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第三章 魔王編

【アーサー視点】

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「イザベル嬢!?」

 ヘンリー殿下の声が森に響き渡る。
 何、イザベル嬢だと!? 遂に探し出したのか!!

 我々はヘンリー殿下の声を追い、先を急ぐ。
 ザザザッと木々を掻き分け開けた場所へ出ると、ヘンリー殿下は何者かと対峙していた。

「貴様は魔王か!? 今すぐイザベル嬢を解放しろ!」

 ヘンリー殿下の声が響く。
 その先にはイザベル嬢の姿が。
 ああ、やっと、貴女の姿を見る事が出来た!
 ほっと安堵したと同時に隣にいる魔王を睨み付ける。

 アイツが魔王か……待っていてくれイザベル嬢。必ず助け出してやる!

 グッと剣を握る手に力が篭る。
 何やら魔王はエスタ卿の問答を無視してイザベル嬢と話をしている様だが、エスタ卿が先制攻撃を仕掛けたようだ。
 その攻撃を皮切りに、魔王が我々に攻撃を開始した。
 ドンッ! ドンッ! ドンッ! という衝撃音とゴオオォォ! という音と共に黒炎と熱風が辺りを包む。
 うっ! 凄い力だ!!
 しかし、魔王の攻撃はエスタ卿の魔法によりパンッ! という衝撃波と共に消え去った。
  
 こ、これが闇魔法の威力……!

 闇の魔力に圧倒されていると、エスタ卿の作り出した影と共に、ヘンリー殿下が魔王に攻撃を仕掛けた。
 ガキンッ! という衝撃音と共に、一瞬魔王の体勢が傾き、肩の甲冑が砕けた。
 すると、突如魔王の側にいた魔獣が鳴き出し、その声に触発された魔獣が四方から飛び出した。

「魔獣が現れたぞ!」
「戦闘開始だ!」

 辺りが騒がしくなる。
 魔獣め、来やがったな!
 俺は近くにいた魔獣目掛けて魔力を込めた剣を思い切り振り下ろす。
 まずは一体! 次は!?
 しかし、振り向くと牙を剥けた魔獣が目の前にいる。

 くっ! 近い!!
 
 俺が剣でガードしようと構えた時、横からメイスと水弾が飛んで来た。
 目の前の魔獣はドサっと音を立てて倒れ、そのまま動かなくなった。

「お兄様、私も参戦致しますわ!」
「アーサー、僕も力になろう」
「アーサー様、大丈夫ですか!?」

 クロエ、アルフレッド、マリア嬢が駆け寄って来た。
 そして、クロエはフンっと鼻息を荒くしながら口を開いた。

「お兄様、早る気持ちは分かりますが、一人で勝手に行動しては効率が悪いですわ!」

 クロエに続き、アルフレッド、マリア嬢も続けて発言した。

「ベルはもうそこにいるんだ、早く行くぞ」
「協力してイザベル様を助け出しに行きましょう!」
 
 ……ああ、俺は忘れていた。イザベル嬢を助けたい気持ちは皆一緒なんだ。

「分かった。皆でイザベル嬢を助け出そう」

 俺が皆に加わった時だ。
 エスタ卿の声が響き渡る。

「みんな~!! ここら辺にいる魔獣達を一掃するからこちら側に来ないでね~☆」

 ゲッ! 大穴を開けたあの魔法か!?

「皆、こちらは危ない! 一旦引き返せ!」

 皆と共に慌てて元いた場所まで駆け込んだ時だ。
 ドガァァァン! という衝撃音と共に辺りの森は吹っ飛び、土煙が舞い上がった。

「くっ! 凄い力だな」

 アルフレッド、クロエもエスタ卿の魔法について思うことがあった様だ。

「エスタ卿は攻撃が唐突過ぎる! 味方を殺す気か!?」
「なんだか、リュカ先生の方が魔王の様ですわね」

 マリア嬢が何かを見つけた様で指を差しながら口を開いた。

「あっ! あちらにヘンリー殿下とリュカ先生がいます!!」

 マリア嬢の指指す方を見ると、土煙の間からボロボロの騎士服を纏ったヘンリー殿下と、にやけ顔のエスタ卿が見えた。

「よし、ヘンリー殿下とエスタ卿に加わろう」

 俺が一歩踏み出そうとした時、アルフレッドが俺の肩を掴んだ。

「待て、あそこにベルと魔王がいる! ここは奇襲を仕掛けてベルと魔王を引き離そう」
「何!?」

 アルフレッドの目線の先にはイザベル嬢と魔王の姿が見えた。

「僕は気配遮断の特殊魔法が使える。ただし、これは魔力を消費するので使えるのは一度きりで、魔力が回復するまでは他の魔法は使えない。……僕が近くまでアーサーを連れて行くから、アーサーは魔王とベルを引き離せ。そうすればエスタ卿が魔王を仕留めやすくなるはずだ」
「アルフレッド……」
「本当は僕がベルを助け出したいところだが、今はそんな悠長な事は言っていられない。アーサーは僕より攻撃力に優れており、僕が特攻を仕掛けるよりもベルを助け出せる確率が上がる。ベルを助けるために、僕と組んでくれないか」
「し、しかし、それでは残されたアルフレッドはどうするのだ!?」
「いざという時のための剣術くらいは心得ている。僕の心配は必要ない。どうだ、話に乗ってくれるか」

 アルフレッドの覚悟を決めた眼が、俺を真っ直ぐに見つめる。
 
 アルフレッド……お前……。

 この作戦はアルフレッドの捨て身の作戦だ。
 しかし、魔獣達の掃討に隊員達は必死で、この状況下で自由に動けるのは我々しかいない。

「……分かった。その話、引き受けよう」

 その話を聞いていたクロエは口を挟んできた。

「お兄様、私もお姉様を助け出しに行きますわ!」
「駄目だ。お前はマリア嬢を守れ」
「ですが!」
「クロエ、マリア嬢はこの世界の切り札だ。イザベル嬢を救うために、マリア嬢を守り抜く必要がある。……分かるな?」

 クロエは悔しそうな表情を浮かべ俯いたが、すぐに前を見据え、俺の目を見て返事をした。

「はい、お兄様」
「それでいい。……さ、行くか、アルフレッド」
「ああ」

 俺はクロエとマリア嬢から離れ、アルフレッドと共に歩き出した。
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