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小学生篇

第1話  幼き幼なじみ Ⅰ

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 ここは静かで平和な街であった。

 ここに一つ、小さなグランドがある。

 誰もいないグランドには、一個の白球が置かれてあった。

 その白球には、赤い糸が縫い込まれており、柔らかく、硬い小さなボールである。

 この白球を少年たちが必死に追いかける————



 ————時を同じくして、ここはどこにでもある普通の一軒家。

 木材で建てられた和風の家である。

 目の前には道があり、隣隣りが、建物住宅でびっしりと埋まっており、コンビニ、スポーツ店、レストラン、カフェ、食堂、本屋など生活に必要なお店が並んでいた。

 そんな街の中にこの普通の一軒家がある。

 ————そして、この家にテレビを見ている少年、野上秋一のがみしゅういち(小四)

 昼間からボーッとしており、友達と外で遊ばずに家でダラダラしていた。

 すると、

 プルルルルル————

 家の固定電話のなる音が聞こえてきた。

 近くには誰もいない。仕方なく秋一は、電話に出ることにした。

「はい、もしもし……」

 と、口を開く。

「あー、お前か……。あ、うん……。えー、今から? へーい」

 適当に返事を返し、電話を切る。

 ポンッ!

 後ろから頭を叩かれた。

「誰から電話だ?」

冬乃ふゆのからだよ」

 と、自分の頭を叩いた人物に言った。

 秋一を叩いた人物は秋一の父親だった。

「あ、そう……。日が暮れないうちに帰って来いよ」

「分かってるよ」

 秋一は、汗を掻いた服を洗濯かごに入れて、新しい服を棚の中から取り出し、着替え、靴を履き、外へと出て行った。

 小学生用のマウンテンバイクの施錠を解除し、サドルにまたがった。

「しかし、今日も暑いな。年々、暑くなっていないか? 来年はどうなっているのやら……。早く涼しくなって欲しいものだ」

 そう、愚痴ぐちを言いながら秋一はペダルを漕ぎだした。



 ————ここはとある食堂

 キ、キーン。

 誰かの自転車のブレーキ音が響き渡った。

 そして、もう一つ、食堂の近くで一人の女の子がブンブン、ブンブン何かを振り回している音が聞こえてくる。

 ヒュッ、ブン、ヒュッ、ドン。

 様々な音が交わる。

 自転車で到着した秋一は、マウンテンバイクから降りると、しっかりと鍵をして、音がする方へと歩いて行く。

 ヒュン。

 一瞬、目の前の視界がおかしくなったのかと思った。よく見ると、網状のものが自分の頭を覆いかぶさっている。

「うーん。何か違うなぁ……」

 秋一に謝りもせずに、独り言をブツブツ言っている少女。

 秋一の幼なじみ・山本夏海やまもとなつみ(小四)

「ねぇ、この素早い振り回し、どう思う?」

「どうと言われても、その前に何か言うことはないのかねぇ?」

「何が?」

「————頭だよ! 頭‼ 俺はお前に捕らわれるような虫じゃないの‼」

 ドンッ! ドサッ……。

「いてて、ごめんごめん。こんな所に立っているとは思わなくてさ」

 冬乃の妹、真島夜空ましまよぞら(小一)が秋一にぶつかってきた

「……」

 秋一は、その反動で虫取り網をかぶったまま地面に倒れている。

「こらー、夜空ぁああ!」

 と、大声が聞こえてきた。同時に秋一は飛び起きる。

 店の方の見ると、調理箸を持ったまま中学生くらいの男の子が店の中から出てきた。

 冬乃の兄、真島光大ましまこうだい(中二)である。

「お前、また何かやらかしたのか?」

 と、秋一は夜空に訊いた。

「……」

 夜空は、秋一と目を合わさずに視線を逸らし、鳴らない口笛を吹く。

「ここに居やがったな! 店の料理に手を付けるなってあれだけ言っただろうが!」

 光大はすぐに夜空の居場所を突き止めると、夜空を厳しく叱りつける。

「だって……美味しそうだったんだもん……美味しそうだったんだもん‼」

「はぁ……。だからと言って勝手に食べてもいいってもんじゃないだろ? 食べたいなら食べたいと言えばいいのに……」

 光大は額に手を当てる。

「だって、言っても食べさせてくれないし……」

 夜空は小声で愚痴を言う。

「当り前だろ! 言い出したら味見程度じゃなくて普通に作らされるんだ! 怒られるのは俺なんだぞ!」

「ごめんなさい……」

「解ればよろしい」

 謝る夜空を見て、すぐに許してしまう光大。やはり、兄は妹に弱い存在なのである。

「おう、秋一。冬乃ならまだ家の中で準備しているぞ」

「あいつの方も叱ったらどうですかね?」

「……」

 光大は黙ったまま、夜空を連れて店の方へと入っていった。

「どう思う?」

「さぁ……」

 秋一の問いに夏海は苦笑いをしながら答えた。

「秋一君、夏海ちゃん。オレンジジュースあるけどいる?」

 窓の方からこちらを見ていた若い女性が話しかけてきた。

 真島食堂の女将、冬乃の母・真島瑞葉ましまみずは(四十二歳)

「ええと……ありがとうございます」

「それじゃあ、お店の方に入ってきて」

 瑞葉はそう言うと、窓を閉めた。どうやら、先程から外の方の様子を窺っていたらしくて、この炎天下で暑そうに見えたのだろう。

 店の中に入ると、外とは確実に温度差があり、涼しかった。

「涼しい……」

 秋一と夏海は、店のカウンターに座り、瑞葉がコップに注いだオレンジジュースを出す。

「はい、どうぞ!」
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