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「エステル、良かったら部屋に戻って少し話をしないか」
「は、はい」

 クロード様の改まった態度に不安になる。

 何だろう、ルネさんはこの部屋の出入りは自由って言ってたけど、実はこの部屋に無断で入ってはいけなかったのかしら。
 それとも、昨日から体調不良を理由に宴会を中座した挙句にクロード様の面会を拒否していたのに、あちこち歩き回っているから仮病ってバレたのかしら。
 うう、どれも心当たりがありすぎるわ。今までクロード様に怒られたことはないけど、もしかしたら今回のことでお叱りを受けてしまうのかも。

 歩きながらどんどん悪い方に思考が働いてしまい、内心ビクビクしながら自室まで戻って来た。
 そのまま部屋の中に入るとクロード様は私をベッドに誘導した。

「えっと、クロード様?」
「エステルはまだ体調が万全ではないだろうから、ベッドで休みながら話をしようと思ってな」

 うん、心配してくれるのは嬉しいけど、さすがに病人ではないから寝たきりで会話はちょっとしにくいわ。

「クロード様、私は大丈夫ですから普通に座ってお話しましょう」
「そうか? だが、体調が悪くなったりしたら、我慢せずちゃんと言うのだぞ」
「ええ、お約束致します」

 クロード様はとても優しいんだけど、どうもその優しさは明後日の方に向かいがちな気がするわ。
 そんなことを思いつつソファに腰を下ろす。 

「えっと、クロード様のお話とは何でしょうか」
「ああ。そうだな……」

 さっきは色々と悪い方に思考が働いてしまったけど、クロード様の様子からは怒っている様子は見受けられない。
 一体、何を言われるのかしら。

「実は、エステルに謝りたくてな」

 謝る、とは何のことだろう。
 も、もしかして昨日の事で呆れて婚約解消したいとか!?

「エステル、昨日は体調不良にも関わらず宴の席に付き合わせてしまい申し訳なかった。深く反省している」

 そう言い終わるとクロード様は深く頭を下げた。
 そんな、謝罪なんて必要ないのに。

「クロード様は悪くないですわ。私はもう元気ですし、どうか頭を上げてください」
「エステル……許してくれるのか?」
「そもそも私は怒っていませんし、クロード様は悪いことなどしておりませんわ」
「そうか、良かった」 

 クロード様は安堵して様子で私を見つめる。
 
「実はあの後使用人達にこっぴどく叱られてな。妻の一番近くにいながら体調不良に気付かないとは夫失格だと深く反省したよ。それに、先程ルネからエステルに私の気持ちが伝わっていなかったという事実を知ってな。謝罪を含めて話がしたかったんだ」

 クロード様は立ち上がり私の前で膝立ちになった。
 そして、私の手をとり指先にそっと口付ける。

「ク、クロード様?」
「エステル、私は貴女を愛している。貴女がこれからも安心して暮らせるよう、私の持てる全てで貴女を守り抜くことをここに誓う」

 あれ? この光景、見覚えが……?
 変な既視感を感じるけど、今の私に深く考える余裕などない。
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