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プロローグ
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都会の街並みのイメージとは違い、田舎は人も街も一回り下回っていて、静かで、ゆったりとした風景が目の前を通過していく。
新天地というのは、人それぞれではあるが、最初の方は誰でもストレスや不安を抱えるものである。
東京とは違い、九州の四月は五度以上暖かいといわれている。
父親の転勤で十六年も住んできた東京を離れ、何も知らない土地、九州の南部、宮崎に引っ越してきた。
日本の中心であった東京から地方に出るだけで世界がガラリと変わってしまう。人口、気候、建物、情報、食べ物、全てが違っていた。
それでも自分の第二の故郷に戻ってくると、あの甘酸っぱい青春時代をふと頭を過る。
あの場所であの時間がどれだけ愛しく思っただろうか。
電車が目的地の駅に止まり、自動ドアがゆっくりと開く。
ホームに降りると、春物の長袖の上に着ていたパーカーが少し暑すぎるくらいに思えた。
もちろん、車内に効いていた暖房の効果もあるのだが、それ以上の暑さを南国の宮崎と呼ばれている程である。確か、初めてこの場所に来た時も同じ様な暑さだった事を覚えている。あの真っ黒な学ランを着て、家から学校まで朝から自転車を漕いでいた通学路。堤防の道には毎年四月になると、満開な桜が咲いている。夏は猛暑であり、秋はイベントが多く、冬には雪が降らなく、積もらない季節を過ごした。
短い時期しか、この場所にいなかったが、それでもここには楽しい思い出やつらい思い出がたくさん詰まっている。
この駅は二階建てになっており、一階が切符売り場、売店、待合室、トイレがあり、二階に上がると、ホームとなり、上りと下りの電車が停車出来るようになっている。
階段を降りると、ズボンのポケットの中から空港からここまでのきっぷを駅員に渡し、外に出る。
昔と変わらず、目の前には大型スーパーがあり、そのすぐ隣には交番がある。
駅から目的地の場所まで少し遠く、バスに乗って行かなければならない。
スーパーで花を買い、すぐに来たバスに乗り込む。車内はスカスカで人は七、八人程度しか乗っていない。
バスに揺られ、十五分後。目的地近くにたどり着き、そこから長い山を登る。
坂道を上がり、長い階段を登り終えると、一本の桜の木がぽつんとそこで満開に咲いていた。
その下には立派な墓が一つ建てられていた。
そこには自分よりも先に誰かが来ていた痕跡が残っていた。
まだ、新しい線香の煙が春風に乗って空へと舞い上がって消えていく。火をつけて間もない線香の香りが香ばしく漂ってくる。
「はぁ……。誰か、俺よりも先に来たんだな……」
チラッと、辺りを見渡すが誰もいない。
「そういう事か……」
そして、真上を見る。
「お前ら、先に来ているんだったら先に連絡しろよな」
逞しい一本桜には、同年代の友人が登って下を見下ろしていた。
「あちゃ~、バレちゃってたのね」
「いや、気配で分かるってーの」
「お前の方がおせぇーんだよ」
「十分も遅いってどういう事よ」
彼らはそう言って、次々と飛び降りてくる。
彼らとは、東京の方でも顔を合わせているが、十年前からこの墓に眠る人物の時は止まったままである。
四人揃って、墓の前に立つ。
「あれから十年か……」
少女が口を開いた。
そう、この墓に眠る人は十年前に亡くなっている。
転校してきて一年間、その人との思い出がこの二十六年間の中でこのたった一年が自分を変えさせてくれたと今でも度々、夢の中に出てくる。
その人は、この桜の様に満開に咲いて、そして、今散る桜の花びらの様に散った。
その人を助けたかった。守りたかった。救いたかった。
今思うと、その人は自分に何というのだろうか。
死んだ人間は、二度と蘇らない。
