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 うう、なんか無駄に緊張するなぁ。

 そのままソファに座ると、ルネさんはテキパキした様子でお茶を用意したあと「お茶菓子や追加のお茶を用意して参ります」と出て行ってしまった。

 ああ、ルネさん仕事が早い! もう少し居て欲しかった。

「実は先程セバスにエステル嬢が屋敷に馴染めているか尋ねたのだが、活動的に過ごしていた事を聞いたのでな。その内容が興味深かったものだから、詳しく聞きたかったのだ」

 え!?
 ま、まさかのセバスさんを通して屋敷内で好き勝手に過ごしていたことが筒抜けだったとは!

「も、申し訳ありません! 旦那様がいないところで勝手に動いてしまいました」
「何故謝る? ここはもうエステル嬢の屋敷でもあるのだから、屋敷内でどのように過ごしても構わない。私が聞きたかったのはエステル嬢が過ごしたときの内容が知りたかっただけだ」
「え、えっと……」

 言葉に詰まる私を見てクロード様は何かに気付いた様子で、さきほどより穏やかな口調で話を続ける。

「ああ、もしかして言い方が高圧的なのか……? すまない、エステル嬢を尋問している訳ではないんだ。ただ、雑談としてエステル嬢の話を聞きたかっただけだから、どんな事でもいいから思ったことを素直に話してくれて構わない」

 この様子だと屋敷内で好き勝手にやっていたことについて咎められる事はなさそう……?

「は、はぁ。えっと…...ではどのあたりからお話をすればよろしいでしょうか?」
「そうだな。まず、庭師のドンと仲良くなったようだな。実は彼は元々は別の家の庭師として働いていたんだ」
「そうだったのですね」
「ただ、彼は孤児出身のため周囲からの扱いも良くなかったこともあり、私が転職の打診をしたのだ。そんな経緯からか、初対面の人間にはあまり心を開かず少々気難しい一面があってな」

 そうだったんだ。ドンさんは気さくで優しい人だと思っていたけど、そんな過去があったのね。

「だから、エステル嬢が彼と仲良くしている話を聞いて驚いたよ。私ですら説得に時間をかけたというのに。一体どんなやりとりがあったんだ?」
「ええと……大した話ではないのですが、園芸が趣味で野菜を育てたことがあるとお伝えしたところ話が弾みまして。ドンさんはプロの庭師ですから、色々と話を伺っているうちに仲良くなりました」
「ほう。趣味で野菜を育てるとは珍しいな」
「ええ、それはドンさんもおっしゃっていました」

 前世の趣味がここまで珍しい趣味扱いされるとなんとなく複雑な心境だわ……。

「育てる食物を野菜にした理由は?」
「ええと……ドンさんにもお話をしたことですが、野菜を育てて食べる一連の流れは、野菜の持つエネルギーを直に感じることが出来て元気を貰えるんです。その感覚が好きで、気付いたら趣味になっていました」
「なるほどな。確かに植物にも微量だがエネルギー波動があるらしいと魔法相が発表していた」
「そうなんですか?」
「ああ。魔力ではない波動故に魔法相の連中も試行錯誤を繰り返している段階のようだがな」

 魔法相かぁ。確かにエステルの記憶でもそういった組織があることは理解しているけど、前世にはない知識はなんとなく疎外感のような物を感じる。
 こう、なんて言ったらいいのかな。「異世界感?」みたいなのが強くなる気がする。

「そうなのですね」

 そんなことを思っていると、扉からノック音が聞こえる。
 クロード様が返事をすると、メイド達が中に入ってきて美味しそうなお茶菓子やおつまみそしてお酒を運んできた。
 うわぁ、軽食のはずがずいぶん豪華ね。

「お二人とも、どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」

 なんか使用人達の言葉に含みがあるのは気のせいだろうか。

「さて、つまみも来たことだ。他にも聞きたい事があったことだし、ゆっくり酒でも飲みながら話をしよう」
「は、はい」

 あ、初日に飲んだワインがある。あれ美味しいんだよね。

 こうして私はクロード様と酒を飲みつつ屋敷内の出来事について話をした。

 そして、気持ちよくお酒を飲み、ワイン瓶を数本空にしたあたりから私の記憶は朧気になり、気付けば記憶が途絶えていたーー。
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