34 / 55
第三章 魔王編
【ヘンリー視点】
しおりを挟む
* * *
翌朝、我々は予定通りに国境まで辿り着いた。
ここから先は魔の森が広がる。
皆の準備が整った事を確認すると、我々は国境を潜り、魔の森へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた森はシーンと静まり返り、異様な空気感に包まれていた。
ザッザッと響く足音と、風に揺れる葉の音以外、何も聞こえてこない。
おかしい、以前訪れた時はもっと生き物の気配がしていたはずだが……。
ふとそんな事を考えながら歩みを進めると、あっと言う間に休憩地点まで辿り着いた。
皆に休息を取っているのを確認すると、私も地面に腰を下ろした。
予想より早く着いたな。それにしても、生き物の気配がない。一体どういう事だ?
顎に手を当てながら考え込んでいると、クロエ嬢とマリア嬢を連れたエスタ卿が声を掛けて来た。
「ヘンリー殿下、滑り出しは順調みたいですね」
「ああ、今のところはな」
クロエ嬢は気の抜けた顔で私に話しかけて来た。
「私、拍子抜け致しましたわ。全く魔獣が出ないんですもの。本当に魔の森か疑ってしまいますわ」
クロエ嬢の話をそばで聞いていたマリア嬢も話に便乗して来た。
「魔獣どころか生き物の気配がないですね。魔の森ってこんなに静かなところなんですか?」
エスタ卿が首を傾げながら口を開いた。
「ヘンリー殿下、何か妙じゃないですか」
「エスタ卿も気付いたか」
「ええ。以前の魔の森はもっと生き物の気配があったのですが」
やはり、か。
他の生き物が住めない程に、魔獣が増えているのだろう。
そして、増え過ぎた魔獣は、生きるために共食いをしている可能性が上げられる。
魔獣同士の小競り合いは報告でも上がっており、この仮説は正しいのだろう。
「魔獣同士の生存競争が激化している可能性がある。生き残った魔獣はそれなりに力がある奴だろうから、遭遇した場合は厄介だな」
「そうですねぇ。ま、でも、僕がいれば大丈夫ですけどね☆」
「確かにエスタ卿の魔力は強力だが、今は闇魔法が使えない。油断は大敵だ」
エスタ卿は頬を膨らませて私を睨み付けた。
「むぅ、心外だなぁ。僕の力を舐めてもらっちゃ困りますよ~?」
「エスタ卿の力を低く見積もっているつもりはない。ただ、ハンデがある分用心するに越した事はないと話しただけだ。そんな顔をしな」
ギャァァオォォォオ!
森に響く、けたたましい鳴き声。
「!?」
「出たぞー!! 魔獣だ!」
来たな!
「マリア嬢、クロエ嬢はその場にいろ! エスタ卿、行くぞ!」
「嫌ですわ、私も戦います!」
「駄目だ! クロエ嬢はマリア嬢を守るためにここに待機していろ、いいな!」
不満そうな顔をするクロエ嬢を尻目に、エスタ卿と共に声のする方へと駆け出した。
ザザザッと草木を掻き分け進んだ先には、体長三メートルはあるだろう巨大な魔獣が聳え立っていた。
この魔獣は火属性の魔力を宿し、口と尻尾から強力な火を出す厄介な魔獣だ。
先に辿り着いた者達は魔獣の大きさに怯んでいるようだ。
「な!?」
「で、でかい」
以前見た物より、明らかに巨大化している!?
「魔獣達が以前より強くなっている可能性がある! 皆、気を付けろ!」
剣を構えて前に出ようとした時、側にいたエスタ卿が前線にいる他の隊員達をグイグイ手で押して魔獣から引き離した。
「はいはいはーい☆ みんな、どいてどいて! 危ないよー!」
「エスタ卿?」
「な、なんだ?」
奇行に走るエスタ卿にザワザワする隊員達を尻目に、皆をどんどん魔獣から引き離して行く。
皆が一定の距離まで離れた事を確認すると、エスタ卿はスッと手を翳した。
そして次の瞬間、ドン! という凄まじい音と共に、魔獣がいた場所に巨大な穴が空いた。
なっ!?
突風に煽られ、思わずグラついた身体にグッと力を込め、体勢を整える。
エスタ卿は風で顔に掛かる髪を払い除けながらニッコリと笑い、私に話しかけた。
「ほーらね、ヘンリー殿下☆ 大丈夫だったでしょ?」
エスタ卿は頬に付いた魔獣の返り血を指でスッとなぞり、ふふっと笑った。
「僕は国の……いや、世界の最終兵器。この力を舐めてもらっちゃ困りますよ? ぐふふ」
エスタ卿は指に付いた血をうっとりと眺めながら「あぁ、もっと強い奴と戦いたい」とぶつぶつ呟いている。
エスタ卿の方が魔王より魔王らしい気がするな……。
私はそんな事を思いながら、手持ち無沙汰になった剣を鞘に収めた。
翌朝、我々は予定通りに国境まで辿り着いた。
ここから先は魔の森が広がる。
皆の準備が整った事を確認すると、我々は国境を潜り、魔の森へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れた森はシーンと静まり返り、異様な空気感に包まれていた。
ザッザッと響く足音と、風に揺れる葉の音以外、何も聞こえてこない。
おかしい、以前訪れた時はもっと生き物の気配がしていたはずだが……。
ふとそんな事を考えながら歩みを進めると、あっと言う間に休憩地点まで辿り着いた。
皆に休息を取っているのを確認すると、私も地面に腰を下ろした。
予想より早く着いたな。それにしても、生き物の気配がない。一体どういう事だ?
