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小学生篇

第3話  予選開始 Ⅰ

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 翌日の朝————

 昨晩の天気は小雨だった。

 天気予報によると上空に雨雲が掛かっており、朝方にかけて降る予報であったが、空は薄暗かった。

 ジリジリジリジリジリジリジリジリ。

 目覚ましの音が、部屋中に響き渡った。

 新聞配達のバイク音と聞こえてくる。時刻は午前五時半。

 リビングの方では朝のニュース番組が始まっている。

「寝みぃ……」

 祐貴は目を覚まし、自分の部屋から顔を出した。

「おはよう。早く顔を洗って家の前の掃除でもしてちょうだい」

 秋一・祐貴の母、野上紗香のがみさやか(四十三歳)が、朝早くから子供たちの朝食や弁当を作っていた。

「へい、へーい」

 祐貴は眠そうな表情をしながら洗面所に向かい、顔を洗うとタオルで拭き、そのまま首に巻いて外に出た。

「うーさむっ!」

 ドアの隣に置いてある竹ぼうきを手に取ると、自分の家の前に落ちている枯れ葉やゴミを掃く。

「こりゃあ、どっちに女神がつくか分からねぇーな……」

 祐貴は空を見ると、未だに星は輝いており、月も輝き、東の空には太陽の真っ赤な光が顔を出していた。



 チュンチュン、チュンチュン。

 小鳥の鳴き声が聞こえる。

 秋一は、気持ちよさそうに布団の中で眠っていた。

 祐貴は、外の掃除から戻ってくると手を洗い、リビングに向かう。

 ソファーの上にはいつの間にか、押さない少女が座ってテレビを見ていた。テレビ画面もいつの間にかアニメ番組に切り替えられている。

「美咲、秋一は?」

「まだ寝てるよー」

 と、祐貴の妹・美咲みさき(小一)が答えた。

 祐貴は一人部屋だが、秋一と美咲は一緒の部屋に寝ている。

 美咲は小学一年生でありながらいつも六時前には起き、夜十時過ぎには寝る。早寝早起きのよくできた女の子である。

「そうか、なら起こして来いよ。もうすぐ、朝食ができるからさ」

「はーい」

 美咲は、リモコンの一時停止ボタンを押して、二階へと上がっていった。

(これ、録画だったのか……)

 と、祐貴はテレビの画面を見てそう思った。



「すー、すー、すー」

 秋一は扇風機の風に当てられて、気持ちよさそうに抱き枕を抱いて寝ていた。

「秋兄、朝だよ。ご飯だよ!」

 と、二段ベットの梯子を上って、秋一の頬を抓る。

「すー、すー」

 痛みは絶対に伝わっているはずなのにピクリとも反応しない。

 美咲は、次の行動に出た。秋一の上にまたがり、右手と左手の平に息を吹きかける。

「はぁ……」

 そして————

「起きろー‼」

 パン、パン、パン、パン、パン、パン。

 と、綺麗な音が鳴った。

「いてぇえええええ!」

 秋一の叫び声が、外まで響いた。

 頬は真っ赤になっており、ヒリヒリする。美咲の両手の掌も赤くなっていた。

「美咲、何するんだよ……」

「朝だよ。早くしないと朝ご飯が無くなるからね」

「……」

「何?」

「そこ、どういてくれないと起きることすら出来ないんだが……」

「それは、それは……」

「お前、本当に小一か?」

「そうですよー」

 美咲は秋一から飛び降り、先に一階へと降りて行った。

「普通、妹と同じ部屋で寝ている兄貴なんていないと思うんだけどな……」

 秋一は、重い体を起こして一階に降りた。



 太陽が昇り、辺りが暗くなり始める。自動車の音が少しずつ聞こえ始めてきた。

「それじゃあ、学校に行ってくるわ」

 秋一はランドセルをからって、靴を履き、学校に登校する準備を始めた。

「行ってらっしゃい。美咲をしっかり連れて行くのよ」

「分かってるよ」

 美咲もトイレから出てきて手を洗い、ランドセルをからう。

「そうだ。そうだ……」

 秋一は、玄関から顔だけを台所の方に向けて祐貴の方を見た。

「兄ちゃん、勝てよ!」

「ああ、勝つよ」

 祐貴は答えた。

「じゃあ、行ってきまーす」

 二人は学校に行った。

「祐貴は何時から試合だっけ?」

「確かお昼の十二時だったな」

「そう、頑張りなさいよ」

「おいおい、息子の先発に見に来ないのかよ……」

「母さんだって家事で忙しいの。ネットで応援するから我慢して、準決勝から応援に行くから……」

「そこまで行くとは限らないだろ……」

 祐貴は、朝食後のコーヒーと新聞を時間になるまで楽しんだ。

「父さんは?」

「出張でまだ帰ってこないわよ」

「あ、そう……」

 祐貴は、熱々のコーヒーをぐっと飲みほした。



 真島食堂前————

 秋一たちが到着したころにはいつものメンバーがもう集まっていた。

「よっ!」

「よっ!」

 春馬と秋一は、いつも通りの簡単な挨拶をする。

「なっちゃん、おはよう」
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