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今の私に出来ること

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言葉が浮かばないわけじゃなかった。浮かんでくるのに、それを声にするのが怖い。だって、これまで私はいつだって、こんな場面で逃げてばかりだったから。

――でも。

「ちょっと……いいですか。」

女子たちの視線が一斉に私に向く。その目には驚きと苛立ち、そしてわずかな戸惑いが浮かんでいる。まるで、私のような人間が何かを言う資格などないとでも思っているかのようだ。いや、実際そう思っているのだろう。彼女たちの視線は、それを無言で主張していた。

――どうでもいい。今、この場で私がしなければならないのは、ただ一つだけだ。

「――はっきり言わせてもらいます。」

声が震えそうになるのを必死に堪える。いや、震えていたかもしれない。それでもいい。ここで何も言わないほうが、きっと後悔する。そう思ったからこそ、私は声を出した。

「あなたたち、ただ静かに歩いていただけの女の子を見つけて、写真を撮ろうとして、『拡散してやる』なんて言ってましたよね?」

彼女たちの表情が一瞬強張る。それは間違いなく身に覚えのある言葉を突きつけられた時の反応だった。でも、すぐにその表情は変わった。怒りと憎しみがその場を覆うように、睨みつける目が私を刺してくる。

――それでも、言わなきゃいけない。

「注意されたら、『キモい』だの『ババア』だの……嘲笑して。」

彼女たちの睨みがさらに強くなるのがわかる。その目は「お前なんかに何がわかる」という無言の怒りを訴えかけてくる。だが、それがどうした。私はもう一歩前に出た。

「あなたたちは何がしたいんですか?あの子を傷つけて、何か楽しいことでもあるんですか?」

声に力を込める。意識していなかったけれど、私の言葉が少しずつ大きくなっていくのがわかる。それでも、彼女たちは目を逸らさない。いや、目を逸らせないのだろう。

「虐めている自覚がないんですか?それとも、虐めだとわかっていてやっているんですか?」

その言葉に、彼女たちの表情がわずかに揺れた。その一瞬を見逃さなかった。私はさらに続ける。

「傷つけるのは簡単です。でも、傷つけられた側は――その痛みをずっと背負い続けなきゃいけないんです。」

声が震えた。それは自分でもわかる。今の私が思い出しているのは、過去の自分だ。かつて何もできなかった、ただ耐えるしかなかった自分。その痛みが、胸の奥でじくじくと広がるのを感じた。

――もう、あの頃の私には戻りたくない。

その思いが、次の言葉に力を込めさせた。

「それでいいと思ってるなら――あなたたちは本当に最低だと思います。」

女子たちは何も言わない。ただ私を睨み続けている。その目には怒りと困惑、そしてわずかな動揺が混じっているのがわかった。でも、それでいい。彼女たちがこれからどうするかは彼女たち次第だ。私は言いたいことを言えた。それが、今の私にとって必要だった。

周囲の視線が私に注がれているのがわかる。その視線は冷たいものではなく、どこか私を支えるような温かさを持っている気がした。その事実が、私の中に小さな光を灯す。

背後にいるキリアンは何も言わない。ただそこに立って見守ってくれている。何となく、彼の存在が私の背中を押してくれたように感じた。

――これでいい。これが、今の私ができることだ。

私は深く息を吸い込みながら、買い物袋を強く握り直した。その小さな動作が、自分自身を少しだけ奮い立たせてくれたように思えた。
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