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第1章 インターハイ予選

007  インターハイ予選Ⅶ

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「ゲーム白石。ゲームカウント4—1フォーワン
 主審は記録用紙に細かく一試合の流れを書き込みながら、試合の審判をするのは大変である。それに比べて副審はボールがしっかりとコート内に入っているかどうかをボールをしっかりと目で追いかけながら判断する。
「はぁ……。水、水……」
 白石はベンチにぐったりと座りながら、タオルで汗をしっかりと拭いて、ラケットのグリップに染み付いた汗も一緒に拭き取った。その後、ペットボトルに残っている少量の水を飲みほして、新しいペットボトルのふたを開けた。
(しかし、1ブレイクアップで助かった……。この後、1ゲームキープされたとしても俺がこのまま自分のサーブゲームをキープさえしておけば勝機しょうきは見えてくるが……それよりもあいつの動きは最初から硬かったな。俺と試合する前に2戦をしていたら、疲れが見えてくるらしい)
 白石は主審の向こうに座っている和弥の横眼で見ながらそう思った。
(……不味いかな?1ゲームはキープしたものの、この展開はやっぱり駄目だ。あいつらの声は聞こえてくるがここからどうすればいい。何か、逆転する手はないのか?いや、絶対に相手にも隙があるはずだ。どうする……何をすればいい‼)
 頭の思考しこうをフル展開させながら、ゲーム展開の想像をしながら、口にスポーツドリンクを流し込む。
 太陽も西に沈みだして、ボールの動きが少しずつ見えづらくなってきている頃である。もうそろそろ仕掛けなければ、和弥の負けは確定してしまうのだ。つまり、次のサービスゲームで体をリフレッシュし、リズムを変えるべきである。
「タイム」
 審判がそう言うと、和弥は3戦目になって負担がくる体を立ち上がらせながらベンチの後ろに回り、ゆっくりと歩き出した。右を振り向くと仲間の声援せいえんが聞こえてくる。
「リラックスして、試合に集中しろ!先の事を考えるな!」
「ほら、深呼吸、深呼吸。ここが正念場だぞ。しっかりしろ‼」
「優木君、ここ頑張って‼皆応援しているよ‼」
 桜坂高校の皆が和弥に声をかけてくる。試合中は声に出して応援できないから、休憩中きゅうけいちゅうに言ってくれるのだ。ありがたいことである。応援してくれる人、こうやってアドバイスをくれる人がいると肩の荷が下りてくるような感じがしてくる。
「ああ」
 和弥は手を軽く振りながら、向こうのコートへと一人で歩いていく。自分が上に行くことしか考えていなくプレーがおろそかになっているのは事実である。それに今日は2戦とも勝って、自分が天狗になっていたのが一番の原因であろう。そう思ってくると、なんだか恥ずかしくなってきた。
(先の事を考えるな……か。確かにそうだ‼目の相手は俺よりも強いことを自覚じかくしないとな‼俺は今、負けていて、誰よりも弱い。この中で一番の怖がりな奴だ。負けていることを恐れている選手だ。自分の目で見てきたことに自信を持て、それを試合に生かさない選手がどこにいる‼俺はこの試合、一球、一球。相手に対して、自分の力をぶつけてやる!)
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