56 / 62
ss1
しおりを挟む
* * *
怒涛の結婚式が終わり、数日が経過した。
ふ~やれやれ、ようやく平和な日々が戻ってきた感じがするわ。
そんなことを思いながら鼻歌交じりにメイドと一緒に洗濯物を干していると、風でシーツが飛ばされる。
ああ、大変! あのシーツ高級品なのに!!
慌てて追いかけようとすると、屋上の扉から出て来た長身の男の顔にシーツが引っ掛かった。
「おっと、びっくりした。洗濯物か?」
遠目からでも分かる整った顔立ちに、切れ長で力強い印象の紫眼。
そして、服の上からでも鍛え抜かれていると分かる、無駄のない引き締まったシルエット。
「クロード様!? なぜこんなところに」
「仕事がひと段落したから、エステルの可愛い顔を見に来たんだ」
「そ、そうだったのですか」
クロード様はシーツを片手にこちらへ歩み寄る。
最近、仕事の手が空く度に屋敷で家事をしている妻の顔をわざわざ見に来るクロード様。
私のことを想ってくれる気持ちはとても嬉しいのだが、結婚式後、その溺愛っぷりが輪をかけて酷くなっているような気がしている。
あ、そうそう。結婚式後に変わったことと言えば、私の部屋の位置。
今までは別部屋だったんだけど、扉を開ければすぐに執務室につながるお部屋に引越しになった。
それからクロード様は、毎朝の挨拶に加え仕事の合間まで私の存在を確かめにやって来る。
ああ、もちろん顔を見に来るだけじゃなくて激甘な愛の言葉もセットなんだけども。
「エステルが一生懸命な姿は天使のように愛らしいな。だが、シーツを干すのは大変そうだから私がやっておくよ」
「まぁ。クロード様はそんな事をやらなくてもいいのに」
「ちょっとでもエステルの役に立ちたいんだ。それに、良いところを見せたら、エステルがもっと私に惚れてくれるかもしれないだろう?」
「もう、クロード様ったら。私はいつだってクロード様をお慕いしているのに」
「ははは! 冗談だよ。ちょっとでも妻に良いところを見せたいと思う、つまらない男心さ」
クロード様は長身を生かし、手早くシーツを干し終えると、私の髪にそっと口づける。
「エステル、貴女の時間が欲しい。この後の予定はどうだろうか」
「え? 今日は特にこの後の予定はないですが」
「そうか。なら二人で外に出掛けないか? 美味しい甘味屋が出来たようなのだが、そこにカフェがあるようでお茶でもしようと思っているのだが」
「まぁ、そうなんですね。 それは楽しみです!」
やった~! スイーツだ!!
前世では甘い物が大好きだったから、家事育児の合間にコンビニとかのちょっと高めのスイーツを買って、子供が寝静まったころにひっそりと台所で食べていたっけ。
会社にもチョコ菓子とか摘まめるものを引き出しに入れていたなぁ。っていけない、いけない、つい過去の想い出に浸ってしまったわ。
「瞬間移動で甘味屋に行くことも出来るが、あれは人によっては魔法酔いしやすいようだから馬車で行こう」
「はい!」
わーい、楽しみだなぁ。
ささっと簡単に髪だけ整えていると、ルネさんが渋い顔をしている。
「もう、奥様ったら。せっかく当主様とのデートなんですから、もう少し気合をいれないと」
「ええ? でも甘味屋に行くだけですよ?」
「奥様はランブルグ家の顔なんですから、せめてお召し物だけでも変えていってくださいませ」
あっという間に衣装チェンジをさせられ、普段着から余所行き用の煌びやかなドレスにグレードアップした。
こういったドレスも嫌いじゃないけど、動きにくいのが難点なのよね。
でも、外は寒いので普段着よりも生地がしっかりしている余所行きドレスの方が少し暖かいから、その点だけは助かる。
「まだまだ外は寒いですから、こちらも羽織ってお出かけください」
毛皮のコートを着せられ、防寒対策ばっちりの状態でクロード様の元へ向かうと、外套を羽織ったクロード様が玄関前でセバスさんと話をしていた。
「ではセバス、屋敷の事は任せたぞ」
「承知いたしました」
ああ、仕事の引継ぎをしていたのかしら。
邪魔になるかな、と思って声を掛けるのをためらっていると、クロード様が先に私の存在に気が付いたようだ。
満面の笑みでこちらに向かって歩いてきた。
「エステル、私との外出のためにわざわざ着替えてくれたのか」
「クロード様、お待たせしました」
「普段着の貴女も素敵だが、この衣装も良く似合っている。とても綺麗だよ」
クロード様はさっそく私の腰を抱くとちゅっと頬に軽い口づけを落とす。
ひゃぁぁぁ! いきなりほっぺにちゅうとか刺激が強い!
