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第四章 新世界編
【ジネット視点】違和感
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☆ ☆ ☆
私はジネットという名前らしい。
何故疑問形なのかと言われれば、つい先日まで別名だったから。
異世界転生なんてラノベの世界の話なのかと思ったけど、まさか我が身に降りかかるなんて想像も付かなかった。
前世の私は出来のいい姉といつも比べられて、肩身の狭い想いをしてきた。
容姿、勉強、友人関係、どれを取っても姉が常に上で、平凡な私は姉に勝てないと早々に悟った。
そんな姉に期待が寄せられるのは自然なことで、両親も漏れなく姉を優遇した。
両親から与えられる物は全て姉のもので、出来の悪い私は姉のお下がりを消費するだけの存在。
両親から愛される姉を後目に、ひたすら存在を消して目立たないよう生きてきた。
そんな肩身の狭い環境から逃れるために、就職先は都会の会社を選んだ。
器量の悪い私に選べる就職先など限られていたけど、その中でも給与の良い会社を選んだ。
業務量が多いので当然のように残業を強いられる職場だったけど、いない子として扱われてきた家庭環境よりよっぽど良かった。
そんな私の癒しだったもの……それが、乙女ゲームや異世界転生物のコンテンツだった。
乙女ゲームも異世界転生物も、主人公が活躍したりちやほやされる設定のものが多い。
両親からお荷物扱いされ、オンリーワンになることも出来ない私には、疑似的にそれらを体験することで一時的に辛い体験や環境から逃避することが出来た。
身体は寝れば疲れが取れるけど、精神的な疲れはそうはいかない。
休日になると癒し養分を摂取するために、せっせと書店、コミケ、ネットサーフィン等でコンテンツ漁りをするルーティンが確立されていた。
そんなある休日、いつものように養分摂取のためアニメイトに立ち寄った帰り道でラノベを読みながら歩いていた。
これは完全に私が悪いのだが、帰り道はあまり車通りもないため、つい買ったラノベが気になりを歩きながら読んでしまったのだ。
そして、内容に夢中になってしまい注意散漫になり、気付いた時には激しいクラクションと強い車のライトが目の前にあった。
――そして目を覚ますと、ジネットという女性になっていた。
このジネット、とても地味な容姿だが見覚えがある。
私が前世でやっていた乙女ゲームのモブキャラにこんな地味目なキャラがいたのを思い出したのだ。
そこでようやく自身が異世界転生をしたことに気付いた。
ジネットは下流貴族の一人娘として育ったようだ。
ただ、ジネットは前世の私のように、あまり器量も良くなかったこともあり、心配した両親はより良い教育と人脈作りのために隣国に留学をさせることを決めたようだ。
その留学先は――乙女ゲームの舞台である学園だ。事前に確認したパンフレットを見た時にそう確信した。
この乙女ゲームは人気があり、二部構成で終わっていた記憶がある。
確か一部では一年生の進級時に悪役令嬢を婚約破棄してヒロインと結ばれるところで話が終わったはずだが、ファンの根強い声で二年生の卒業編が配信されたのだ。
昔やったゲームだし細かい内容は抜けてしまっているのだけど、確かジネットは卒業編の途中で出て来るクラスメイトの一人だったと記憶している。
モブに転生したのは残念だったけど、大好きな乙女ゲームのコンテンツに転生出来たことは素直に嬉しい。
モブの私がこの物語に関与できることはあまりないと思うけど、せめてリスペクトを込めてキャラ達の動向を間近で見て、出来れば多くのイベントスチルをこの胸に焼き付けておきたい。
ああ、どのルートで物語が進むのかしら。今からわくわくする!
そして、コンテンツから得られる養分を摂取した後は、両親の期待通りに学園を卒業して隣国へ戻るのよ。
――そう思っていたのに。何なの、この世界は。
教室に入った途端に違和感に気付いたのだけど、婚約破棄された悪役令嬢が攻略対象者のキラキラ王子の隣の席とかおかしくない?
それに、ヒロインと攻略対象者が悪役令嬢と仲良くしている……だと?
確か二部では婚約破棄された悪役令嬢は逆恨みでヒロイン虐めが激しくなっていくストーリーだったはずなのに、一体どういうことなの!?
それに、配られた教本にはギフトという文字。でも書かれている内容は魔法と一緒だわ。
確かこのゲームは魔法が出て来る世界感だったはずなのに、その魔法が出てこないなんて……。
おかしい、この世界は私の知っている乙女ゲームじゃないわ。
もしかして……何かのバグ?
