幼馴染の君は勇者で、転生モブAの僕は悪役令息の腰巾着~溺愛なんてしないで、世界を救いに行ってください勇者様!!~

兎束作哉

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第2章 君は職務放棄勇者

04 嫉妬という感情

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「ハハッ! 先手必勝!」


 決闘が始まってすぐ、ランベルトは勝負に出た。フライングともいえる魔力の溜め、そして開始と同時に黒い火球をアルフレートに向かって二発撃った。単調な攻撃だが、その素早さは昨日より断然早く、そして正確だ。両側から、アルフレートを挟むように回り込んで、勢いを増すごとに大きくなっていく。さすがは、魔法の秀才……一応口だけじゃなくて、技術力もある。だからこそ、誰もランベルトに近づきたがらないのだろう。自分はランベルトに劣っていると思っているから。
 実際に僕も、ランベルトとは戦いたくない。実技試験ではよく組まされるが、そのときはランベルトが手加減してくれるからいいものの……


(決闘は相手が降参というまで続けられる。さすがに、決闘を仕切っている監督の判断で中断にはできるけど)


 プライドをかけての戦いだからこそ、基本は止めに入らない。
 ランベルトが放った火球はアルフレートに向かっていく。だが、アルフレートはその場から動かず、向かってきた方向に両手を出した。すると、ヴオンと魔法陣が現れ、その火球はその魔法陣に吸い込まれるようにして消えてしまった。
 防御魔法と空間魔法の合わせ技だろうか。

 ルール的には問題ない。防御魔法と空間魔法は基礎だし、特別な人しか使えないものではないから。ただ、空間魔法も上位になると、使えない人間がほとんどなので、その場合は決闘当初に自己申告しなければならないだろう。
 周りの安全を考慮しなくていいからなのか、アルフレートはわざわざ防御魔法で受け止めた。先ほどと昨日は水魔法で相殺だったが、何故だろうか。


「まだまだっ!」
「芸がないよ。君。単調で、つまらない!」
「これっ! なら! どうだ!」


 ランベルトは、火球を連続で放っていく。アルフレートはそれを防御魔法で防ぎながら、ランベルトに近づいていく。先ほどは、手を出してその周りを中心に防御魔法である魔法陣が出現したのにもかかわらず、今度は本当に一切手を動かしていなかった。飛んでくる攻撃は、彼の周りにバリケードがはられているようにすべて弾かれる。これも、防御魔法の一種だろう。それもまた無詠唱。
 ランベルトがいくらすごくても、アルフレートには勝てないと、そう思ってしまうほどに、彼のわけのわからない異様さが目立った。


(アル…………) 


 同郷のものとして、幼馴染として。彼が勝つことは嬉しいのだが、それ以上に、アルフレートという人間がどんどん離れていく気がするのだ。勇者であるだけでも、そこに壁があるようなのに、さらに、彼は加護をいっぱい持っていて。人間離れした魔法の使い方も。


「クソッ! なんで、攻撃が効かない!」
「悪くないと思う。けど、相手が俺だったから、残念だね」


 アルフレートは右手をランベルトに向かって突き出す。ランベルトとアルフレートはもう殴りあえる距離まで近づいていた。今から反応しても、ランベルトは間に合わないだろう。スッと、アルフレートはランベルトの腹に手を当てたかと思うと、そこから白い光の玉が現れた。そして、次の瞬間にはそれが爆発するように、カッ! と光って、ランベルトは後方の壁に打ち付けられた。


「ぐあっ!!」


 直撃。目で追うことはできなかった。何の魔法だったかも解析が不可能。いや、申告していたからわかるのだが、早業が過ぎる。


「…………っ、勝者。アルフレート・エルフォルク!」


 教師も唖然としていたが、すぐにランベルトが戦闘不可になったのを確認し、手を上げる。
 教師の声に触発されるように、僕は拍手を送った。その音にいち早く気付いたのはもちろんアルフレートで、パンパンと汚いものを触った後のような仕草をしてから、僕のほうに駆け寄ってきた。


