上 下
24 / 62

23

しおりを挟む
* * *

 クロード様は残務処理のために昼食を一緒に食べた後再び執務室へ戻ってしまった。
 今日はもうお手伝いできるような家事がないので私も自室に戻ってきたけど、明日からクロード様が魔獣討伐でいなくなると思うとなんとなく落ち着かない。

 そうだ、安全祈願的なお守りのようなものを今からでも作れないかしら。

「ねぇ、ルネさん。ちょっと教えてほしいことがあるんですが」
「はい、私でわかることでしたら、何なりとおっしゃってください」
「ありがとうございます。実はクロード様のためにお守りを作りたいなと思っているのですけど、簡単に出来る物って何かありますか?」
「そうですね……組紐なんかを相手に渡すことはありますが、さすがに短時間ではできないでしょうし。あ! 自身の装身具を相手に渡して、無事に再開出来るよう祈念する、といったおまじない的なものはありますね」
「ふむふむ」

 装身具を相手に渡す、かぁ。
 例えば簡単な袋なんかを縫って、その中に髪飾りを入れておくとかなら今からでも出来そうかも。
 よし、試しにやってみようかな。

「ルネさん、布と針ありますか?」
「はい、ただいま持って参ります」

 明日、お守りを渡したクロード様はどんな表情をするだろうか。
 そんなことを想像しながら午後はお守り作りに没頭することにした。

* * *

 討伐当日の朝。
 屋敷の門の前には討伐隊の騎士達が一糸乱れぬ列でずらりと並ぶ。
 映画やゲームなんかでは見たことあるけど、間近でみると圧巻だわ。
 そして、私の後ろには使用人総出でずらりと並んでいるものだから、いつもと違ってなんだか緊張する。

「留守中の権限については妻に一任する。皆、エステルの命に従うように」

 一斉に私に向け礼をとる使用人達。
 おおお、なんかどこぞやのお偉いさんになったみたいで、なんだか変な気分だわ。

「ではエステル、行ってくるよ」

 あああ、ちょっと待って!

「あ、あの! クロード様」
「ん? どうした」
「あの、えっと……これをお渡ししたくて」

 ドレスのポケットに忍ばせていた小さい紫色の袋を取り出す。
 そう、布地の色は迷いに迷って、クロード様の瞳と同じ紫色にしたのだ。

「時間がなかったので簡単なものになってしまいましたが、この中には私の髪飾りが入っています。クロード様が怪我なく無事に戻ってこれるように、と願いを込めたお守りです。邪魔じゃなければ持って行ってくれると嬉しいのですが」
「エステル……」

 クロード様はぎゅっと私を抱き締めた。
 って、ちょちょちょちょっと待った! みんな見てるよ!?

「ありがとう、もちろん持っていくよ」

 羞恥心やらなんやらでプチパニック状態の私を他所に、クロード様はそっと手を放し私からお守りを受け取ると、大事そうに懐にしまった。

「魔獣など、さっさと始末してすぐにエステルの元へ戻ってくる」
「クロード様、くれぐれも無理はなさらないようにお気をつけください」
「ありがとう」

 クロード様はそういうと私の手をとり、そっと口付ける。

「では、行ってくる」

 そして、その手をそっと離すと、外套を翻し騎士達の元へと歩いて行った。

* * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない

小倉みち
恋愛
 よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。    容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。  彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。  小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。  父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。  そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。  傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。  というストーリーなのだが。  セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。  そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。  確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。  第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

【本編完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご
恋愛
あらすじ 「この魔力無しのクズが!」 ルルティーナ・アンブローズはポーション職人です。 治癒魔法の名家であるアンブローズ侯爵家の次女でしたが、魔力が無いために産まれた時から虐待され、ポーション職人になることを強要されました。 特に激しい暴力を振るうのは、長女のララベーラです。ララベーラは治癒魔法の使い手ですが、非常に残酷な性格をしています。 魔力無しのルルティーナを見下し、ポーションを治癒魔法に劣ると馬鹿にしていました。 悲惨な環境にいたルルティーナですが、全ては自分が魔力無しだからと耐えていました。 誰のことも恨まず、一生懸命ポーションを作り続けました。 「薬の女神様にお祈り申し上げます。どうか、このポーションを飲む方を少しでも癒せますように」 そんなある日。ルルティーナは、ララベーラの代わりに辺境に行くよう命じられます。 それは、辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール伯爵。通称「惨殺伯爵」からの要請でした。 ルルティーナは、魔獣から国を守ってくれている辺境騎士団のために旅立ちます。 そして、人生が大きく変わるのでした。 あらすじ、タイトルは途中で変えるかもしれません。女性に対する差別的な表現や、暴力的な描写があるためR15にしています。 2024/03/01。13話くらいまでの登場人物紹介更新しました。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...