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第1章 インターハイ予選

002  インターハイ予選Ⅱ

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 それからは、和弥は一ゲームキープするもの二つブレイクされ、功一のリードで第六ゲームが終了した。
「ゲーム。5—1ファイブワン。功一先輩リード……」
 気温が徐々に高くなりつつ、コート上では周辺の気温よりも二、三度高くなっている気がする。第七ゲーム、功一からのサービスゲームでもあり、これをキープされると和弥の敗北が決定する。
(ここまで、キープできたのはたったの一回だけ……。残りの二つのゲームはほとんどが自分のミスや打ち込まれることが多かった。それに俺の嫌なところをどんどん狙ってきやがる。現状は勝てる気がしない……)
 深く入ってくるボールを必死に返すだけで、一方的に功一のいいようにゲームを進められていく。そして、マッチポイントになり、功一は最後にドロップショットでネットギリギリに落として、あっさりと試合を決めた。
「ゲームセット。6—1シックスワンで功一先輩の勝ちです」
 審判台に座っていた紀行がそう言うと、和弥は息を切らしながらその場に立ったまま膝に手をついた。功一は息をゆっくり吐いて、テニスウエアで汗を拭く。腕からは汗が流れて床にぽたぽたと少しずつ落ちていく。互いにネットまで近寄ると握手を交わし、道具を片付けた後、屋根ありのベンチで全ての試合を観戦していた東郷先生の所へ二人は試合の報告をしに歩いて行った。
「1—6。負けました」
「6—1で勝った」
 和弥は悔しそうで、声も小さく落ち込んでいる表情だったが、功一は無表情で勝っても当然のように言った。それを見た、東郷はノートに総当たり表に記入した後、溜息をついた。
(なんで、功一の奴は勝っても当然みたいな顔をしているだよ。まあ、この中では断トツ的にうまいが、和弥だってそこまで弱くはない。これが体格に恵まれた奴の特権か……)
 東郷は頭を掻きながら、スコアを見ると、自分の目で見ていた試合と照らし合わせていた。
「ああ、なんだ。勝ててよかったと思います。優木は決して強くもないし、弱くもない。……後は勘?」
 功一は首を傾げながら、最後は疑問形で和弥と東郷に話し出した。自分で言っているわりには自分が何を言いたいのかはっきりと分かっていないようだ。東郷は呆れた表情で功一が何を言いたいのかなんとなく分かるような気がした。
「あ、え?あの……意味が分からないんですけど?」
 和弥は功一の発言が理解できなくて、困っていた。
「こいつが言いたいのはつまり……お前は強いけど、上に行けば行くほど同レベルの奴と当たった時、人にはない自分の武器を持ってない限りこれから先勝ち上がれないと言っているんだよ‼」
「あ!それ、それ!それが言いたかったんだよ‼」
 東郷が功一の代わりに翻訳をして伝えると、功一は納得したように頷いた。功一にはスキルはある上に自分の体格と目の良さをうまく生かしている。しかし、和弥はスキルあってもそれは練習をすればそれなりに出来るものであり、その上をいく武器を持っていない。
 それから残りの一週間ほどで、和弥は自分なんりのスキルを磨くために試行錯誤しこうさくごしながら、練習時間は主にフォアハンド・バックハンド・ボレー・ドロップショットなどを中心的に集中して、家にいる時は、壁に向かってサーブの練習をした。一週間という短い期間で出来るのは限りがある。そして、気が付くと大会二日前になっていた。
「はい、注目!総体に出る人、そうでない人それぞれいると思うが一人一人がスポーツマンという自覚を持てよ。今日は午後から壮行会そうこうかいがあるから遅れずに体育館に来るように……」
 担任の先生は教卓でそう言うと、午前中の授業が終了した。クラス内では終了と同時に財布を取り出して、売店行く人や早速弁当を取り出して食べ始める人がいた。
「それで、和弥は結局どうなのよ。そこの所……」
「うーん。良くても団体戦は予選止まりだろうな。個人は分からないけど……」
