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第1部3章
10 未知の気持ち◇
しおりを挟む(――星が落ちてきた?)
「こ、皇太子殿下!」
「こんな夜に、パーティーを抜け出して男女が二人か……目撃されれば、噂はすぐ広がるだろうな。シュテルン侯爵子息。貴様も、トラバント伯爵令嬢とは上手くいっていないのか?」
殿下は馬鹿にするようにそう言うと、クラウトは何も言い返せなくなった。驚きと、困惑で頭が混乱しているのかも知れない。
それにしてもこの男は何でいつも空から降ってくるのだろうか。
赤い星……太陽、それが地上に降ってくるなんて、あってはならないことなのだ。なのに、彼はいつも空から降ってくる。そして何てこと無いような顔して、からかうように笑うのだ。
けれど、彼が現われてほっとしている自分がいた。番が来たからだろうか。
「皇太子殿下には関係無い話です。そ、それに皇太子殿下こそ、ロルベーア嬢を振り回して」
「それこそ、関係無い話だと思うが? 婚約者がいる男が、他の女に言い寄っているなんて噂広められたくなければさっさと失せろ」
「皇太子殿下!」
「殿下、いつお戻りになったのですか。というか、何故空から……で、殿下? きゃあっ!」
質問を投げかければ、彼はそれらを無視し、私に何の断りもなしに彼は私を抱き上げると、二階のテラスから飛び降り、庭園を歩き出した。上から、クラウトの声が降ってきていたが、何て言っているか聞き取ることはできなかった。
殿下と同じ、真紅の薔薇が咲き誇る庭園は静かで、噴水の音しか聞えない。まるで、世界に二人だけになったような気にもなる。しかし、先ほどから殿下は何も喋らない。
「で、殿下下ろして下さい」
「公女、浮気か?」
「え?」
「俺がいない間に浮気とは、公女もなかなかやるな。だが、俺は浮気を見過ごせるほど優しい男じゃない」
そういうと、彼は足で扉を開け、庭園から離宮に入ると、私が使っていた寝室に連れ込み鍵をかけた。詠唱を唱えているところから、鍵をかけた上でさらに防御魔法も張ったのだろう。誰も入ってこれなくするために。
殿下は私をベッドの上に乱暴に投げると、ギシ……と、スプリングをならし、私の上に覆い被さってきた。
「浮気ってなんのことですか」
「あの男に触れられたな、公女」
「殿下に何の関係が?」
「また見ないうちに、冷たくなったな。だが、公女覚えているだろ? 俺が出発前に言った言葉を」
と、彼は闇の中でその夕焼けの瞳を輝かせた。冷たく、見透かされるような目で見下ろされれば、心臓が捕まれたようなそんな感覚になって、私はハクハクと口を動かすしかなかった。
――帰ったら抱く。
その言葉が、殿下の声再生されてしまったのだ。その瞬間体中の熱が一気に駆け巡り、身体が真っ赤になってしまう。
「ハハッ、その様子だと覚えているようだな。公女」
「……思い出させないで下さい」
「期待していたか?」
「全然」
「俺は、公女を抱けるのを楽しみにしていた」
そういって殿下は、私の首筋にキスを落とす。今までこんなふうに触れられたことがなかったので、身体がぴくんと反応してしまった。でも、それは嫌とかじゃなくてただ驚いただけで、気持ち悪いとかそう言った感情は一切感じなかった。
「前も抱いたじゃないですか」
「久しぶりだろ? 最近、イーリスばかりで公女に会えていなかったからな。俺も寂しかった」
「……」
イーリスなんて、名前で呼んで。やっぱり、そういう関係なんじゃ? と思ってしまう。寂しかったって、下半身がでしょ? と、私は心の中で悪態をついて、私の服を脱がしていく殿下とは顔を合わせないようにしていた。
「いいんですか、帰ってきたこと報告しなくて。聖女様に挨拶は?」
「何故そんなことしなくちゃいけないんだ。マルティンには言ってある。それに、番が寝室に入れば、誰も邪魔しないだろう」
「……」
「嫌か?」
と、殿下は初めて私に聞いてきた。
この行為に対して? それとも、イーリスと話すことに対して?
