上 下
42 / 55
第三章 魔王編

46

しおりを挟む
 ああ、ヘンリー殿下とリュカ先生!
 二人とも無事で良かった!

「ヘンリー殿下! リュカ先生!」
「何だ、死んでいなかったのか」
 
 二人とラウルの間にはまだ距離がある。話すなら今よ!
 唯一動く頭をラウルに向ける。

「ラウル、聞いて! 私の魔力をマリア様、いや、巫女様と同調させれば、本当の意味で魔獣達を助け出す事が出来るの!」

 ラウルは先程とは打って変わり、険しい表情のまま私を見下している。

「先程から煩いぞ、イザベル」

 駄目だ、私の話に耳を傾けてくれないわ。一体どうしたら……!
 考えを巡らせるためにふっと目線を逸らすと、視界の端に二つの影が見えた。
 ん? あ、あれは、アルフ兄様とアーサー様!?

 ラウルは背後から近付く二人の存在に気付いていないのか、ヘンリー殿下とリュカ先生に向けて口を開いた。

「貴様らが騒がしくするから魔獣達が怒りに任せて暴れているではないか。このまま騒ぎが広がれば、人間と魔獣の全面対決になるぞ」

 リュカ先生はポリポリと頭を掻きながら返事をした。

「あのさぁ、元はと言えば魔王君が先に人間界にちょっかい出して来たんでしょ? それに、今イザベル君が話している事はもしかしたら事実かも知れないよ」
「何?」
「僕達もここに来る途中に知ったんだけどさ、マリア君も似たような事を言っていたんだよね。浄化の魔法の本当の使い方は、魔獣達を消滅させるのではなくて元の姿に戻すための魔法なんだって」
「そんな作り話、我は信じん。権力者というものはいつだって自分達の都合の良いように話に歪めるのが得意だからな。それは、歴史が物語っていよう」

 リュカ先生はやれやれといった表情をしながら肩をすくめた。

「魔王君は頭硬いねぇ☆」
「我はこの世界の秩序を守るために存在する。先程見たあの巫女にはまだ力がなかろう? あの様子では力の覚醒にはまだ月日を要するだろう。そこまで魔獣を放っておけば、あちこちで魔獣達が暴走し歯止めがかからなくなる。故に、イザベルを渡すわけにはいかんのだ」
「だーかーらー、それは魔王君側の都合でしょ? イザベル君は元々人間界側の存在で、僕達にとって必要な御方なんだから、さっさと返してくれる?」

 リュカ先生の鋭い視線がラウルに向けられる。

「ラウル、リュカ先生やマリア様の話は本当よ! それに、マリア様の力が不十分でも、私にはマリア様の力を引き出す魔力が存在するわ! だから、一度マリア様に合わせて! お願い!」
「イザベル……うっ!?」

 突如ラウルの身体が傾くのと同時に、私は何者かに強い力で引き寄せられた。

「きゃあ!!」

 あっ、身体が動く!

「イザベル嬢、もう大丈夫だ!」
「ア、アーサー様!?」

 私の身体はそのままアーサー様の逞しい腕に抱き止められた。
 腕の合間から見えたラウルは脇腹を抑えその場に立膝を付いていた。
 しかし、直ぐに顔だけ上げると一番近くにいたアルフ義兄様目掛けて手を翳した。

 あっ、ダメ! アルフ義兄様が危ない!

 私は咄嗟にアーサー様の手を振り解き、アルフ義兄様とラウルの間目掛けて駆け出した。

「イザベル嬢、駄目だ! 戻れ!」

 アーサー様の必死な叫びを無視して私は両手を広げてラウルの前に飛び出した。

 お願い、間に合って!

「ラウル、止めてーーっ!!」

 ラウルの驚くような表情とともに、ラウルの手から黒い光が飛び出した。
 その光は、スローペースで私に向かってくる。

 あれ、なんかこの光景見覚えがある。

 ……ああ、思い出した。前世の事故の記憶に似ているんだわ。

 黒い光は目前に迫り、ドンッ! という強い衝撃が身体に走った。
 それと同時に今まで蓋をしていた気持ちが溢れ出す。

 前世に残した可愛いあの子達は、事故の後無事だったかな。
 私がいなくなって泣いていないかな。

 ……一目でいいから、無事な姿を……見たかった……な……

 そこから、私の目の前は真っ暗になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。