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「はぁ。何だか至り尽くせりね」
セバスさんが居なくなって暫くすると、豪華なお茶菓子とお茶のセッティングがされ、促されるままお茶を堪能していた。
すると、今度は侍女らしき人達が湯浴みの支度が整ったからと別部屋に移され、一人でお風呂くらい入れると言っても「旦那様と過ごす大切な日なですから今日くらいは」とされるがまま使用人達の手により念入れなお手入れを受け、どこからともなく用意された豪華なドレスに身を包む事になった。
「こんな豪華なドレスを汚したら大変」と最初は断ったのだが、私のドレスは既に洗い物として洗濯場に持って行ってしまったとのことで渋々煌びやかなドレスを着ることにしたのだが、何だか落ち着かない。
ソワソワしつつ、これまた豪華なソファに座りながら、思わずふぅ、とため息が漏れる。
泊めてもらうだけなのに、何故ここまで手厚いおもてなしをされるのかよく分からないわ。
考えてみても理由が思い浮かばずに、うーん? と首を傾げているとコンコンッと扉を叩く音がした。
「エステル嬢、晩餐の準備が整ったようだ」
この声はクロード様だ!
「は、はい!」
お待たせてはいけないわね。急がなきゃ!
駆け足で扉を開けた……ところまでは良かったんだけど。
わわわ、ドレスの裾を踏んでる。って、前に倒れるーー!
……っと思ったのだが、ガッシリした腕が私を支えている。
「っと、危ない。エステル嬢、大丈夫か?」
「す、すみません。私ったら……!」
ああ、令嬢なのにドレスの裾を踏んで転けそうになるなんて恥ずかしい!
顔が一気に熱くなるのを感じていると、バチッとクロード様と目が合った。
この人の瞳って、本当に綺麗だなぁ。
そんな事を思っていると、クロード様の目元が薄ら赤くなり、ふいっと顔を逸らした。
「貴女は本当に真っ直ぐ見つめるのですね」
まずい、前世にない瞳の色だから好奇心もあってつい観察してしまった。
目を覗き込んだりしたから、失礼だと思われたのかも。
「申し訳ありません! 瞳が綺麗で、つい」
「ああ、いや。怒っているわけではない。……見つめられる事に慣れていなくてな」
おや? クロード様はもしかしてシャイなのかしら?
でもゲームでは無表情な冷徹キャラだったような気がしたけど……?
そんな事を思っているとクロード様はさりげなく私の腰に手を回してエスコートして来た。
「また転んでは危ないからね、私が傍に付こう」
「は、はぁ」
うぅ、距離が近くて落ち付かない……。
前世でだってこんなスマートなエスコート受けたことないし。
ましてや隣にいる男性は、乙女ゲームのキャラだけあってイケメンだし。
「さ、ここが食堂だ」
「ありがとうございます」
おおー、さすがは一流貴族。元の世界とは比べ物にならないくらい豪華なセットと食事だわ。
席に着くと、早速使用人達が給仕を始めた。
「まずは乾杯でもしよう」
「あ、はい」
あ、このワイン好きかも。すごく美味しい。
前世はザルと呼ばれるくらい酒には強い体質だったこともあり、つい癖でごくごくとワインを飲んでいるとクロード様は「おお、エステル嬢は酒が行ける口か」と関心した様子で話かけてきた。
「え、ええ。このワインがとても美味しかったものですから」
「実はこのワインは我が領で作られた物だが、希少な品種を使用していて数が少なく市場には殆ど出回らない物でな。製造手法が普通のワインと異なる故に独特の風味があるのだが、これが良いアクセントになっているんだ」
「確かに、一口目に広がる香りには特徴はございましたが、とても美味しいですわ」
「そうだろう? このワインは人によっては好き嫌いが別れるようだが、エステル嬢の口に合っているようで良かった」
クロード様は機嫌を良くしたのか、グイッとグラスのワインを空ける。
そのまま和やかな雰囲気でいると、扉をノックする音と共にセバスさんが入ってきた。
「旦那様、少し宜しいでしょうか」
何だろう、緊急の用事かな?
そんな事を思いつつ二杯目のワインをグビグビ飲んでいると、話を聞いたクロード様は「エステル嬢に伝える事が出来たようだ」と私に向かって話しかけた。
え、セバスさんのやり取りは私に関する事?