何に対しての確認なんだろうか。
「嫌って何ですか」
「俺に抱かれるのは嫌かと聞いている」
「別に」
そう答えれば、彼はふっと笑い私の首筋を舐め上げる。くすぐったくて顔を背けると、耳朶を唇で食みながら舌を這わした。その生暖かさと音がいやらしくて、身体が疼くのを感じた。嫌じゃないなんて、言質を取られるだけだと思っていたのに……本当は嫌じゃないってことが伝わってしまったかも知れない。そう思うと恥ずかしくて下唇を噛んだ。
「嫌じゃないなら、抱くぞ」
「お好きに」
「……公女の意思を尊重したい」
「何故今更?」
「……番だから、大切にしなければならないと思っている」
「またそれですか。番じゃなければ、私のことを大切にしないと」
ああ、今のやつあたりだな、と自分でも分かった。番じゃなければ、私は殿下に大切にされないかも知れない。そんなことが頭をよぎる。私が今殿下の番だから、優しくして貰えるだけで、そうでなければ、まず抱いてくれないのかもと。
そうして、ふと殿下の方を見れば、いつもなら性急に求めてくるはずなのに、その身体をピタリと止め、私を見下ろしていた。
「殿下?」
「分からない……でも、大切にしたい気持ちが強い」
「何ですかそれ」
「公女だからだな……こんな気持ちになるのは」
そういったかと思うと、殿下は私のドレスの中に手を入れ始める。
「公女が初めてだ。俺をこんな気持ちにさせるのは」
「……っ」
何が初めてなんだろうか。私が、殿下を掻き乱しているとでもいうのだろうか。そんなはずない。私は、何もしていないのに――
殿下は、自分の口を塞ぎたいとでもいうように私に口づけをしてきた。私の唇をわって、その間から下を侵入させる。はじめは、キスの仕方も分からなかったのに、今では彼をすんなり受け入れ、それに合わせ舌を動かしてしまう自分がいた。求められている気になるのだ。
くちゅ、くちゅ、と殿下の舌の動きに合わせながら、その音と快楽に酔いしれる。
「ふぁ……あ……」
とろんとした目で彼を見つめれば、殿下は私の頬を撫でる。そしてまた唇にキスを落とすと、ドレスを丁寧に脱がせようとしてくる。
「殿下、ちゃんと服……脱ぎたい」
「大丈夫だ、脱がせてやる」
そういいながら、確かに彼は私のドレスを全部脱がし、それから自らも上着を脱ぐ。暗がりであまり見えないが、それでも月明かりに照らされた殿下はかっこよくてつい見とれてしまった。傷は増えていない。彼の筋肉質な胸がそこにある。今からこの男に抱かれるんだと、お腹の奥が疼く。
そんな私を見透かしたように殿下は私に再度口づけすると、耳元で囁いてきた。
「なんだ? もう欲しいのか?」
「違っ」
違うと言うのに、その手は既に私の秘部まで伸びており、それをスルリと撫でられた。
「んあっ!」
「嘘つきだな」
そして一気に指を入れられぐちゅぐちゅと中をかき回される。すると私の身体は彼に従順になってしまったように、指の動きに答えるかのように奥から愛液が溢れ出るのが分かった。殿下はそれを確認するかのように私の中から引き出すと、またいやらしい音を立てながら下から上へとなぞってみせる。そのたび私の身体が悦びで震えた。早くそれが欲しいと熱が籠るが……決定的な刺激を与えてくれないのだ。
「た、りない……」
「何がだ?」
「欲しいの、わかってる、くせに」
私がそう言えば、殿下はクスリと笑ってもう一本指を入れてきた。そしてそのまま私の一番良いところを、指の腹で押し潰し始めたのだ。
強烈な快楽に腰がビクビクと揺れてしまう。グチュッ、グチュッという音は止まらず、私の耳までも犯す中更に乳首にまで舌を這わされる始末だ。
「やぁっ、だめ、そこっ」
「いいの間違いだろ。公女、素直になれ」
「んんんっ!」
ビクビクと身体をしならせれば、彼は私を愛おしそうに見つめてくれる。だから……もっとと思ってしまう自分がいるのだ。この人が欲しい。
「い、挿……れて」
思っていたことをそのまま口に出してしまう。こんなのはしたなくて、嫌われてしまうかも知れないのに。