「ク、クロード様」
「ふふ、耳が赤くなってるぞ。その初心な反応も愛らしい」
逞しい腕に軽く引き寄せられ、厚い胸板にすっぽり覆われる。
あああああ! いきなり抱擁とか心の準備が!!
「貴女をこうして抱き締めることが出来るのが私だけだと思うと、それだけで幸せを感じるよ。ああ、エステルは温かいな。ずっとこうしていたい」
だ、ダメだ……。刺激が強くて思考回路と心臓が停止しそうだ。
「当主様、このままではいつになってもお出掛けが出来ませんよ。お店の営業時間も決まっているのですから、そろそろ出立されては」
「ああ、そうだな。ではエステル、馬車まで行こうか」
「は、はひ」
怒涛の結婚式が終わり、数日が経過した。
ふ~やれやれ、ようやく平和な日々が戻ってきた感じがするわ。
そんなことを思いながら鼻歌交じりにメイドと一緒に洗濯物を干していると、風でシーツが飛ばされる。
ああ、大変! あのシーツ高級品なのに!!
慌てて追いかけようとすると、屋上の扉から出て来た長身の男の顔にシーツが引っ掛かった。
「おっと、びっくりした。洗濯物か?」
遠目からでも分かる整った顔立ちに、切れ長で力強い印象の紫眼。
そして、服の上からでも鍛え抜かれていると分かる、無駄のない引き締まったシルエット。
「クロード様!? なぜこんなところに」
「仕事がひと段落したから、エステルの可愛い顔を見に来たんだ」
「そ、そうだったのですか」
クロード様はシーツを片手にこちらへ歩み寄る。
最近、仕事の手が空く度に屋敷で家事をしている妻の顔をわざわざ見に来るクロード様。
私のことを想ってくれる気持ちはとても嬉しいのだが、結婚式後、その溺愛っぷりが輪をかけて酷くなっているような気がしている。
あ、そうそう。結婚式後に変わったことと言えば、私の部屋の位置。
今までは別部屋だったんだけど、扉を開ければすぐに執務室につながるお部屋に引越しになった。
それからクロード様は、毎朝の挨拶に加え仕事の合間まで私の存在を確かめにやって来る。
ああ、もちろん顔を見に来るだけじゃなくて激甘な愛の言葉もセットなんだけども。
「エステルが一生懸命な姿は天使のように愛らしいな。だが、シーツを干すのは大変そうだから私がやっておくよ」
「まぁ。クロード様はそんな事をやらなくてもいいのに」
「ちょっとでもエステルの役に立ちたいんだ。それに、良いところを見せたら、エステルがもっと私に惚れてくれるかもしれないだろう?」
「もう、クロード様ったら。私はいつだってクロード様をお慕いしているのに」
「ははは! 冗談だよ。ちょっとでも妻に良いところを見せたいと思う、つまらない男心さ」
クロード様は長身を生かし、手早くシーツを干し終えると、私の髪にそっと口づける。
「エステル、貴女の時間が欲しい。この後の予定はどうだろうか」
「え? 今日は特にこの後の予定はないですが」
「そうか。なら二人で外に出掛けないか? 美味しい甘味屋が出来たようなのだが、そこにカフェがあるようでお茶でもしようと思っているのだが」
「まぁ、そうなんですね。 それは楽しみです!」
やった~! スイーツだ!!
