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第2章 偽もののお願い

09 脱兎

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「――えっ、それまた、先輩いいように使われてるんじゃないですか」
「ううん、良い子だから。ゆず君はとっても良い子だし。俺も、何というか、その可愛さに流された部分あるっていうか」
「先輩……」


 ゆず君の事を二人に話したら、あずゆみ君は真っ先に「それは利用されているだけだ」といった。それが、悪い意味じゃなくて、本気で心配しているって顔だったから、心配かけているなとは思って反省はしている。けど、ゆず君は悪い子じゃないし、そこまで、人を利用できるような頭を持っている子という風にも見えない。まあ、ただ、いいようにされているのは、自覚あるけれど。
 一通り、こんな風な出来事が最近あったと伝えれば、二人とも興味津々といったような感じで聞いてくれた。でも、その顔はだんだん心配の色に染まっていき、終いには、はあ……と大きなため息をつかれた。
 あずゆみ君は、頭が痛いというように額を抑えて、首を横に振っていた。そんなあずゆみ君の隣で、ホットケーキを食べながら、器用にスマホを弄っていた、ちぎり君が、フォークを置いて見ていた画面を見せてくれる。


「祈夜柚。高校二年の時に休業を発表後、本格的なドラマへの主演を全部断っている、あざと俳優……へぇ、あのレオ君の」
「二人とも知ってた?」
「いえ、俺は……いや、ちょっと何処かで見たことあるかも」


と、あずゆみ君はちぎり君の見せた画面を見ながら考えているようだった。

 そういえば、二人は白瑛高校出身の学生だし、もし、コースが違ったとしても同じ高校に通っていたゆず君の事を知っていても可笑しくないと思った。校内ですれ違っていた可能性もあるだろうし、ゆず君は目立つ存在だし、記憶のすみのオフに残っていても可笑しくないと思った。というか、この二人が白瑛高校出身生と聞いたときは驚いた。俺よりも頭の良い学校の出で、こんな田舎の大学に来ているんだから。まあ、近くに教育学部がある大学がなかった、というのもあるかも知れないけど。


「僕は知ってましたよ。今度、BL映画に出るんですよね。眞白レオ君と二人で」
「そう。俺は、疎いんだけどそうらしくて……まあ、その話はあんまり本人から聞いてないかな」


 ちぎり君の隣でBL……と小さく頷いていたあずゆみ君は、もしかしたら、BLが苦手なのかも知れない。まあ、聞き慣れない単語かも知れないけど。
 ちぎり君は、どうやらこの手の話には詳しいようで、色々と、話してくれた。主演の眞白レオ君の事もかなり事細かく教えてくれて、全然知らなかったなあ、と改めて俳優の祈夜柚のことを思い知らされた気がした。


「プライベートシークレットボーイ……か。あざと俳優ってのは、好かれるための表の顔。ふーん、ふふ」
「どうしたの、ちぎり君?」
「いや、面白いなあと思って。僕も、そこまで知らなかったんですけど、改めて、凄い子だな、と思いまして。祈夜柚のこと」


と、ちぎり君はにこりと笑う。純粋に、誉めているように見えるが、何処か、影があるようにも見えて、俺は見間違えかと目を擦る。

 ちぎり君の事はよく分からない。いつもニコニコしてて、人間観察と写真を撮ることが趣味ということくらいしか知らない。学年が違うから、昼食時や、学年をまたいだ講義くらいでしかあわない。彼も、プライベートが分からない子だと思っている。
 勿論、それはあずゆみ君にも言えることで、彼も彼で、色々と分からない事だらけだ。何処にすんでいるかとかも知らないし。
 仲が良くない、というわけじゃないんだけど、まだまだ二人のことは知らないことだらけで。先輩として、これでいいのかなと思うことはあるけど。


「ゆず君は、凄くいい子だよ。二人と同い年だし、一回あわせたいなあっても思うけど、ゆず君は俳優だし、目立つから……それに、あの子が会いたいって思うかも分からないし」
「大丈夫ですよ。先輩、無理に会おうなんて思いませんし、俺も俺で色々と忙しいので」
「僕はあってみたいかも。まあ、ツテがないわけじゃないんで、辿れば会えるかも知れませんが。先輩の紹介なら、簡単に会えそうですね」
「おい、瑞姫。あまり、先輩に甘えるなよ」


と、釘を刺すあずゆみ君。

 ちぎり君は、どうやら会ってみたい様子で、俺に「ダメですか」と聞いてくる。でも、その目が期待とか、会いたいって憧れとかの目じゃない気がして、ゆず君にあわせていいものなのか分からなくなってくる。
 俺は、自分でいっておいて何だし、相談して何だけど、二人に誤魔化すようにいう。


「まあ、一回ゆず君に聞いてみるね。こっちから、相談とか、いっておいてあれだけど。あと、俺の話聞いてくれてありがとう」
「先輩の話なら、幾らでも聞くので、また何かあったら教えてください。力になるので」


 そう、優しい言葉をかけてくれるあずゆみ君。俺より心強いなあ、何て思いながら、俺は腕時計を見る。午後に、バイトを入れていたことを思い出して、空になった皿ののったトレーを持って立ち上がる。


「ごめん、今からバイト」


 ガタンと、椅子をひいて、俺は後輩二人に「また」といって返却口にトレーを返す。それから、急いで、バイト先に向かう電車に乗って時間ギリギリにバイト先についた。


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