上 下
18 / 62

17

しおりを挟む
* * *
 
「我が家から『能無し』が生まれるなんて……」

 お母様、そんなに悲しい顔してどうしたの?
 
「お前は一家の恥よ! ああ、汚い手で触らないで頂戴!」

 叩かれた手が痛い。
 でも、汚い手で触った私が悪いの。
 お母様、ごめんなさい、ごめんなさい。

「そんな目で見ないで! 早くこの部屋から出て行きなさい!」

 ごめんなさい、お母様。
 
「お前なんて、生まれて来なければ良かったのよ!!」

 ごめんなさい。
 ……生まれてきて、ごめんなさい。
 
 
 ーーハッ!!


 「うう……夢……?」

 起き上がろうとすると、う、身体が怠い。
 それに先ほどの夢のせいか、頭も重い。

 いや、あれは『夢』ではなくて、もしかしたらエステルの記憶なのかも知れない。

 重く感じる頭に手を当てつつ上体を起こすと、視界に入る物はどれも私の部屋にないものばかり。
 あれ? もしかして、ここ私の部屋じゃない?

「ん……」

 ん、なんか声がする。そういえばやけに布団が温かいな。

 って、えええ!? 

 クロード様が隣で寝てる!?

「エステル……?」

 クロード様は閉じていた瞼をゆっくり開け、紫色の瞳が私を映し出す。
 
「おはよう」
「オ、オハヨウゴザイマス」

 うきゃぁぁぁぁあ!? 

 ちょっと待って! 暫く気付かなかったけどクロード様、上半身裸なんですけど!? 
 身体にあちこち古傷があるけど、引き締まって凄く良い身体付き。ごくり……。ってそうじゃなかった!

「おっと、もうこんな時間か」

 えええっと、その……この状況は、つまり……。
 
 朝チュン、というやつですか?

 クロード様は私の動揺を他所に、ふぁっと欠伸をしながら椅子にかけてあるシャツを羽織る。

 ど、どうしよう。
 お酒が進んでふわふわした気分の中会話していた記憶はあるんだけど、そこから後の記憶が全くない。

「私はこれから仕事をするが、エステル嬢は暫く休んで行くか? 昨夜は酔ってそのままテーブルに突っ伏して眠ってしまったくらいだから、まだ身体に酒が残っていて怠いだろう」
「わ、私は大丈夫ですわ。それより昨夜は大変な粗相をしたようで申し訳ありません」
「ははは! 私が誘ったのだし、全く気にしなくて良い。それより酒を勧め過ぎてしまった様でこちらこそすまなかった、次回からは気をつける」

 良かった、一先ずクロード様の気分を害したりはしていないようだわ。

 そして、昨日はそのまま寝ちゃったのか! 勘違いで恥ずかしい!

「私は隣の部屋で仕事をしているから、少し寝てから出ると良い。身支度はクローゼットの中に姿見があるし、水桶はあっちにある。飲み水は机に置いてあるから好きに飲んでくれ」
「は、はい」

 クロード様は簡単に身支度を済ませると、さっさと寝室を出て行ってしまった。
 特に用事はないけど、ここに止まっているわけにもいかないし。
 私も早く支度をしよう。

 のそのそとベッドから這い降りて机にある水差しからコップに注ぐ。

 ぷはぁ、さっきより頭がシャキッとしてきたわ。

 軽く身支度を整えてそっと扉を開けると、机で書類を書いていたクロード様がふっと顔を上げた。

「まだ眠っていても良かったのに。身体は大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です。一旦自室に戻って着替えて参ります」
「そうか」

 クロード様はそのまま自席から立ち上がると私の傍までやって来て、そのまま扉までエスコートをする。
 その場でお別れからと思いきや、そのままクロード様は私について来た。

 こんな時までエスコートしてくれなくて良いのに、律儀過ぎるでしょ!