「見てた? テオ、見ててくれた?」
「う、うん。見てたよ。すごいね。それで、今の魔法は?」
「光魔法の応用。水魔法を決闘で使用してもよかったんだけど、あえてハンデをね。水の魔法と火の魔法じゃ、水の魔法のほうが有利でしょ?」
「そこまで考えてたの?」


 てっきり怒っているものだと思ったから、ボコボコにしてやる、という感じで水魔法を使うと思っていた。でも、光魔法を使うことは決闘時にちらっと聞こえて。その理由がランベルトを思ってのことだったなんて。


(それでも勝てちゃうんだから、アルに勝てる人間なんていないよね……)


 ランベルトが知ったら不服以外の何物でもないだろう。自分は手加減、ハンデをもらわなければいけない相手なのかと。手を抜かれたと激怒するかもしれない。アルフレートが人を煽るような性悪じゃなかったのが幸いか。
 どちらにしても、ランベルトは負けたわけだ。
 壁に打ち付けられて気を失っている。当分おきそうになかった。午前の授業はまた出られそうにない。というか、今日は午後の授業が休みだったことを思い出した。長めの職員会議があるらしい。近々ある野外研修についての打ち合わせだろう。


「ラン……」
「先生、ランベルトのことをよろしくお願いしますか? 少し疲れたので、仮眠をとってきます」


 さすがにかわいそうだからとランベルトに近づこうとすると、ぎゅっとアルフレートに腕を掴まれてしまった。どうして? と彼の顔を見るが、爽やかな笑みで先生にそういうと、訓練場の出口へと僕を引きずっていく。痛いくらいに掴まれて、骨が折れそうだ。


「アル、アルってば! ……っ」
「はあ、ここまで来たら、もう大丈夫だよね」


 向かったのは、保健室や教室じゃなくて寮だった。部屋に入るなり鍵を閉めて、出入り口をふさぐ。そして、うつむき気味にぶつぶつ言ってこちらへ顔を向けた。ラピスラズリの瞳がギラリと光る。
 いきなり連れてきて、何がしたいんだろうか。そう思っていると、一歩大きく踏み出して、距離を詰めた。


「聞きたかったんだけど」
「う、うん」
「あいつとはどういう関係なの?」


 と、アルは笑顔を張り付けたまま聞いてきた。しかし、その笑顔とは裏腹に、僕の腕を掴んでいた手にはものすごい力がかかっている。返答次第では殺すぞと、脅されているようにもとらえられる。


「どういうって……クラスメイト、だよ。さっきも言った通り。何もないよ」
「そう? でも、朝起こしに行ってるとか、何とか。妬いちゃうな」
「アル、変だよ」


 さっきから何を言っているかわからないい。
 嫉妬している? ランベルトに? というところまでは、ようやくつながった。でも、それは一クラスメイトとして、そしてアルフレートのために行った行動でもあったわけで。


(そんなこと知るわけもないよね。ランベルトが悪役令息で、いずれアルフレートの前に立ちふさがって)


 ――アルフレートが初めて人を殺す。そんなストーリー上のイベントを回避したいがために、ランベルトに近づいたなんて。

 変? とアルフレートは首を傾げる。ピンと来ていないような表情だ。
 昔のアルフレートはここまで情緒が不安定じゃなかった。感情的じゃないし、距離も適切で。あの夜会のときだって、自分を押し殺していた。勇者としての体裁、しっかりしていなきゃって、そんな無理をしていたのに。
 今目の前にいるアルフレートは、感情的で、自分の欲求を抑えきれていない。でも、これが本物のアルフレートなのかもしれない。


「ごめん、変は言いすぎたかも。でも、聞いて。本当に何でもないから」
「何でもないのに、あんなに距離が近いの? テオの特別は俺だけじゃないの?」
「特別は、アルだけ! ……もう、わかったいうよ」


