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第三章 魔王編

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 ラウルはむくっと上体を起こし寝台から降りると、そのままポチの方に向かって行った。

「我はポチの手足を洗ってくるから、イザベルはそのまま寝台で休んでいろ。ポチ、行くぞ」

 ポチはウォン! と吠えて応えると、ラウルと共に扉から出て行った。
 パタンと扉が閉まるのと同時にふっと目の前に光の筋が見えた。

「!?」

 え! 何これ!?
 びっくりして光の元を辿ると、私の身体に繋がっている。
 うわ、私の身体から光が出てるの!?
 心臓付近から溢れる光を手で抑えてみても、光はそのまま手をすり抜けてデスク脇の壁を照らしている。

 あ! そうだ! 
 夢の中で、創造神様は抜け道を探しておくと言っていたけど、この光はもしかしてその場所を教えているの?

 半信半疑ではあったが、寝台からそっと起き上がり、光の指す壁までやって来た。

 パッと見何もないけど。
 ん? 何だろう、ここに小さい出っ張りがある。ちょっと押してみようかな。

 試しに壁にある出っ張りをグッと強く押してみると、ガコンッと奥へ動いた。
 そして、壁の中からガコン、ガコン、と何かが動くような音が聞こえて来た。

 うわわっ、壁の中で何かが動き出した!

 暫くして音が収まると、壁がズズッと勝手に動き出し、人一人分が通れるスペースの穴がぽっかりと出現した。

「!!」

 こんな場所に通路があったのね。
 しかし、隠し通路内は真っ暗で何も見えない。
 私は咄嗟にデスク脇に置いてあった照明を手に取り、穴の側まで来て奥を照らしてみると階段が下へと伸びていることが分かった。
 この隠し通路が使われる機会はあまりなかったのか、カビのような嫌な匂いがする。

 うわぁ……真っ暗だ。
 どうしよう、凄く怖い。
 い、いや、怯んでいる場合ではないわ! 
 ここを脱出しなければヘンリー殿下にもマリア様にも会えないんだから、行くしかない! 頑張れ、私!

 込み上げる恐怖心を抑えるように、スーハーと深呼吸をしてみる。
 そして、グッと拳を握り必死に己を奮い立たせた。
 私は出来る、私はやれる!
 よしっ! 行くぞ!

 照明を強く握り締め、意を決して隠し通路の中へと一歩を踏み出した。
 中に入ると、ひんやりとした空気が辺りを包み込む。
 暗く、狭い通路から伸びる階段は、まるで地の果てまで続いているような……そんな気分にさせた。

 この階段は一体どこまで続いているのかしら。

 恐怖心と戦いながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
 暫くすると階段は終わり、そこから先は平坦な道になった。

 もっと下まで伸びているのかと思ったけど意外と早く階段が終わって良かった。それに道も少し広くなったみたい。

 少し広くなった通路に少しだけ恐怖心が和らぐ。
 そのままどのくらい歩いたのだろうか……恐怖心と暗がりで時間の感覚が麻痺していて分からないが、暫く歩いていると奥から薄らと光が差し始めた。

 やった、光が見えるわ!

 早くこの場から出たい気持ちから、思わず速足になる。
 光の先までやって来くると、目の前にはたくさんの蔦が絡んでいる。
 それを必死にかき分けながら前に進むと、ようやく目の前が開けた。

 よし、外へ出られたわ! ああ、良かった!

 恐怖と緊張から解放され、一気に全身の力が抜けていく。
 近くにあった木に寄り掛かるようにして、はぁ、と深いため息を吐くと、ガサガサッと目の前の茂みが揺れた。

 な、何かいる!!

 私は武器など持ち合わせていないため、咄嗟に地面に落ちていた木の枝を手に取り、前に構えた。
 ガサガサッと茂みの音は近付いてくる。
 得体の知れない物が近付いてくる恐怖心で、思わず手が震え、ドッドッドッ、と心臓が早鐘を打つ。
 そして、ザザッと茂みが割れ、何かが出てきた。

 ぎゃーー!! 怖い、怖い、怖い!!

 咄嗟の出来事で自分でも何故そうしたのか分からないが、気付いた時には持っていた枝を何かに向かって思い切り投げ付けていた。

「っ! 魔獣か!?」

 え、この声……。

 私の投げ付けた枝を見事に受け止めキッとこちらを睨み付ける、澄んだ碧眼。
 遠目からでも分かる、その美しい様相。
 
 男は呆然とした様子で一瞬その場に立ち尽くした。
 しかし、すぐに一歩、また一歩とこちらに向かって歩み寄って来た。
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