しかし、殿下は喜びに満ちたような表情で口角を上げ、フハッ、と吹き出すように笑った。
「公女が悪いからな。歯止めが効かなくなりそうだ」
カチャカチャと音を立ててベルトを外し、そこからそそり立った自身を取り出せば私の秘部へと当てがった。そして、一気に私を貫いた。
「いっ!」
あまりの大きさに痛みに身体がのけぞってしまう。それでも、殿下は私の腰をその大きな手で掴み逃がさないとでも言わんばかりに、自分の方に引き寄せた。
「あうっ! やぁっ」
「っ……公女の中に全て収まってしまったな」
腹が苦しいのか思わずそこに手がいってしまう。殿下のものが私の中に入っている。でも、この間より大きくて。熱くてドクドクと脈打っているのが分かる。私に興奮してくれるんだという安堵感と、愉悦感でおかしくなってしまいそうだ。
「……殿下が、私の中に」
「ハッ……ハハッ、公女は、本当に俺を掻き乱すのが上手だな」
そして彼はゆっくりと腰を動かし始め、中を突いてくる。そのたびに声が漏れてしまう。
グチュッ……ジュブッ……クチュ……と、卑猥な音が鳴り響くのと同時に、私はその快楽に酔いしれていた。この行為が気持ち良すぎて、頭の中が真っ白になってしまうのだ。でも彼が達するまでは我慢したいから声を漏らさないように唇を噛むのだけれど……彼のそれが私の奥を突けば突くほど、あっという間に耐えられなくなるのだ。
声を出せと、口を開かされ、開いたままの口の端から涎が流れ落ちる。
殿下は私が殿下を掻き乱すと言うけれど、掻き乱されているのは私の方だ。
こんな感情知らない。こんな、未知の感情、名前を付けるとするなら……私は――
「公女ッ、公女ッ……クッ」
「ハァッ、あぁっ、お、くに……欲し……」
「――分かった、出すぞ」
更に奥を突こうとするかのように殿下は私の足を少し持ち上げる。より深くへ彼自身が入り込んでくることに、身体がビクリと跳ねてしまう。そして奥まで届くと、そこから熱い液体が流れ込んできたのが分かった。それを最後まで注ぎ込むためか腰を揺らしながら荒い息遣いが聞こえてくる。彼の吐息交じりのその声を耳元で聞きながら私も軽く達してしまった。
「公女……っ、足りない」
「で、んか……っ」
「ロルベーアッ」
私の名前を呼んだかと思えば、殿下は再び後ろから私の身体を突いてきた。まだ達した余韻が残ったままなので、びくびくと身体が震えてしまうのに、彼はそのままで抜き差しを繰り返す。
「奥ッ! ふかい……っ!」
その快楽から逃げたくて殿下から離れようと腰を引くも、逃げられない。それどころか更に押さえつけられてしまい、より深く奥へと殿下自身を埋め込むようだった。あまりの深さに声が出ない。もう目がチカチカして目の前が見えなくなりそうだった。まるで、離れたくないとそう言われているようだった。苦しいけど、私も離れたくない。このまま繋がっていたい。
そんな思いが伝わったのか、殿下は私の腰を掴み律動を早めた。
何度も達して、疲れてしまったというのにまだ足りないとでもいうかのように。私の身体も、殿下も互いを求め続ける。
「で、んか……も、だめ」
「駄目だ。俺が満足するまで離す気はない」
「ああっ!」
もう既に頭が回らなくなっている。嫌だと言っても彼は離してくれなくて、また彼が果てたのかドクッと私の中に熱いものが流れてくるのが分かった。再びその快楽に酔いしれながらも意識を飛ばさないように頑張っていると、後ろから殿下が私の髪を撫でてくる。それすらも気持ち良くて朦朧としてきた。
そして、最後奥を抉られるようにして穿たれれば、ぷつんと糸が切れたように私の身体はベッドに沈み込む。
はぁ、はぁ……と肩で息をしながら、私の吐息か、殿下の吐息か分からない声が部屋に響く。
「公女……ロルベーア――――」
「……え?」
意識が途切れるその瞬間、殿下は私の名前を呼んで、何かを呟いた。その言葉がノイズがかかったように聞き取れなくて、私は聞き返そうとしたがその前に身体が限界をむかえてしまった。
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