 そんな事を思いながら歩いているうちにあっという間に自室の前に着くと、クロード様は私の頭をそっと撫でながらふふっと笑った。

 はわわわわ、クロード様が微笑を浮かべている!?

「ここ、まだ寝癖が付いてる」
「ふぁっ!?」
「このままでも可愛いけど、外に出るなら直した方が良いかも知れないな。後でルネに整えて貰うと良い」
「は、はぃぃ」

 ンガァァァ! こんな至近距離からイケメンの笑顔とか福眼過ぎるぅ!!

 ってそれより寝癖を指摘される令嬢って色んな意味でアウトよね…...は、ははは……。
 色々やらかして、最早私のHPはゼロよ。

 一先ずクロード様にお辞儀をしつつ自室の前でお別れをして、パタンと部屋の扉を閉めた。

 っはぁぁぁぁ~、なんかどっと疲れた。

 思わずソファに座り込んでいると、タイミング良くルネさんがやって来た。

「奥様、成功しましたね! あらあら、だいぶお疲れの様ですね。お身体に触るといけませんし、少しベッドでお休みになられては如何でしょうか」

 残念な事にルネさんが想像しているような展開は何もないんだよね。
 でも話をすると長くなりそうだし、少し休んでからにしよう。

「ありがとうございます。そうします」

 ルネさんに寝巻きを用意してもらい、着替えるとさっさと布団に潜り込む。

 ああ、ふかふかで気持ち良い~。

「では、食事の用意が出来ましたらまたお声掛けします。ゆっくりおやすみください」
「はぁい」

 ふぁぁ、誰もいなくなったら本格的に眠くなって来た。
 少し寝よう。おやすみなさい
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

亡国の大聖女 追い出されたので辺境伯領で農業を始めます

夜桜
恋愛
 共和国の大聖女フィセルは、国を安定させる為に魔力を使い続け支えていた。だが、婚約を交わしていたウィリアム将軍が一方的に婚約破棄。しかも大聖女を『大魔女』認定し、両親を目の前で殺された。フィセルだけは国から追い出され、孤独の身となる。そんな絶望の雨天の中――ヒューズ辺境伯が現れ、フィセルを救う。  一週間後、大聖女を失った共和国はモンスターの大規模襲来で甚大な被害を受け……滅びの道を辿っていた。フィセルの力は“本物”だったのだ。戻って下さいと土下座され懇願されるが、もう全てが遅かった。フィセルは辺境伯と共に農業を始めていた。

17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない

小倉みち
恋愛
 よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。    容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。  彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。  小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。  父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。  そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。  傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。  というストーリーなのだが。  セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。  そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。  確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。  第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

【本編完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご
恋愛
あらすじ 「この魔力無しのクズが!」 ルルティーナ・アンブローズはポーション職人です。 治癒魔法の名家であるアンブローズ侯爵家の次女でしたが、魔力が無いために産まれた時から虐待され、ポーション職人になることを強要されました。 特に激しい暴力を振るうのは、長女のララベーラです。ララベーラは治癒魔法の使い手ですが、非常に残酷な性格をしています。 魔力無しのルルティーナを見下し、ポーションを治癒魔法に劣ると馬鹿にしていました。 悲惨な環境にいたルルティーナですが、全ては自分が魔力無しだからと耐えていました。 誰のことも恨まず、一生懸命ポーションを作り続けました。 「薬の女神様にお祈り申し上げます。どうか、このポーションを飲む方を少しでも癒せますように」 そんなある日。ルルティーナは、ララベーラの代わりに辺境に行くよう命じられます。 それは、辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール伯爵。通称「惨殺伯爵」からの要請でした。 ルルティーナは、魔獣から国を守ってくれている辺境騎士団のために旅立ちます。 そして、人生が大きく変わるのでした。 あらすじ、タイトルは途中で変えるかもしれません。女性に対する差別的な表現や、暴力的な描写があるためR15にしています。 2024/03/01。13話くらいまでの登場人物紹介更新しました。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...