前世では甘い物が大好きだったから、家事育児の合間にコンビニとかのちょっと高めのスイーツを買って、子供が寝静まったころにひっそりと台所で食べていたっけ。
会社にもチョコ菓子とか摘まめるものを引き出しに入れていたなぁ。っていけない、いけない、つい過去の想い出に浸ってしまったわ。
「瞬間移動で甘味屋に行くことも出来るが、あれは人によっては魔法酔いしやすいようだから馬車で行こう」
「はい!」
わーい、楽しみだなぁ。
ささっと簡単に髪だけ整えていると、ルネさんが渋い顔をしている。
「もう、奥様ったら。せっかく当主様とのデートなんですから、もう少し気合をいれないと」
「ええ? でも甘味屋に行くだけですよ?」
「奥様はランブルグ家の顔なんですから、せめてお召し物だけでも変えていってくださいませ」
あっという間に衣装チェンジをさせられ、普段着から余所行き用の煌びやかなドレスにグレードアップした。
こういったドレスも嫌いじゃないけど、動きにくいのが難点なのよね。
でも、外は寒いので普段着よりも生地がしっかりしている余所行きドレスの方が少し暖かいから、その点だけは助かる。
「まだまだ外は寒いですから、こちらも羽織ってお出かけください」
毛皮のコートを着せられ、防寒対策ばっちりの状態でクロード様の元へ向かうと、外套を羽織ったクロード様が玄関前でセバスさんと話をしていた。
「ではセバス、屋敷の事は任せたぞ」
「承知いたしました」
ああ、仕事の引継ぎをしていたのかしら。
邪魔になるかな、と思って声を掛けるのをためらっていると、クロード様が先に私の存在に気が付いたようだ。
満面の笑みでこちらに向かって歩いてきた。
「エステル、私との外出のためにわざわざ着替えてくれたのか」
「クロード様、お待たせしました」
「普段着の貴女も素敵だが、この衣装も良く似合っている。とても綺麗だよ」
クロード様はさっそく私の腰を抱くとちゅっと頬に軽い口づけを落とす。
ひゃぁぁぁ! いきなりほっぺにちゅうとか刺激が強い!
「ク、クロード様」
「ふふ、耳が赤くなってるぞ。その初心な反応も愛らしい」
逞しい腕に軽く引き寄せられ、厚い胸板にすっぽり覆われる。
あああああ! いきなり抱擁とか心の準備が!!
「貴女をこうして抱き締めることが出来るのが私だけだと思うと、それだけで幸せを感じるよ。ああ、エステルは温かいな。ずっとこうしていたい」
だ、ダメだ……。刺激が強くて思考回路と心臓が停止しそうだ。
「当主様、このままではいつになってもお出掛けが出来ませんよ。お店の営業時間も決まっているのですから、そろそろ出立されては」
「ああ、そうだな。ではエステル、馬車まで行こうか」
「は、はひ」
37
お気に入りに追加
5,185
あなたにおすすめの小説
亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます
夜桜
恋愛
共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。
一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。
17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない
小倉みち
恋愛
よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。
容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。
彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。
小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。
父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。
そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。
傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。
というストーリーなのだが。
セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。
そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。
確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。
第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~
キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。
事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。
イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる
どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。
当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。
どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。
そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。
報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。
こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。
【本編完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活
花房いちご
恋愛
あらすじ
「この魔力無しのクズが!」
ルルティーナ・アンブローズはポーション職人です。
治癒魔法の名家であるアンブローズ侯爵家の次女でしたが、魔力が無いために産まれた時から虐待され、ポーション職人になることを強要されました。
特に激しい暴力を振るうのは、長女のララベーラです。ララベーラは治癒魔法の使い手ですが、非常に残酷な性格をしています。
魔力無しのルルティーナを見下し、ポーションを治癒魔法に劣ると馬鹿にしていました。
悲惨な環境にいたルルティーナですが、全ては自分が魔力無しだからと耐えていました。
誰のことも恨まず、一生懸命ポーションを作り続けました。
「薬の女神様にお祈り申し上げます。どうか、このポーションを飲む方を少しでも癒せますように」
そんなある日。ルルティーナは、ララベーラの代わりに辺境に行くよう命じられます。
それは、辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール伯爵。通称「惨殺伯爵」からの要請でした。
ルルティーナは、魔獣から国を守ってくれている辺境騎士団のために旅立ちます。
そして、人生が大きく変わるのでした。
あらすじ、タイトルは途中で変えるかもしれません。女性に対する差別的な表現や、暴力的な描写があるためR15にしています。
2024/03/01。13話くらいまでの登場人物紹介更新しました。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる