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 おお、遂に始まるのか。ごくり。
 裾踏んで転けないように気を付けなきゃ。なんだかドキドキしてきたわ。

 侍女達にドレスのトレーンを持ってもらいながら、クロード様と共に会場まで向かう。
 会場前に近付くと、パイプオルガンらしき音とざわざわとした人の声が聞こえて来た。
 
 この中には国家での主要人物を含め相当人数の参列者がいるのよね。やばい、緊張して来た。

「エステル、緊張しているのか」
「え? ええ、少し」

 少しどころではなく、かなり緊張しています。
 苦笑いで誤魔化しているとクロード様は片手でそっと頬を包み込む。

「大丈夫だ、何があっても私が隣で支える。エステルはいつも通りに前を向いていれば問題ない」

 クロード様は優しい笑みを浮かべながら私を見つめる。

「この音楽が途切れたら扉が開きますので、中央までお進みください」
「ああ、分かった。さぁ、そろそろ出番だ。エステル、手を」
「は、はい」

 クロード様の方腕に手を添える。
 服の上からでも分かる、逞しい腕の感触と温かさ。
 
 この腕に身を任せてもいいんだと思うと、自然と先ほどの緊張も和らぐ気がする。

 そして、音楽が途切れたのと同時に、目の前の重厚な扉が開かれる。 
 
 クロード様は辺境伯という特殊な身分ではあるものの強い力を持っているだけあり、国のお偉いさん達も多数出席している。
 本当はこじんまりした式でよかったのだけど、お披露目も兼ねているため周囲がそれを良しとせず、結果的に規模の大きいものになっている。

 多数の視線を感じて一瞬ひるむが、隣には堂々と構えたクロード様がいる。
 
 うん、大丈夫。私は一人じゃないんだ。

 クロード様は私に歩幅を合わせて、ゆっくり進む。
 そうして最奥の祭壇まで来ると、祭祀様の前で跪く。
 祭祀様より祈りの言葉をいただいたのち、立ち上がりクロード様と向かい合うと指輪の交換を行う。
 お互いの瞳の色の魔法石が入ったこの指輪は、クロード様の希望で強い魔力が込められており、あのお茶会みたいな不測の事態の際に威力を発揮してくれるお守り代わりの効果がある。

 ああ、結婚指輪をはめると、結婚したんだなぁと実感が湧くわ。
 
「二人に神の祝福があらんことを」

 淡い光のドームが辺りを包み込み、パンッと弾ける。
 星屑のようなキラキラした光が舞い、ゆっくり床へ落ちると消えてなくなる。

 わぁぁ、凄い綺麗。まるでダイヤモンドダストみたい。
 幻想的な光景に圧倒しているとクロード様はクスリと笑う。

「エステル、景色に夢中になるのはいいが口が開いているぞ。もしかして口付けを強請っているのか?」
「ちょっ!? クロード様、何をおっしゃっているんですか! 今は式典中ですよ!?」
「ははは、そんな可愛い表情をしているから悪いんだ」
「もう」

 クロード様ったら、こんな時におちょくって。
 でも、こんな冗談を言い合える関係って心地良いな。
 そんな事を思いながら、私に向けて差し出すクロード様の手を取った。
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