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第9章  氷の女王

099  氷の女王Ⅱ

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 目の前の敵をただ倒すだけ。他の者の事など考える隙もないのだ。


 演習場の舞台に顔を見せると、目の前には敵がいる。


 自分の事を知り尽くしている敵だ。普通の相手とは格が違う。


「なぁ、一つ聞いてもいいか?」


「なんでしょうか?」


「この観客は一体何?」


「分かりません。私も今、初めて知りました」


「ちっ……誰の仕業だ」


 観客席に目をやる。


「はーい。貼った、貼った! 一口千円。当たった奴には返金するからね!」


 一人の男子生徒が賭け事の商売を行っていた。


「ん? あいつは……」


 デミトロフは、あの面影に見覚えがある。


 先日の男子生徒だ。


 あの忌々しく、憎たらしい。顔が頭に浮かぶ。


「貴様! 何をしている!」


 デミトロフは男に叫ぶ。


「おお、久しぶりだな!」


「久しぶりじゃない‼ そこで何をやっている!」


「ただの賭け事さ。いいだろ? 商売っていうのはこういう時に稼がなければ」


 ハウロックは、笑いながら観客席からデミトロフを見下ろす。


 デミトロフは苛立ちながら視線をエミリーに向ける。


「ジョン。戦いにおいて、違う事を考えていると死にますよ」


「全くだ。この事については後で考えることにしよう」


「それいいのです……」


 エミリーはフッと、笑む。


「じゃあ、このコインが地面に落ちた時が始まりという事で……」


「分かった……」


 二人は呼吸を整える。


 エミリーが、持っていたコインを上空へと投げる。


 二人は武器を手に持ち、落ちる瞬間とタイミングを見計らう。


 コインは落下し、そして、地面に落ちて音を鳴らす。


 カキンッ……。


 と、同時に二人は動き出した。
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