍛錬を積めば筋肉がつき直るだろうし問題ないが、ただまだ初心者のゼイに負けるとなると、それまでの強さだったという話になる。ここにおいてあげられるには、それ相応の力がなければならない。力を示さなければ、ここにいられない。
 私のわがままとはいえ、不正はしないし、お父様に元奴隷の人間を公爵家に置くことを許してもらうには、こうするしかなかった。ゼイは、剣術にたけた人間ではないが、呑み込みが早く、身体能力も高い。ただの騎士と戦うより、むしろゼイと戦った方が、その強さがはっきりと出るだろうと。


「守ってばっかじゃ、俺には勝てないぜ! それとも、勝てないってもう諦めてんのか!」
「……早い、そして、重い、攻撃……」
「分析したところで、守ってるだけじゃ、なっ!」 


 シュッと、ゼイの攻撃がシュタールの首元をかすった。シュタールは、すぐさまそれをかわし、ゼイから距離をとるが、息が上がっていた。体力切れだろうか。


「お嬢! あいつもうバテてきてるぜ!」
「……そうね。でも、降参と言っていないからまだ勝敗は分からないわよ?」
「ちえっ。じゃあ、降参って言わせてやるよ!」


 このさい腕力は関係なくてもよいので、とりあえず勝たねばならないのだが……さてどうするのか……と私が考えていると、シュタールは剣を構えたままゼイに突進していった。ゼイもそれに応戦するように剣を振り下ろすが、先ほどとは身のこなしが違った。まるで、人が変わったように。


「は!? それ、俺のっ――ッ!?」
「……力任せの攻撃。大体読めてきた」
「何言ってんだよ。おらっ!」


 ゼイが、シュタールの剣をはじき、がら空きになった胴体に木剣を振り落とす。その衝撃で、シュタールの身体はよろめき、膝が崩れるが、倒れることはなかった。
 そしてまたすぐに体勢を立て直し、ゼイに向かっていったのだ。
 ゼイは手練れだが、体力も筋力もあるわけではない。しかし、シュタールは違う。剣術の型にはまった動きではなく、まるで獣のような身のこなしと力強さでゼイを圧倒する。それは、さきほどゼイがやったのと同じ動きだった。


(一瞬でコピーしたのかしら。それにしても、わざとその動きをまねているようにも見える)


 ゼイの攻撃の仕方なんて単調で、でも読めないという矛盾をかけ持つ。竜人族だからこその身体能力を生かした攻撃だ。だからこそ、そんな攻撃を続けていれば体力が持たないはず。けれど、あえてそれをまねて、シュタールはゼイに向かっていく。
 先ほどまでおしていたゼイは自分の動きをトレースされ、その上先ほどとは身のこなしの違うシュタールに押される形で剣を振るっていた。その攻撃も徐々に当たらなくなっていき、はじくだけで精一杯になる。形勢逆転。


「魔法が使えない……ならば、魔法が使えないなりに努力して、強くならなければ……俺に存在価値はない」
「何言ってんだよ!? このっ――ッ」
「俺は、強い。剣では誰にも負けない……ッ!」


 シュパッとシュタールは空を切る――私の目にはそう見えたが、早業すぎて、本当は何かをはじいたようにも見えた。
 すると、ゼイの手から剣が弾かれ、そのままカランコロンと音を立てて地面に落ちた。
 剣が手から離れ、地面に落ちた――勝者が決まったのだ。


「……っ」
「勝負ありですね」


 剣先をゼイに向け、シュタールは逆光になった。勝負が決まれば、膝をつくのは敗者だけで、勝者はそのまま正しい姿勢でなければいけない。
ゼイはシュタールの言葉に歯を食いしばりながら目をつむり、そのまま地面に倒れこんだ。負けず嫌いな彼のことだから、すぐに立ち上がりそうなものだが、どうやらそうではなかったらしい。ゼイはその場で大の字になると、空に向かって叫んだ。


「くっそー! 負けたー!」
「……」
「お嬢! こいつ、強いぞ。お嬢、見る目あるわ。やっぱ」
「そう? まあ、貴方が負けるのは少し意外だけど。それくらい強かったってことよね」
「めっちゃ、情けねえじゃん」


と、ゼイは体を起こして頭をかいていた。立てる? と手を差し出せば、汚れているから大丈夫だと断るところは少しかっこいいとは思ったけれど、確かに砂まみれになっているから触れたものじゃないなとも思ってしまった。

 あの一瞬で勝敗がついた。いや、初めからシュタールは、ゼイの動きを見極めるためだけに一方的にやられていたのかもしれない。そう思えるほどに、彼は勝ってもなお、勝ち誇ったような表情を浮かべていなかった。勝つのが当然ともいえるようなその表情に、彼の底知れない強さを感じる。彼自身が口にした通り、彼には剣の才能が有り、それを磨いて聞きたのだろうと。


「お疲れ様。口から出まかせじゃなかったのね」
「ご主人様」
「貴方の強さは証明されたわ。シュタール」


 私が拍手をして近づけば、彼は、剣を鞘にしまうような姿勢をとった後、木剣だったことに気づき、その場に置くと頭を下げた。


「ありがとうございます。ご主人様」
「……その、ご主人様というのやめない? これから、貴方は、公爵家の騎士として正式に加入するわけだし、私は雇い主でも何でもないから」
「では、なんと?」
「そ、そうね」


 ちらりとゼイを見たが、ゼイのお嬢呼びは、シュタールには合わないだろう。普通に、ロルベーア様か、公女様か……まあ呼び方など決まっているわけではないが、気になってしまったので。


「――では、公女様とお呼びします。ロルベーア・メルクール公爵令嬢……我が主」


 そう言って彼は忠誠を誓うように膝をついた。
 シュタールには多少なりとも私に忠誠を誓う意思はあるようだし、私がそれを認めれば契約が成立するだろう。私はシュタールの前にしゃがみ込み、その肩に触れた後、そっと立ち上がらせた。
 そして、手を差し出すと彼はそれを不思議そうに見つめたので、私は笑って見せた。


「ねえ、シュタール、一つ聞きたいのだけど」
「はい……公女様?」
「貴方、魔法は切れる?」

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