顎に手を当てながら考え込んでいると、クロエ嬢とマリア嬢を連れたエスタ卿が声を掛けて来た。
「ヘンリー殿下、滑り出しは順調みたいですね」
「ああ、今のところはな」
クロエ嬢は気の抜けた顔で私に話しかけて来た。
「私、拍子抜け致しましたわ。全く魔獣が出ないんですもの。本当に魔の森か疑ってしまいますわ」
クロエ嬢の話をそばで聞いていたマリア嬢も話に便乗して来た。
「魔獣どころか生き物の気配がないですね。魔の森ってこんなに静かなところなんですか?」
エスタ卿が首を傾げながら口を開いた。
「ヘンリー殿下、何か妙じゃないですか」
「エスタ卿も気付いたか」
「ええ。以前の魔の森はもっと生き物の気配があったのですが」
やはり、か。
他の生き物が住めない程に、魔獣が増えているのだろう。
そして、増え過ぎた魔獣は、生きるために共食いをしている可能性が上げられる。
魔獣同士の小競り合いは報告でも上がっており、この仮説は正しいのだろう。
「魔獣同士の生存競争が激化している可能性がある。生き残った魔獣はそれなりに力がある奴だろうから、遭遇した場合は厄介だな」
「そうですねぇ。ま、でも、僕がいれば大丈夫ですけどね☆」
「確かにエスタ卿の魔力は強力だが、今は闇魔法が使えない。油断は大敵だ」
エスタ卿は頬を膨らませて私を睨み付けた。
「むぅ、心外だなぁ。僕の力を舐めてもらっちゃ困りますよ~?」
「エスタ卿の力を低く見積もっているつもりはない。ただ、ハンデがある分用心するに越した事はないと話しただけだ。そんな顔をしな」
ギャァァオォォォオ!
森に響く、けたたましい鳴き声。
「!?」
「出たぞー!! 魔獣だ!」
来たな!
「マリア嬢、クロエ嬢はその場にいろ! エスタ卿、行くぞ!」
「嫌ですわ、私も戦います!」
「駄目だ! クロエ嬢はマリア嬢を守るためにここに待機していろ、いいな!」
不満そうな顔をするクロエ嬢を尻目に、エスタ卿と共に声のする方へと駆け出した。
ザザザッと草木を掻き分け進んだ先には、体長三メートルはあるだろう巨大な魔獣が聳え立っていた。
この魔獣は火属性の魔力を宿し、口と尻尾から強力な火を出す厄介な魔獣だ。
先に辿り着いた者達は魔獣の大きさに怯んでいるようだ。
「な!?」
「で、でかい」
以前見た物より、明らかに巨大化している!?
「魔獣達が以前より強くなっている可能性がある! 皆、気を付けろ!」
剣を構えて前に出ようとした時、側にいたエスタ卿が前線にいる他の隊員達をグイグイ手で押して魔獣から引き離した。
「はいはいはーい☆ みんな、どいてどいて! 危ないよー!」
「エスタ卿?」
「な、なんだ?」
奇行に走るエスタ卿にザワザワする隊員達を尻目に、皆をどんどん魔獣から引き離して行く。
皆が一定の距離まで離れた事を確認すると、エスタ卿はスッと手を翳した。
そして次の瞬間、ドン! という凄まじい音と共に、魔獣がいた場所に巨大な穴が空いた。
なっ!?
突風に煽られ、思わずグラついた身体にグッと力を込め、体勢を整える。
エスタ卿は風で顔に掛かる髪を払い除けながらニッコリと笑い、私に話しかけた。
「ほーらね、ヘンリー殿下☆ 大丈夫だったでしょ?」
エスタ卿は頬に付いた魔獣の返り血を指でスッとなぞり、ふふっと笑った。
「僕は国の……いや、世界の最終兵器。この力を舐めてもらっちゃ困りますよ? ぐふふ」
エスタ卿は指に付いた血をうっとりと眺めながら「あぁ、もっと強い奴と戦いたい」とぶつぶつ呟いている。
エスタ卿の方が魔王より魔王らしい気がするな……。
私はそんな事を思いながら、手持ち無沙汰になった剣を鞘に収めた。
38
お気に入りに追加
3,798
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
異世界で捨て子を育てたら王女だった話
せいめ
ファンタジー
数年前に没落してしまった元貴族令嬢のエリーゼは、市井で逞しく生きていた。
元貴族令嬢なのに、どうして市井で逞しく生きれるのか…?それは、私には前世の記憶があるからだ。
毒親に殴られたショックで、日本人の庶民の記憶を思い出した私は、毒親を捨てて一人で生きていくことに決めたのだ。
そんな私は15歳の時、仕事終わりに赤ちゃんを見つける。
「えぇー!この赤ちゃんかわいい。天使だわ!」
こんな場所に置いておけないから、とりあえず町の孤児院に連れて行くが…
「拾ったって言っておきながら、本当はアンタが産んで育てられないからって連れてきたんだろう?
若いから育てられないなんて言うな!責任を持ちな!」
孤児院の職員からは引き取りを拒否される私…
はあ?ムカつくー!
だったら私が育ててやるわ!
しかし私は知らなかった。この赤ちゃんが、この後の私の人生に波乱を呼ぶことに…。
誤字脱字、いつも申し訳ありません。
ご都合主義です。
第15回ファンタジー小説大賞で成り上がり令嬢賞を頂きました。
ありがとうございました。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される
雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。
スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。
※誤字報告、感想などありがとうございます!
書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました!
電子書籍も出ました。
文庫版が2024年7月5日に発売されました!
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。