 このまま話していても、一方通行、水掛け論だ。
 僕は降参というように手を上げたら、いくらかアルフレートの気は落ち着いた。だが、まだ油断はできないなと思う。


「ランベルト……彼ね、この学園で一番危険で寂しい人なんだよ。もちろん、寂しい人だからっていう理由で一緒にいるじゃなくて。危なっかしい。それに、アルに劣等感とか、嫉妬とか抱いていた」
「そんな危険だってわかっていたのに、何で……ごめん、話を遮って」
「いいよ、大丈夫。それは、アルのためなんだよ。ランベルトはアルを殺すような勢いで妬んでる。だから、その感情の集中砲火にあわないようにって。いつか、ランベルトがそういう危険な存在と手を組まないようにって、僕は」


 悪役になって、人間に戻れなくなって殺される。そんなかわいそうな結末は嫌だ。
 アルフレートも、ランベルトもどちらも救われない。

 ゲームのシナリオを知っているからと言って、簡単にいくわけじゃない。現に、ランベルトの中からアルフレートへの劣等感や嫉妬心は消えていない。それでも、見張り続けていたら、彼がそういう存在と手を組むところを阻止できるかもしれないと思うのだ。
 アルフレートはわかったような、わかっていないような顔をしたが、最後に「ありがとう」と一言言って目を伏せた。


「それでも、俺はテオが心配だよ。俺のためって言ってくれるのは嬉しい。でも、そのせいでテオが嫌な思いとか。テオが誰かのところに行っちゃうのは、俺、嫌なんだ」
「アル……」
「ごめんね。これじゃあ、あいつと一緒だ。すごい、嫉妬した。テオは俺のものなのにって、みっともない」


 と、アルフレートは胸の内を明かすように言ってうつむいた。掴んでいた手からゆるゆると力が抜けていく。

 暴走していることを、理解しているんだ、と僕の頭からも熱が抜けていく。
 嫉妬してくれていることは嬉しい。それだけ思われているってことだから。でも、周りに被害が及ぶような感情は、危険分子でしかない。


「テオ?」
「僕は、好きだから。僕の特別はアルだけだし、それは絶対。でも、他の人とも交流するよ? ランベルトは、あんなんだけど、中身はちょっと抜けてる、公爵子息っぽくない子だし。仲良くしてあげてほしいな」


 正面から抱きしめて、彼の腰にしがみつく。
 アルフレートは何も言わなかったけど、僕を優しく抱きしめ返して「うん」とだけ口にする。
 アルフレートとランベルトが仲良くなる未来はあんまり見えないけど、それでもどちらかの気持ちが和らいでいれば、その感情が緩衝材として機能するだろう。 なんだか、どっちもの感情の鎖を僕が握っているような気がしてならない。正反対な二人だし、衝突はこれからも裂けられないだろうけど。


「テオ」
「今度は何? アル」
「今日、二回目のキスしたい」
「甘えただなあ。朝、昼、晩ってキスするの?」
「うん。おはようのキスと、お昼まで頑張ったねのキスと、お休みのキス。テオにちゅーってしたい」


 子供が駄々をこねるようにそういって、アルフレートは僕の唇をさわさわと触る。朝あれだけキスしたのに、まだ足りないとラピスラズリの瞳が訴えてくる。まだふやけているし、なんならジンジンするんだけど。求められるものには、応えたいと思った。
 何せ、十一年も離れ離れになっていたのだから。


「い、いけど。朝みたいなのはなしだから」
「ええ? でも、テオ気持ちよさそうだったじゃん。ダメ?」
「ダメ! ……うう、またいつかね。あれは一日一回」
「わかった。じゃあ、優しくね。でも、長く」


 そういって、アルフレートは僕にキスをしてきた。反応が遅れて、彼の唇が当たる瞬間、彼の目と目があってしまう。アルフレートってキスするとき、目を開けているんだ、とか馬鹿なこと思って。目があったらあったで恥ずかしくて仕方がなかった。
 優しくふれた唇はなかなか離れてくれない。ツンツンとかすかに舌でつついているのもわかって落ち着かない。
 うっとりとしたその表情を見るのが恥ずかしくなって、僕はぎゅっと目を瞑って「おしまい!」と叫ぶしか、逃れるすべはなかったのだった。


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