これは原因を探る必要がありそうね。
はぁとため息を吐き、椅子にもたれ掛かる。
寮に戻ってから備え付けの机でしばらく考え込んでいたので、少し身体が硬くなっているようだ。
んーー、と腕を伸ばして背伸びをしながら寮の壁に立てかけてある時計に目をやるとちょうど夕食の時間にさしかかっている。
もうこんな時間か。お腹も空いてきたし、ごはんを食べたら明日からの行動を考えないと。
机の上のメモ書きを無造作に引き出しにしまうと、食堂を目指すことにした。
☆ ☆ ☆
私はジネットという名前らしい。
何故疑問形なのかと言われれば、つい先日まで別名だったから。
異世界転生なんてラノベの世界の話なのかと思ったけど、まさか我が身に降りかかるなんて想像も付かなかった。
前世の私は出来のいい姉といつも比べられて、肩身の狭い想いをしてきた。
容姿、勉強、友人関係、どれを取っても姉が常に上で、平凡な私は姉に勝てないと早々に悟った。
そんな姉に期待が寄せられるのは自然なことで、両親も漏れなく姉を優遇した。
両親から与えられる物は全て姉のもので、出来の悪い私は姉のお下がりを消費するだけの存在。
両親から愛される姉を後目に、ひたすら存在を消して目立たないよう生きてきた。
そんな肩身の狭い環境から逃れるために、就職先は都会の会社を選んだ。
器量の悪い私に選べる就職先など限られていたけど、その中でも給与の良い会社を選んだ。
業務量が多いので当然のように残業を強いられる職場だったけど、いない子として扱われてきた家庭環境よりよっぽど良かった。
そんな私の癒しだったもの……それが、乙女ゲームや異世界転生物のコンテンツだった。
乙女ゲームも異世界転生物も、主人公が活躍したりちやほやされる設定のものが多い。
両親からお荷物扱いされ、オンリーワンになることも出来ない私には、疑似的にそれらを体験することで一時的に辛い体験や環境から逃避することが出来た。
身体は寝れば疲れが取れるけど、精神的な疲れはそうはいかない。
休日になると癒し養分を摂取するために、せっせと書店、コミケ、ネットサーフィン等でコンテンツ漁りをするルーティンが確立されていた。
そんなある休日、いつものように養分摂取のためアニメイトに立ち寄った帰り道でラノベを読みながら歩いていた。
これは完全に私が悪いのだが、帰り道はあまり車通りもないため、つい買ったラノベが気になりを歩きながら読んでしまったのだ。
そして、内容に夢中になってしまい注意散漫になり、気付いた時には激しいクラクションと強い車のライトが目の前にあった。
――そして目を覚ますと、ジネットという女性になっていた。
このジネット、とても地味な容姿だが見覚えがある。
私が前世でやっていた乙女ゲームのモブキャラにこんな地味目なキャラがいたのを思い出したのだ。
そこでようやく自身が異世界転生をしたことに気付いた。
ジネットは下流貴族の一人娘として育ったようだ。
ただ、ジネットは前世の私のように、あまり器量も良くなかったこともあり、心配した両親はより良い教育と人脈作りのために隣国に留学をさせることを決めたようだ。
その留学先は――乙女ゲームの舞台である学園だ。事前に確認したパンフレットを見た時にそう確信した。
この乙女ゲームは人気があり、二部構成で終わっていた記憶がある。
確か一部では一年生の進級時に悪役令嬢を婚約破棄してヒロインと結ばれるところで話が終わったはずだが、ファンの根強い声で二年生の卒業編が配信されたのだ。
昔やったゲームだし細かい内容は抜けてしまっているのだけど、確かジネットは卒業編の途中で出て来るクラスメイトの一人だったと記憶している。
モブに転生したのは残念だったけど、大好きな乙女ゲームのコンテンツに転生出来たことは素直に嬉しい。
モブの私がこの物語に関与できることはあまりないと思うけど、せめてリスペクトを込めてキャラ達の動向を間近で見て、出来れば多くのイベントスチルをこの胸に焼き付けておきたい。
ああ、どのルートで物語が進むのかしら。今からわくわくする!
そして、コンテンツから得られる養分を摂取した後は、両親の期待通りに学園を卒業して隣国へ戻るのよ。
――そう思っていたのに。何なの、この世界は。
教室に入った途端に違和感に気付いたのだけど、婚約破棄された悪役令嬢が攻略対象者のキラキラ王子の隣の席とかおかしくない?
それに、ヒロインと攻略対象者が悪役令嬢と仲良くしている……だと?
確か二部では婚約破棄された悪役令嬢は逆恨みでヒロイン虐めが激しくなっていくストーリーだったはずなのに、一体どういうことなの!?
それに、配られた教本にはギフトという文字。でも書かれている内容は魔法と一緒だわ。
確かこのゲームは魔法が出て来る世界感だったはずなのに、その魔法が出てこないなんて……。
おかしい、この世界は私の知っている乙女ゲームじゃないわ。
もしかして……何かのバグ?
これは原因を探る必要がありそうね。
はぁとため息を吐き、椅子にもたれ掛かる。
寮に戻ってから備え付けの机でしばらく考え込んでいたので、少し身体が硬くなっているようだ。
んーー、と腕を伸ばして背伸びをしながら寮の壁に立てかけてある時計に目をやるとちょうど夕食の時間にさしかかっている。
もうこんな時間か。お腹も空いてきたし、ごはんを食べたら明日からの行動を考えないと。
机の上のメモ書きを無造作に引き出しにしまうと、食堂を目指すことにした。
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