 グループで固まりながら、和弥はクラスメイトに質問されていた。
 彼の名前は霜月雄真しもつきゆうま。和弥の同じクラスメイトであり、サッカー部に所属している。同じ学年に双子の姉がいる。運動センス抜群で、頭も中の上である。一年の中ではいきなり、ベンチ入りメンバーという驚異な成績を収めている。
「そうかよ。俺の場合、うちのサッカー部は県でもベスト4まで進める強豪だけど、それからが厳しいんだよな……。特に私立の鳳凰高校ほうおうこうこう。あそこは化け物ぞろいで、県外から選手を引き抜いているとか。金がありすぎるだろ?」
 愚痴を言いながら、ご飯大盛りにおかずたっぷりの巨大弁当を胃袋の中に入れていくのだ。どこにそんなに入る胃袋があるのかと、周りの奴はそう思った。
「いや……皆、お前の弁当の方にびっくりしていると思うけど……」
 和弥が箸で雄真の弁当を指して、周りのクラスメイトも頷く。
 そこに一人の女子生徒が勢いよく三組の扉を横にスライドした。
「げっ!あの女は……」
 雄真は和弥の後ろに回り、素早く身を隠した。
 女子生徒は教室をきょろきょろしながら、誰かを探しているようで、和弥の背後にいる人影に気が付くと、睨みつけてこっちに歩み寄ってきた。
「あ、いたいた。あんた、お姉ちゃんが来ただけで、なんで隠れるのよ!」
(あ、あれが姉ちゃん————‼)
 誰もが驚きを隠せずにいた。入学してから二か月。雄真は彼女との接点は全くなかったのだ。
「なんで、姉ちゃんがここに来るんだよ!今日の今まで隠し通せてきたのに!」
「そんなの知らないわよ!それよりもあんた手先起用だったわよね‼このユニホームを休み時間内に縫っておいてくれない?大至急!」
(よく見ると、いろんなところが似ている!双子の姉弟ってここまで似るか⁉)
 二人のケンカを見ていた和弥たちは揃って、心の中でそう思っていた。性格も似ていれば、目つきなどが微妙に似ている。
「は……はぁ?俺だって準備があるのに⁉」
「言い訳しない!確かに伝えたからね!やってなかったらどうなるか分かっているよね!」
 ユニホームと裁縫道具セットを渡すと嵐のように過ぎ去っていった。
「あ、ちょっと‼姉ちゃん……」
 雄真は弁当を置いて、教室を出て姉を追いかけようとしたが、その頃にはもう、自分の教室に逃げ込んでいた。
 その様子を一部始終見ていた和弥たちは、あの女子生徒が誰なのか詮索していた。
「なぁ、あの女子生徒って、一年五組の霜月奈々しもつきななだろ。ソフトテニス部の……」
「お前知っているのかよ‼」
「ああ、どうも名字が似ているなぁと思ってはいたけど……まさか、双子だったとは思わなかった……」
「でも、さっきの女子生徒は美少女だったよなぁ……」
「確かに……でも、本性があれじゃあーね‼」
 周りの奴らはうんうんと、頷いた。顔はいいけど性格がダメ。男は結局何が本当の好みなのだろうか?
 雄真は、頭を地面に向けて、大きな溜息をしながら帰ってきた。弁当の残りをさっさと食べ始めて、裁縫道具を取り出し、せっせと姉のユニホームに学校名のゼッケンを引っ付けて縫い始めた。手が慣れているのか、細かいところまでしっかりと縫い、出来上がりの完成度を見るとプロがやったような見分けのつかないほどだった。

 壮行式も終わり、練習時間まで一時間くらい余裕があった。和弥と紀行、それから同じ部活の同級生である甲斐光介、橋本秀人と共に紀行の家にお邪魔していた。四人は時間に十分前になるまで高校総体期間の課題を早めに進めておいた。数学、英語、国語、化学がそれぞれ三枚ほど均等よく出されていた。特に、英語は鬼のように翻訳をさせられる運命であり、それぞれインターネットから翻訳アプリを使い、適当にその翻訳をそのまま写す作業をした。
 時間になると、テニスウエアに着替えて、荷物を整理し、自転車に乗ってスポーツ施設に移動した。
 今日は二日前ということで隣の高校と共に練習することになった。
 練習は三時間程度で軽めに流した。そして、明日になると曇りのち晴れで、最後の調整を終えると、とうとう本番になった。
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