あの日、伝えたかった言葉。聞きたかった言葉が山ほど、たくさんある。
もし、あの日に戻れるとしたら————
新天地というのは、人それぞれではあるが、最初の方は誰でもストレスや不安を抱えるものである。
東京とは違い、九州の四月は五度以上暖かいといわれている。
父親の転勤で十六年も住んできた東京を離れ、何も知らない土地、九州の南部、宮崎に引っ越してきた。
日本の中心であった東京から地方に出るだけで世界がガラリと変わってしまう。人口、気候、建物、情報、食べ物、全てが違っていた。
それでも自分の第二の故郷に戻ってくると、あの甘酸っぱい青春時代をふと頭を過る。
あの場所であの時間がどれだけ愛しく思っただろうか。
電車が目的地の駅に止まり、自動ドアがゆっくりと開く。
ホームに降りると、春物の長袖の上に着ていたパーカーが少し暑すぎるくらいに思えた。
もちろん、車内に効いていた暖房の効果もあるのだが、それ以上の暑さを南国の宮崎と呼ばれている程である。確か、初めてこの場所に来た時も同じ様な暑さだった事を覚えている。あの真っ黒な学ランを着て、家から学校まで朝から自転車を漕いでいた通学路。堤防の道には毎年四月になると、満開な桜が咲いている。夏は猛暑であり、秋はイベントが多く、冬には雪が降らなく、積もらない季節を過ごした。
短い時期しか、この場所にいなかったが、それでもここには楽しい思い出やつらい思い出がたくさん詰まっている。
この駅は二階建てになっており、一階が切符売り場、売店、待合室、トイレがあり、二階に上がると、ホームとなり、上りと下りの電車が停車出来るようになっている。
階段を降りると、ズボンのポケットの中から空港からここまでのきっぷを駅員に渡し、外に出る。
昔と変わらず、目の前には大型スーパーがあり、そのすぐ隣には交番がある。
駅から目的地の場所まで少し遠く、バスに乗って行かなければならない。
スーパーで花を買い、すぐに来たバスに乗り込む。車内はスカスカで人は七、八人程度しか乗っていない。
バスに揺られ、十五分後。目的地近くにたどり着き、そこから長い山を登る。
坂道を上がり、長い階段を登り終えると、一本の桜の木がぽつんとそこで満開に咲いていた。
その下には立派な墓が一つ建てられていた。
そこには自分よりも先に誰かが来ていた痕跡が残っていた。
まだ、新しい線香の煙が春風に乗って空へと舞い上がって消えていく。火をつけて間もない線香の香りが香ばしく漂ってくる。
「はぁ……。誰か、俺よりも先に来たんだな……」
チラッと、辺りを見渡すが誰もいない。
「そういう事か……」
そして、真上を見る。
「お前ら、先に来ているんだったら先に連絡しろよな」
逞しい一本桜には、同年代の友人が登って下を見下ろしていた。
「あちゃ~、バレちゃってたのね」
「いや、気配で分かるってーの」
「お前の方がおせぇーんだよ」
「十分も遅いってどういう事よ」
彼らはそう言って、次々と飛び降りてくる。
彼らとは、東京の方でも顔を合わせているが、十年前からこの墓に眠る人物の時は止まったままである。
四人揃って、墓の前に立つ。
「あれから十年か……」
少女が口を開いた。
そう、この墓に眠る人は十年前に亡くなっている。
転校してきて一年間、その人との思い出がこの二十六年間の中でこのたった一年が自分を変えさせてくれたと今でも度々、夢の中に出てくる。
その人は、この桜の様に満開に咲いて、そして、今散る桜の花びらの様に散った。
その人を助けたかった。守りたかった。救いたかった。
今思うと、その人は自分に何というのだろうか。
死んだ人間は、二度と蘇らない。
あの日、伝えたかった言葉。聞きたかった言葉が山ほど、たくさんある。
もし、あの日に戻れるとしたら————
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