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なんだろう。
セバスさんは普段からとても礼儀正しいし、失礼なことを言うような人には思えない。
……もしかして、仕事の出来が悪いとか、手際が悪いとか不満があったのかしら。
上司に不満を持つ部下の気持ちがは前世で痛いほど分かっているし、ここは思っていることを素直に話して貰って改善に努めよう。
「セバスさんのお人柄については存じておりますし、言いたいことがあれば何でもおっしゃってください。あ、そうだ。立ったままでは話したいこともゆっくり話せないでしょうし、セバスさんも座ってください」
「そんな滅相もない。私はこのままで」
「この部屋にはセバスさんしかいませんし、お茶も一人で飲むより二人で飲んだ方が美味しいですわ。ほら、お茶菓子もあるし一緒に摘まみながらお話をしませんか」
席を立ち、セバスさんが事前に持って来ていた予備のティーカップに紅茶を入れる。
セバスさんは判断に迷ったようだが断るのも失礼と判断したようで「では……お言葉に甘えて」と私の向かいの席に座った。
「ふふ、やっぱりお茶は一人で飲むよりも話相手がいる方が美味しく感じます。……それで、お話とは何でしょうか」
「これは……執事の戯言ですから、聞き流してください。まず、仕事の話になりますが、当主様の不在時の対応については当初私が代行をしていました。そして、奥様が嫁がれてきた当初もその予定でした」
ああ、まぁ普通そうだよね。
お見合い初日でいきなり嫁いで来た、良く分からない男爵令嬢に仕事を教えるのも大変だし、任せるのだって抵抗があるだろう。
一人で勝手に納得しながら、うんうん、と相槌を打つ。
「ですが、奥様が嫁がれて数日経過した後、当主様は私に対し、奥様へ執務権限を移行する旨を打診されました」
そうだったのか。だとしたら、セバスさん的には色々思うこともあっただろう。
「私としては以前通りの体制を希望しましたが、当主様の意思は固く、そのまま権限の移行が決まりました。正直に言ってしまうと、お見合い初日で嫁がれた奥様に対しあまり良い印象を抱いておらず、その中で決まった権限移行について不安を感じていましたし、奥様がこの屋敷を乗っ取るつもりでいるのか……など、良からぬ想像を働いておりました。申し訳ございません」
セバスさんはクロード様の補佐で色んな書類に目を通しているはずだから、釣書で私の経歴も知っているだろう。
それなら尚更私に対して警戒するだろうし、そういった考えになるのはある意味当然だろう。
「いえいえ、そう思われても仕方ないと思いますし、謝らないで下さい。それに、私はこの屋敷ではまだまだ新人で、セバスさんは先輩なのですから、そんなに気遣いをいただかなくても結構ですよ」
「奥様はなんとお心の広い御方なのでしょう。そうおっしゃっていただけて深く感謝いたします」
セバスさんはペコリと私にお辞儀をした。
ほんと、セバスさんはどんな時も丁寧な物腰が変わらない人だなぁ。私も見習わないと。
「ただ、他の使用人達に接する対応を見ていると私の考えは間違いだったことに気付きましたし、実際に奥様の仕事振りを目の当たりにして、当主様の判断は間違っていなかったのだと思うようになりました」
「えっと……私の仕事振りは大丈夫そうですか?」
「ええ! それはもう、素晴らしく早い飲み込みに驚いてしまいました。ですので、当初計画していた基礎の説明を全て省いて実践形式に変えてお伝えすることにいたしました」
そ、そうだったのか。
でも、思い返してみると初日は丁寧すぎるくらい丁寧だった説明が、翌日からいきなり書類を持って来られて「こうやります」と実践的な話になったんだよね。
セバスさんの役に立っているならいい事なんだろうけど、なんとなく前世で一時働いていたブラック企業を思い出してしまうのは気のせいだろうか。
セバスさんは普段からとても礼儀正しいし、失礼なことを言うような人には思えない。
……もしかして、仕事の出来が悪いとか、手際が悪いとか不満があったのかしら。
上司に不満を持つ部下の気持ちがは前世で痛いほど分かっているし、ここは思っていることを素直に話して貰って改善に努めよう。
「セバスさんのお人柄については存じておりますし、言いたいことがあれば何でもおっしゃってください。あ、そうだ。立ったままでは話したいこともゆっくり話せないでしょうし、セバスさんも座ってください」
「そんな滅相もない。私はこのままで」
「この部屋にはセバスさんしかいませんし、お茶も一人で飲むより二人で飲んだ方が美味しいですわ。ほら、お茶菓子もあるし一緒に摘まみながらお話をしませんか」
席を立ち、セバスさんが事前に持って来ていた予備のティーカップに紅茶を入れる。
セバスさんは判断に迷ったようだが断るのも失礼と判断したようで「では……お言葉に甘えて」と私の向かいの席に座った。
「ふふ、やっぱりお茶は一人で飲むよりも話相手がいる方が美味しく感じます。……それで、お話とは何でしょうか」
「これは……執事の戯言ですから、聞き流してください。まず、仕事の話になりますが、当主様の不在時の対応については当初私が代行をしていました。そして、奥様が嫁がれてきた当初もその予定でした」
ああ、まぁ普通そうだよね。
お見合い初日でいきなり嫁いで来た、良く分からない男爵令嬢に仕事を教えるのも大変だし、任せるのだって抵抗があるだろう。
一人で勝手に納得しながら、うんうん、と相槌を打つ。
「ですが、奥様が嫁がれて数日経過した後、当主様は私に対し、奥様へ執務権限を移行する旨を打診されました」
そうだったのか。だとしたら、セバスさん的には色々思うこともあっただろう。
「私としては以前通りの体制を希望しましたが、当主様の意思は固く、そのまま権限の移行が決まりました。正直に言ってしまうと、お見合い初日で嫁がれた奥様に対しあまり良い印象を抱いておらず、その中で決まった権限移行について不安を感じていましたし、奥様がこの屋敷を乗っ取るつもりでいるのか……など、良からぬ想像を働いておりました。申し訳ございません」
セバスさんはクロード様の補佐で色んな書類に目を通しているはずだから、釣書で私の経歴も知っているだろう。
それなら尚更私に対して警戒するだろうし、そういった考えになるのはある意味当然だろう。
「いえいえ、そう思われても仕方ないと思いますし、謝らないで下さい。それに、私はこの屋敷ではまだまだ新人で、セバスさんは先輩なのですから、そんなに気遣いをいただかなくても結構ですよ」
「奥様はなんとお心の広い御方なのでしょう。そうおっしゃっていただけて深く感謝いたします」
セバスさんはペコリと私にお辞儀をした。
ほんと、セバスさんはどんな時も丁寧な物腰が変わらない人だなぁ。私も見習わないと。
「ただ、他の使用人達に接する対応を見ていると私の考えは間違いだったことに気付きましたし、実際に奥様の仕事振りを目の当たりにして、当主様の判断は間違っていなかったのだと思うようになりました」
「えっと……私の仕事振りは大丈夫そうですか?」
「ええ! それはもう、素晴らしく早い飲み込みに驚いてしまいました。ですので、当初計画していた基礎の説明を全て省いて実践形式に変えてお伝えすることにいたしました」
そ、そうだったのか。
でも、思い返してみると初日は丁寧すぎるくらい丁寧だった説明が、翌日からいきなり書類を持って来られて「こうやります」と実践的な話になったんだよね。
セバスさんの役に立っているならいい事なんだろうけど、なんとなく前世で一時働いていたブラック企業を思い出してしまうのは気のせいだろうか。
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