子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

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 ああ、ヘンリー殿下とリュカ先生!
 二人とも無事で良かった!

「ヘンリー殿下! リュカ先生!」
「何だ、死んでいなかったのか」
 
 二人とラウルの間にはまだ距離がある。話すなら今よ!
 唯一動く頭をラウルに向ける。

「ラウル、聞いて! 私の魔力をマリア様、いや、巫女様と同調させれば、本当の意味で魔獣達を助け出す事が出来るの!」

 ラウルは先程とは打って変わり、険しい表情のまま私を見下している。

「先程から煩いぞ、イザベル」

 駄目だ、私の話に耳を傾けてくれないわ。一体どうしたら……!
 考えを巡らせるためにふっと目線を逸らすと、視界の端に二つの影が見えた。
 ん? あ、あれは、アルフ兄様とアーサー様!?

 ラウルは背後から近付く二人の存在に気付いていないのか、ヘンリー殿下とリュカ先生に向けて口を開いた。

「貴様らが騒がしくするから魔獣達が怒りに任せて暴れているではないか。このまま騒ぎが広がれば、人間と魔獣の全面対決になるぞ」

 リュカ先生はポリポリと頭を掻きながら返事をした。

「あのさぁ、元はと言えば魔王君が先に人間界にちょっかい出して来たんでしょ? それに、今イザベル君が話している事はもしかしたら事実かも知れないよ」
「何?」
「僕達もここに来る途中に知ったんだけどさ、マリア君も似たような事を言っていたんだよね。浄化の魔法の本当の使い方は、魔獣達を消滅させるのではなくて元の姿に戻すための魔法なんだって」
「そんな作り話、我は信じん。権力者というものはいつだって自分達の都合の良いように話に歪めるのが得意だからな。それは、歴史が物語っていよう」

 リュカ先生はやれやれといった表情をしながら肩をすくめた。

「魔王君は頭硬いねぇ☆」
「我はこの世界の秩序を守るために存在する。先程見たあの巫女にはまだ力がなかろう? あの様子では力の覚醒にはまだ月日を要するだろう。そこまで魔獣を放っておけば、あちこちで魔獣達が暴走し歯止めがかからなくなる。故に、イザベルを渡すわけにはいかんのだ」
「だーかーらー、それは魔王君側の都合でしょ? イザベル君は元々人間界側の存在で、僕達にとって必要な御方なんだから、さっさと返してくれる?」

 リュカ先生の鋭い視線がラウルに向けられる。

「ラウル、リュカ先生やマリア様の話は本当よ! それに、マリア様の力が不十分でも、私にはマリア様の力を引き出す魔力が存在するわ! だから、一度マリア様に合わせて! お願い!」
「イザベル……うっ!?」

 突如ラウルの身体が傾くのと同時に、私は何者かに強い力で引き寄せられた。

「きゃあ!!」

 あっ、身体が動く!

「イザベル嬢、もう大丈夫だ!」
「ア、アーサー様!?」

 私の身体はそのままアーサー様の逞しい腕に抱き止められた。
 腕の合間から見えたラウルは脇腹を抑えその場に立膝を付いていた。
 しかし、直ぐに顔だけ上げると一番近くにいたアルフ義兄様目掛けて手を翳した。

 あっ、ダメ! アルフ義兄様が危ない!

 私は咄嗟にアーサー様の手を振り解き、アルフ義兄様とラウルの間目掛けて駆け出した。

「イザベル嬢、駄目だ! 戻れ!」

 アーサー様の必死な叫びを無視して私は両手を広げてラウルの前に飛び出した。

 お願い、間に合って!

「ラウル、止めてーーっ!!」

 ラウルの驚くような表情とともに、ラウルの手から黒い光が飛び出した。
 その光は、スローペースで私に向かってくる。

 あれ、なんかこの光景見覚えがある。

 ……ああ、思い出した。前世の事故の記憶に似ているんだわ。

 黒い光は目前に迫り、ドンッ! という強い衝撃が身体に走った。
 それと同時に今まで蓋をしていた気持ちが溢れ出す。

 前世に残した可愛いあの子達は、事故の後無事だったかな。
 私がいなくなって泣いていないかな。

 ……一目でいいから、無事な姿を……見たかった……な……

 そこから、私の目の前は真っ暗になった。
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