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20【ルネ視点】
しおりを挟む奥様が当主様の部屋から朝帰りしたあの日、それとなく聞き出した内容に内心がっくりと肩を落としたけど、あの日以来クロード様の奥様に接する態度は明らかに変わりました。
なんていうか、今までの殺伐とした空気が和らいで「愛おしい人」を扱うような、そんな感じ。
あの日は何もなかったと言いつつも、当主様の中では「何か」が大きく変わったようです。
それに変わったことと言えば、ここ最近は公務がある日も早く切り上げて毎晩のようにクロード様が奥様を晩酌に誘うようになったこと。
奥様も最初は動揺していたけど、回数を重ねていくうちに段々慣れてきたのか、最近では晩酌のために夕食時の食事量を調整して食べるようになってきています。
ふふふ、確実に二人の仲が進展してきているようで良かったわ。
そんなことを思いつつふとクローゼットを整理していると奥様がお見合い当時着ていたドレスが出てきた。
型の古い、明らかにお下がりだと分かるようなドレス。
お見合い当初にそんなドレスを身に纏い下ばかり見て怯えた様子の奥様は、はっきり言って今までお見合いで参加されたどの御令嬢よりみすぼらしい印象を受けました。
そして、奥様は『能無し』で、後からセバスさんに聞いた話では奥様は家族からもそのことが原因で厄介者扱いをされてきてたということでした。
確かに『能無し』は魔法製品が扱えないため生活自体も相当な不便を強いられるし、社会に出ても働き口が限られてしまう。
それでも家族であれば家事を任せたり何かと助け合って生きていくことが一般的で、『能無し』だったとしても必死に働き財を成す者もいるため、平民の間では昔ほど不当な扱いはされなくなってきています。
しかし、貴族間では「血統」が重視される傾向があるため『能無し』に対する差別意識は根強いようで、奥様も家族から酷い扱いを受けてきたようなのです。
その証拠に、お風呂の給仕では服の下に隠れるような見えない場所に痣があったり、しっかり栄養が取れていないようで体も痩せていました。髪もきちんとお手入れされていないせいか毛先がだいぶ傷んでいたし、お肌も荒れ気味でしたし。
まぁ、その辺りはルネお手製の美容オイルとお手入れでしっかりケアをしたらすぐに艶々の美しい髪と肌へ変わったけども、ふふふ。
さて、話を戻すけど、家族からも不当な扱いを受けてきただろう奥様にどう接したらいいものか、と悩んでいたけど、蓋を開けてみたらとても素晴らしいお人柄でした。
まぁこちらに来られた当初は、いきなり料理を始めたり、庭いじりをしたり、使用人の手伝いを始めたりと、困惑することばかりで「とんでもない方が嫁いで来られた」と思ったりもしたけど。
でも、奥様の行動基準はいつだって「人のため」だったし、外見や身分で差別することなく平等に接してくれる。
そう、当主様と同じ価値観をお持ちなところに好感が持てました。
もしかしたら、当主様は奥様のお人柄を見抜いてご結婚を決断されたのかもしれない。
こんな素敵な奥様だもの、当主様が惚れるのも無理のないことです。
そして……こんな奥様にお仕えできるなんて最高に名誉なことだと思っています。
「ルネさ~ん、ドンさんの菜園でお手伝いしたいから着替えを手伝ってもらってもいいでしょうか」
おっと、奥様がお呼びだわ。
平民出身の侍女に敬語なんて使わなくていいとお伝えしても「年上ですから敬意を持って接するのは当然ですわ」
なんて律儀なところまで当主様に似ているなんて。ふふふ。
「はい、ただいま参ります」
私は、ランブルグ領で育った人間ですから、ランブルグ家に一生を捧げるのが誇りですし当然だと思っています。
平民出身の私など取るに足らない命ではありますが、奥様のような素敵なお方に捧げることができるのは本当に嬉しく思います。
「ルネさん、いつもありがとうございます」
奥様はそうおっしゃるとにっこりと無邪気な笑顔を浮かべる。
奥様のこの笑顔が続くよう、これからも側でお仕えしていきたい。
改めて、そう感じました。
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