一席お付き合い

夏の落語会

寿限無 3

寿限無をやる中で、客席から笑い声やへぇ～という声が聞こえる、掴みとしていいようだ、

「『おう、今帰ったぞ』 

『 あら、おかえりなさい、どうだいい知恵は貰えたかい？』
 
『ああ、いいか？読むぞ』

『読む…？』」

何文太は懐から手拭いを取り出すとそれを紙に見立てて読み上げる

「『寿限無寿限無じゅげむじゅげむ五劫ごこうのすりきれ海砂利水魚かいじゃりすいぎょの水行末雲来末風来末すいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ食う寝る所に住むところ藪ら柑子やぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命ちょうきゅうめいの長助ちょうすけ』

『ずいぶんと沢山だねぇ、なに？全部縁起が良いのかい？そんなにあったら選ぶの大変だろう、どうするつもりだい？』

『ああ、全部付けようと思うんだよ、まぁ聞けよ、どれか1つだけ選んで直ぐに死んじまってアッチの名前にすりゃよかったって後悔しても遅いだろ、だから全部つける』 

ってんで、この熊さん全部を名前にしちまった、そうなると大変なのは近所の人達だ、ご近所付き合いってのがあるんでね、名前を言えないってのは不便でしょうがない

『こんにちは、こんにちは』

『あらあら、隣のおばさんどうなさったんですか？』

『いやね、お子さんの顔を見に来たんだけどね、お名前を言いたいから違うところあったらおしえもとくれ』

『それはそれはご丁寧にありがとうございます』

『いいかい言うよ、ｺﾞﾎﾝ寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る所に住むところ藪ら～柑～子の～ぶらこ～うじ～パイポパイポパイポのシュ～リンガン～シュ～リンガンの～グ～リンダイ～グ～リンダイの～ポンポコピ～の～ポンポコナ～の長久命の～長～助～御愁傷様ごしゅうしょうさまです』

『やめてください、お経じゃないんですから』

と言うような事もよくあったそうで、さてこのような名前をつけたかいもありまして、すくすくと成長いたしまして学校に通うようになりましても苦労とは絶えないものでして、朝に友達が来ても

『お～い、寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る所に住むところ藪ら柑子のぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助ちゃ～ん、一緒に学校いこ～』  

『あらケンちゃん、ごめんね家うちの寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る所に住むところ藪ら柑子のぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、まだ寝てんのよ、ちょっと起こして来るからちょっとまっててね、ちょっと寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る所に住むところ藪ら柑子のぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、起きなさいケンちゃん来てるよ、ちょいと寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末…』

『おばちゃーん、遅れるから先行くね～』

なんてこともございました」