上 下
44 / 62

43

しおりを挟む
「あらぁ、お姉様。ずいぶん遅いから徒歩でいらっしゃったのかと思いましたわ」
 
 マーガレットの言葉にクスクスと令嬢達が笑う。
 私は今までお茶会にも出席させて貰えなかったから、この令嬢達が誰なのかは知らない。
 ただ、ひとつ言えるのは、この令嬢達は全てマーガレットの取り巻き達であり、この空間で私を擁護する令嬢は誰一人いないということだ。

「マーガレット、久しぶりね。今日はお茶会の招待ありがとう。ただ、招待状には午後二時からだと記載があったけど」
「まぁ、お姉様はわたくしが嘘を付いたとでも言うの!? 優しい婚約者と結婚が決まって羨ましいからってそんな言い掛かり付けてくるなんて……ぐすっ」

 ああ、始まった。マーガレットお得意のウソ泣き芸。
 このウソ泣きのせいで、いつもエステルは悪者扱いをされてきた。
 そう、何も悪い事をしていなくても、マーガレットが泣けば全てエステルが悪いとされ、『能無し』のくせに性格まで悪いなんて! と、よくお母様や使用人に叩かれたっけ。

 マーガレットの涙を見た取り巻き達は早速私を責め始める。

「まぁ、エステル様酷いですわ! マーガレット様に謝ってください!」
「そうですわ、マーガレット様に言い掛かりをつけるなんてあんまりです」
「実の姉の癖に妹を祝福できないなんて、なんて歪んだ性格の御方なのかしら。マーガレット様が不憫でなりませんわ」

 マーガレットは取り巻き達をたしなめるように立ち上がる。
 
「皆様、ありがとうございます。わたくしはいつもお姉様に泣かされてきましたので慣れておりますわ。それに……」

 マーガレットは扇で口元を覆いながら話を続ける。
 まぁ、扇で隠したって、その下には歪んだ笑顔があることくらい知っている。
 そう、私が虐げられるところを見る時、貴女はいつもその顔だったものね。

「お姉様は、あの『紅の閣下』に嫁いで苦労されているようですし、きっとわたくしに辛く当たることで憂さ晴らしをしたいのだと思います。……まぁ、『能無し』のお姉様を受け入れた御方ですから、お姉様は『紅の閣下』には感謝しないといけませんけども」

 エステルの言葉を聞いた取り巻き達は驚いた様子で私を見る。

「ええ!? 紅の閣下と結婚!?」
「エステル様が『能無し』という噂は伺っておりましたけど、やはり本当なのですね。身内にお荷物がいらっしゃるマーガレット様が不憫でなりませんわ」
「でも、エステル様と紅の閣下は結婚式をまだされていらっしゃいませんよね?」

 通常であれば、入籍前後で結婚式とお披露目パーティーを執り行うけど、私とクロード様はお見合い初日で入籍を済ませた出会ってゼロ日婚という特殊事例なので、結婚の事実を知る者はそう多くはない。
 だから、こうやって驚かれることは想定内ではあるけども。

「それが、紅の閣下は未だに結婚式を開いてくれなくて。両親が心配して式のことについて触れても、魔獣討伐が始まるからとか言い訳をされてはぐらかされてしまったようなんですの。紅の閣下は結婚式も挙げられない経済状況が悪いようで、わたくしは心配しておりますわ」

 それはクロード様の説明したとおり、魔獣討伐という辺境伯としての特殊任務のために暫く家を空けざる得なかっただけだ。
 首都が魔獣の侵略を受けずに平和を保てているのだって、クロード様率いる討伐隊が活躍しているお陰なのに。

 それを、言い訳? 経済状況が悪い? 

 この女は何を言っているのだろう。

「今日のその素敵なドレスも、きっとランブルグ家にとっては一張羅の代物だったのでしょう? そんな貧乏な家に嫁いで哀れなお姉様の心が少しでも晴れるように、幸せの御裾分けをしてあげようと思いまして。ふふふ、わたくしの未来の旦那様が、お姉様に比べて優しくて良い方で良かった」

 取り巻き達もうんうん、と深く頷いている。

 ……さて、茶番劇に付き合うのはこのくらいでいいかしら。
 
 沸々と湧き上がる怒りを鎮めるべく、深呼吸をするとマーガレットの目を見据える。
 挑発に動じない様子の私を見たマーガレットは何かを感じ取ったようで、みるみる表情が険しくなって行く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない

小倉みち
恋愛
 よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。    容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。  彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。  小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。  父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。  そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。  傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。  というストーリーなのだが。  セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。  そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。  確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。  第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

【本編完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご
恋愛
あらすじ 「この魔力無しのクズが!」 ルルティーナ・アンブローズはポーション職人です。 治癒魔法の名家であるアンブローズ侯爵家の次女でしたが、魔力が無いために産まれた時から虐待され、ポーション職人になることを強要されました。 特に激しい暴力を振るうのは、長女のララベーラです。ララベーラは治癒魔法の使い手ですが、非常に残酷な性格をしています。 魔力無しのルルティーナを見下し、ポーションを治癒魔法に劣ると馬鹿にしていました。 悲惨な環境にいたルルティーナですが、全ては自分が魔力無しだからと耐えていました。 誰のことも恨まず、一生懸命ポーションを作り続けました。 「薬の女神様にお祈り申し上げます。どうか、このポーションを飲む方を少しでも癒せますように」 そんなある日。ルルティーナは、ララベーラの代わりに辺境に行くよう命じられます。 それは、辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール伯爵。通称「惨殺伯爵」からの要請でした。 ルルティーナは、魔獣から国を守ってくれている辺境騎士団のために旅立ちます。 そして、人生が大きく変わるのでした。 あらすじ、タイトルは途中で変えるかもしれません。女性に対する差別的な表現や、暴力的な描写があるためR15にしています。 2024/03/01。13話くらいまでの登場人物紹介更新しました。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...