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第1部4章

08 貴方が

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 何が起っているのか頭で理解できず、ちぎられた服の隙間から入ってくる風が生暖かく気持ち悪かった。
 クラウトは、はあ、はあ……と息を切らして、くしゃりとその黒髪を掴む。本能と理性が葛藤しているようなそんな様子に、私は逃げることもできずに彼を見つめるしかなかった。けれど、その身体は今すぐにでもここから逃げたいと叫んでおり、触れられたところが痛む。番以外の男性に触れられると嫌悪感、吐き気などを覚える体質だったことを、今は呪うしかない。そして、そんな浅ましく我儘な身体は、早く殿下に上書きして欲しいと望んでいるのだ。


(馬鹿みたい……そんな、私が殿下の身体だけを求めているような……)


 欲しいものはそれじゃなかった。だから、欲しいものは手に入らなかった。
 私が、唇をキュッと噛んで、物思いにふけっていれば、クラウトは「ああ……」と簡単のような、落胆のような声を漏らす。


「僕はずっとロルベーアが好きだったんです。幼馴染み……僕と、ミステル嬢と、ロルベーア。貴方は覚えていないかも知れませんが、ずっと昔から、僕はロルベーアばかり見てきました」


と、ポツリポツリと、クラウトは零す。そんなことを言われても、私は本当のロルベーアじゃないし、昔話をされても、思い出されるのは断片的な記憶だけ。でも彼にとっては、その思いでこそが掛け替えのないもので、本当にロルベーアを好きだったんだろう。目を見れば分かる。

 サファイアの瞳に映っているのは、幼い頃のロルベーアか……どれだけ求めても振向いて貰うどころか、自分の気持ちにさえ気づいて貰えない。そして、家の決めた婚約によって、ミステルと。そのミステルは、クラウトを好いていて……泥沼の一方通行関係で。


「ミステル嬢とは、そうですね……ロルベーアのいうとおり、政略結婚です。トラバント伯爵家が話を持ちかけてきたんです。今の帝国について。自分たちが、王座を奪うと。父上は了承しましたね。すぐに。父上も、同じ……力さえ持てれば良いような人でしたから。僕達はその駒にされたわけです。でも、ロルベーアも同じでしょ? 望まない番契約を。僕達は結局親の消耗品でしかないんですよ」
「……」


 それは痛いほど理解できた。
 クラウトの好きな人と結ばれなかったという思いも。だからといって、ミステルを一人にするのはいけないんじゃないかと思う。まあ、性格の悪い女だから見放されていても仕方がないのだが、彼女も彼女なりに愛を求めていたんじゃないだろうか。クラウトはきっとそれに気づいていた。気づいていて、気づかないふりをし続け、無視を決め込んだのだ。可哀相な人だと思う。ミステルも、クラウトも……私も。
 でも違うところは一つある。


「私は……確かに、望まない番契約でした。あんな男とって思った事は、一度や二度ではありません。でも今は違う。私の中には、殿下への愛があります。私は彼を愛しているんです」
「だったら……その思いは届かない。僕と一緒ですよ。結局一方通行なんです。皇太子殿下が好きなのは聖女様だ。ミステルが……そうなるように仕組んだ」
「……」
「ロルベーアは警戒しなかったんですよね。どうせもう一週間だと。護衛も侍女も連れず一人でここに来た。僕に何をされても仕方がないんじゃないですか」
「それは、貴方の考えでしょ。私に手を出せば、きっと貴方にも処分が下るわ」
「分かってますよ。きっと、トラバント伯爵家は僕達の家も巻き込んで罪を白状するでしょう。そして、公爵家も貴方が死ぬことで潰れる。帝国の星は、地上に落ちて、その光を失うでしょう」
「……」


 クラウトは諦めたようにそう言うと、私の髪をすくいあげてそこにキスを落とした。そして、露わになった肌に指を這わせていく。私は、クラウトから顔を背けるとギュっと目を瞑った。


「……ん……ふっ」
「ロルベーア……」


 熱い吐息が耳にかかって、それだけで死にたくなるような絶望が襲ってくる。恐怖心か。
 こうやって、元恋人……ストーカーにも襲われたことを思い出し、恐怖で抵抗すらできなくなる。このまま、身体を暴かれて、私は廃人になるのかも知れない。番以外に抱かれるということはそう言うことだ。どうせ、廃人になったところで、殺される運命は変わらない。殿下の手で。分かっている。


「こんなこと……しても、私の心は、手に入らないわよ。クラウト子息」
「分かってます。でも、一度だけでも貴方を抱きたかった。何度も妄想したんです。貴方を抱きしめるのも、抱いて、乱れさせるのも僕がよかったって……でも、ロルベーアは一度も僕を見てくれなかった。なら、身体だけでも……僕にも夢を見させてください」
「……っ」


 そんな理由が通ってたまるもんですか、と思ったが、必死にいってくる彼に同情が湧いてきた。こんな男、どうしようもないのに、これは強姦なのに。


「惨めですよね。僕も、ロルベーアも……」
「貴方といっしょにしないで」
「一緒ですよ。僕達は、惨めでどうしようもない。どれだけ、求めてもそれに対する見返りがない」


 受け入れたくない自分はいる、身体も拒絶している。でも、心からこの男を拒絶してしまったら、私を見ているようだと思った。彼は、最悪最低の足掻きでこうして私を――


(でも、この手じゃない……!)


 私の身体を這う手は、胸に、そしてだんだんと下に降りていき、太ももの内側に触れる。いやだ、いやだ!


「やめてっ! クラウト子息!」
「っ!?」


 気づけば私は首を左右に振っていた。いやだとか、それだけじゃない。涙が溢れてきたのだ。こんなふうに暴かれるのは嫌だと。


「ロルベーア、泣かないでください」
「貴方が、泣かせてるんでしょう……離してください! 離して!」
「皇太子殿下を求めても来ませんよ。足掻いても……その声が、殿下に届くことはないんですから。僕に抱かれて下さい」
「いやあっ!」


 再び押し倒されて、私は必死に身体を捩って抵抗する。鎖はベッドヘッドに括り付けられているから動く度に手首が傷み血が滲む。
 私の声に驚いたのかクラウトは我に返り、そして私の手首から流れ出る血を見て顔を顰めた。
 許されることではないことは分かっていた、でもこうしなければ私も彼も互いに苦しまなければならないと感じていたのだ。どうしようもないほどの悲しみだといってしまうのは少し違うかも知れないけれど。私に降りかかるこの悲しみを無くす方法は――


「黙れ!」
「……ひっ」
「はあ……はあ……何で分かってくれない。こんなに愛しているのに、なんで手に入らない? 僕は、僕はこんなにもロルベーアを愛しているのに!」


 そういって、クラウトは私の頬を叩き、ドレスを全てはぎ取った。
 目の前でヒステリーを起こされ、私も何が何だか分からなくなり、身体を震わせるしかできなかった。でも、それ以上に恐怖が、本能的に恐怖が頭を支配し始める。
 何で分かってくれない、だって言わなかったじゃない。こんなに愛しているのに? 愛しているのなら伝えてくれてもよかったじゃない。なんで手に入らない? 貴方のものじゃないから。全てを否定して、私は首を横に振る。この人じゃない。私が求めているのは、この人じゃなくて、この人のこんな薄汚れた愛じゃない。


「やめて……やめて! いや、いや!」
「ロルベーア……」
「助けて……助けて下さい! 殿下っ!」


 私が必死に殿下の名前を呼ぶと、クラウトは大きく舌打ちを鳴らし、濡れてもいないそこに指を這わせた。つぷりと何かが入ってくる感覚に、私は目を見開く。


「クラウト子息! お願いです、やめて! それだけは!」
「ああ、ロルベーアの中……狭くて、温かくて……」


 彼の口から洩れるうわ言のような言葉に、私の目からは涙が溢れ出る。けれど、クラウトはやめようとしない。ぐちゃりと中を掻き混ぜられ、嫌だと再度抗議の声をあげるが、それは叶わず涙をボロボロ流すしかなかった。彼は私を抱きしめて耳元で何度も愛を囁き続けるが、それを受け入れる余裕などなく私は泣きじゃくる。すると急にクラウトの動きが止まったので顔を上げると……彼は恍惚とした笑みで私を見下ろしていた。そして、おもむろにベルトを外し始めたのだ。


「愛しているんです、ロルベーア。貴方のことが欲しい」


 クラウトの向ける瞳は狂気じみていて、私はそこに美しさなど感じず恐怖で震えあがった。カタカタと身体を震わせて逃げようともがくが拘束具に繋がれた手は虚しく鎖をジャラジャラ鳴らしただけだった。
 殿下以外と繋がるなんて死んでも嫌だ! この身体は……全て、殿下のものなのに! 


(違う、違う……けど、けど――!)


「いれますよ、ロルベーア」
「や……殿下……アイン、アインザーム――ッ!」


 ひたりと、入り口に当てられたそれを私は押し返そうと必死に抵抗する。これが最後の抵抗だろう。そして、最後に出た言葉は、殿下の名前……きてくれるはずのない彼の名前を呼ぶ。クラウトは、それを見て嘲笑している。来る筈無いと、そう笑うのだ。


「これで、ロルベーアと一つに――!?」 


 そうクラウトが呟いた時だった。もの凄い音を立てて、部屋の扉が……いや、壁が破壊された。もの凄い煙を上げて、音を立ててそれらが崩れ、煙の中から彼が姿を現す。
 真紅の彼。靡く髪の毛は、燃えさかる炎のようで、また憤怒と殺意で揺れている。


「公女――ッ!」
「でん……か……?」


 叫びに似たその声が、私の鼓膜を刺激する。


「で、殿下が、な、何故――ぐはっ!」


 クラウトが狼狽えていれば、その顔面にストレートで拳が振り落とされた。クラウトの鼻から血が溢れ出すが、殿下はそれでも攻撃をやめなかった。怒りに任せてな相手を殺そうとしている人の動きだった。
 それとは別に、助けに来てくれた、という感動のような衝撃のような感情も襲ってきた。この絶望的な状況の中にいた私を救い出してくれたのだ。ただそのことだけで、私は彼がとても愛おしく思えてしまう。これが夢じゃないと、痛みが涙が教えてくれる。しかし、彼は我を見失っているのか、クラウトへの攻撃をやめなかった。鞘から引き抜いた剣で、今にも彼を殺そうとしている。


「だ、ダメです、殿下!」
「……っ」


 殿下の動きがピタリととまる。
 私は、拘束具で拘束されながらも、殿下を止めた。ここで殺してしまっては意味がない。彼らは、敵国と繋がっている。ということは、その情報を聞き出さなければならないから。
 殿下は、何故? といわんばかりに私を見るが、私が泣いているのに気づいたのか、その剣を下ろして私の方へ駆け寄ってきた。素早い手つきで、拘束具を破壊すると、裸の私を抱きしめる。クラウトは気を失っているようで、ピクリとも動かなかった。まあ、ご愁傷様だ。


「公女、公女……!」
「殿下、ありがとうございます。助けに来てくれて……私、酷いこと言ったのに」
「今はそんなこと言っている場合か。あんなヤツ殺してもいいだろう」
「ダメです。彼らは敵国と繋がっているかもしれないので、その情報を吐き出させないと。処分はその後でもいいでしょう。どうせ、一族もろとも処分されるでしょうし」
「……公女は優しいな」


と、殿下は困ったように笑った。優しくなんてない。

 そっちの方が、きっと彼らにとってはダメージが入るだろうから。そう思っただけだ。
 殿下は、その後もよかった、と私を抱きしめて離さなかった。罪悪感もあったが、番がいる安堵感からか、私は喜びの涙を流していた。この時間がずっと続けばいいと。
 不安がないわけじゃない。でも、助けに来てくれたということは、その思いが彼に伝わったということで。


「殿下、私、殿下に伝えないといけない事があったんです。もう、私は逃げません」
「公女、俺も……あの時言えなかった言葉を言わせてくれ」
「殿下――――……?」
「公女?」


 クラリと視点が反転する。まるで、張っていた糸がぷつりと切れたようなそんな感覚。意識はあるのに、身体は動かせなくて、口も動かせなかった。なんで。彼がここにいるのに、それで全て終わったはずなのに。いおうと思った言葉が、彼を抱きしめることさえできない。
 モヤモヤと歪んでいく視界。だんだんと暗くなっていく視界のなか、必死に彼の赤を探そうとした。しかし、それも敵わず私の意識は闇へと落ちた。深い、深い、闇へと――


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