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第四章 新世界編

転入生1

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ガラリと教室の扉を開け、自席に着く。
進級翌日ということもあるのか、久々の学園生活で緊張感が抜け切れていないせいなのか、今朝はいつもより早く起きてしまったこともあり、まだクラスメイトの姿も疎らだ。
持ってきた鞄の中身を整理していると、徐々にクラスメイトの数が増えて来る。

「イザベル様、今朝は早いですね! おはようございます」
「あ、マリア様。おはようございます」
「今日から授業ですね! 教本はいらないって言われたけど、鞄の中身がスカスカだと何だか手持ち無沙汰でちょっとだけ持って来てしまいました」

ああ、なんとなく分かる。私も鞄が軽すぎてなんか変な感じがしたもの。

「その気持ち分かりますわ。それに、必要な物がなくて困るよりはあった方が安心しますし」
「そうそう! 前に筆記用具を忘れて困ったことがあったので、それ以降はちょっと多めに荷物を入れるようにしているんです」

ああ、そういえばマリア様が転入してきた当初、そんなこともあったっけ。

「あの時、イザベル様は困っている私に力を貸して下さいましたよね。それなのに、私ったら酷い態度を……あの時は本当に申し訳ありませんでした」
「まぁ。マリア様、頭を下げないでください。もう、そんな昔のことなど気にしていないですわ」
「イザベル様はなんて優しいのでしょう……私、感激です!」

ちょっ、朝からそんな大声出すとクラスメイトの視線が痛いからやめてぇぇ。
周囲の反応が気になって思わず辺りを見渡すと、紫色のまとめ髪の女生徒の姿が教室に入って来るのが見える。
あれはクロエ様だわ! よし、ちょうど良いから話題を変えよう。
マリア様を宥めつつ、こちらに向かってくるクロエ様に声をかける。

「あら、ちょうどクロエ様も見えたようですわ。クロエ様、おはようございます」
「あ、本当ですね! クロエ様、おはようございまーす!」
「お二人とも、おはようございます。朝から賑やかな様子ですが、何を話されていたのですか」

さっきの話を引き延ばすとまたマリア様が興奮しそうだからさらっと流しとこう。

「去年の話をしていましたの。時が経つのは早いなと思って」
「確かにそうですわね。気付けば私達ももう上級生ですもの」

マリア様が「上級生」という言葉から何かを連想したようで、首を傾げている。

「上級生で思い出しましたが、アーサー様とアルフレッド様って一月後の卒業パーティーしかお会いする機会がないのですよね?」
「ええ、そうですわね。でも、お兄様は新人騎士としてしばらくは学園の警備を任されることになりましたから顔を合わせる機会は多いと思いますわ」
「私も昨日アーサー様から伺いました。卒業しても会える距離だと寂しくなくていいですね」
「まぁ、そうですわね。でも、身内ですから何かと顔を合わせることはありますし、あまり寂しいという感情はないですわ。それより、アルフレッド様はもう学園にはいらっしゃらないのでしょうか」

そういえば、アルフ義兄様から今後の具体的な話は聞いていない。
でも、つい先日の雑談で「学園から王宮は近いし、ベルの顔は定期的に見に行くよ」みたいな話が出た記憶がある。たぶん、卒業後も顔出しするんじゃないかしら。

「アルフ義兄様から具体的な話は聞いていませんが、王宮が近いので学園にも顔を出すみたいなことは喋っていたので、恐らく卒業後も会う機会はあると思いますわ」
「じゃあ、二人が卒業しても会えなくなるわけではないのですね。それを聞けてほっとしました!」

そうか、私もクロエ様も身内だから顔を合わせる機会はあるけど、マリア様はそうじゃないから今後が気になるよね。
そう思っているとポンと肩を叩かれ、振り向くといつの間にかヘンリー殿下が私の背後に立っていた。
窓から注ぐ朝日を浴びたヘンリー殿下はエフェクトがかかったかのようにいつにも増してキラキラ具合に拍車がかかっているような気がするわ。

「イザベル嬢、クロエ嬢、マリア嬢、おはよう。三人とも早いな」
「ヘンリー殿下! おはようございます」
「殿下、おはようございます」

はっ! ついヘンリー殿下の容姿に見惚れてしまった。
マリア様もクロエ様も挨拶が済んでしまったし、私も何か言わなきゃ。

「ヘンリー殿下、おはようございます。実は早めに目が覚めて、学園にも早く着いてしまいましたの」
「そうだったのか、久々の学園だから落ち着かないのかもな」

ヘンリー殿下はそっと私の目元に手を伸ばす。
ひゃあ!? な、何!?

「クマは出来ていないようだけど、今日は無理せず授業が終わったらゆっくり休むといい」
「ひ、ひゃい」

び、びっくりしたぁ。
ヘンリー殿下って不意打ちのように距離近い時あるから、ドキドキしちゃう。

「ヘンリー殿下、いきなり二人の世界に入らないでくださいな」
「はわわわ」

赤面顔のクロエ様とマリア様とばっちり目が合う。
そうだった、二人の前だよ! もう、人前で恥ずかしいからやめてー!
羞恥心で思わずヘンリー殿下の手を取って押し返すと教師が教室に入って来るのが視界に入った。

「はい、みなさん。もうすぐ鐘が鳴る時間なので着席ください」
「おっと、我々も席につかないと」

良いタイミングで先生が来てくれて良かった。
三人から離れて心臓のドキドキを鎮めていると、先生の隣に見知らぬ女性徒が立っている。
誰だろう、この子。隣のクラスの子かしら?

「今日から転入生として新たな仲間が加わります。では、ジネットさん。自己紹介をお願いします」
「今日から皆さまと一緒に学ぶことになりましたジネット・メルローと申します。よろしくお願いいたします」

へぇ、転入生か。うちに入学してくるってことは令嬢なのかしら? でもメルロー家って聞いたのことない名前ね。もしかしたら平民出身か外国からの留学生って可能性もあるのかも。
ジネットと名乗る転入生はクラスメイトを見渡し、私と目が合うと鋭い目付きになる。
え、何だろう。以前のマリア様みたいな敵意のある視線に思わず身体がすくむ。

彼女と会ったことなどないはずなのに……もしかして、乙女ゲームの設定が何か作用している可能性が?
いや、そんなはずはないわ。だって、私達はこの世界を変えてしまったのだから。きっと、気のせいよ。

転入生は先生から席を案内されて着席すると、先生はプリントを配布し、新学期のオリエンテーションを始める。
先生の言葉を聞いているうちに、先ほどの出来事はすっかり私の頭から忘れ去られていた。
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