「エステル嬢。晩餐の席ですまないが、こういった事は早めに話をしておいた方が良いだろう」
「は、はい」
やはり私も絡む話なのか。
何だろう、悪い話かな。
一先ずワイングラスを置いてクロード様の話に集中することにしよう。
「私はスターク家との縁談を受けることにした。そして先程魔法を掛けた手紙を介してスターク家より了承の返事を貰った。つまり、私達はこの時点で婚約者になった」
「え」
「婚姻届についても既にスターク男爵が記入済みのものを出してきたから私のサインをして明日提出しておく。明日から貴女は私の妻になる。式準備についてはスターク家は一任するとあったので、全てこちらで取り仕切ろう」
「ええ?」
「それと、先方は嫁に出した娘だからスターク家には戻さないで欲しいと書いてあった。急ではあるが今日からエステル嬢は我が屋敷で暮らすことになったので、晩餐が終わったら早速部屋を用意しよう。屋敷内の物は好きに使ってくれていいし、何か不都合があれば使用人に言ってくれ」
えええ、ちょっと待って?
縁談の席でいきなり結婚生活スタート!?
いくら貴族同士の結婚とはいえ、これはあまりに急展開過ぎませんか!?!?
話についていけずにぽかーんとしていると、クロード様は何食わぬ顔で「話しは以上だ。さ、食事を続けよう」とさっさと食事を再開し始めた。
「はぁ。何だか至り尽くせりね」
セバスさんが居なくなって暫くすると、豪華なお茶菓子とお茶のセッティングがされ、促されるままお茶を堪能していた。
すると、今度は侍女らしき人達が湯浴みの支度が整ったからと別部屋に移され、一人でお風呂くらい入れると言っても「旦那様と過ごす大切な日なですから今日くらいは」とされるがまま使用人達の手により念入れなお手入れを受け、どこからともなく用意された豪華なドレスに身を包む事になった。
「こんな豪華なドレスを汚したら大変」と最初は断ったのだが、私のドレスは既に洗い物として洗濯場に持って行ってしまったとのことで渋々煌びやかなドレスを着ることにしたのだが、何だか落ち着かない。
ソワソワしつつ、これまた豪華なソファに座りながら、思わずふぅ、とため息が漏れる。
泊めてもらうだけなのに、何故ここまで手厚いおもてなしをされるのかよく分からないわ。
考えてみても理由が思い浮かばずに、うーん? と首を傾げているとコンコンッと扉を叩く音がした。
「エステル嬢、晩餐の準備が整ったようだ」
この声はクロード様だ!
「は、はい!」
お待たせてはいけないわね。急がなきゃ!
駆け足で扉を開けた……ところまでは良かったんだけど。
わわわ、ドレスの裾を踏んでる。って、前に倒れるーー!
……っと思ったのだが、ガッシリした腕が私を支えている。
「っと、危ない。エステル嬢、大丈夫か?」
「す、すみません。私ったら……!」
ああ、令嬢なのにドレスの裾を踏んで転けそうになるなんて恥ずかしい!
顔が一気に熱くなるのを感じていると、バチッとクロード様と目が合った。
この人の瞳って、本当に綺麗だなぁ。
そんな事を思っていると、クロード様の目元が薄ら赤くなり、ふいっと顔を逸らした。
「貴女は本当に真っ直ぐ見つめるのですね」
まずい、前世にない瞳の色だから好奇心もあってつい観察してしまった。
目を覗き込んだりしたから、失礼だと思われたのかも。
「申し訳ありません! 瞳が綺麗で、つい」
「ああ、いや。怒っているわけではない。……見つめられる事に慣れていなくてな」
おや? クロード様はもしかしてシャイなのかしら?
でもゲームでは無表情な冷徹キャラだったような気がしたけど……?
そんな事を思っているとクロード様はさりげなく私の腰に手を回してエスコートして来た。
「また転んでは危ないからね、私が傍に付こう」
「は、はぁ」
うぅ、距離が近くて落ち付かない……。
前世でだってこんなスマートなエスコート受けたことないし。
ましてや隣にいる男性は、乙女ゲームのキャラだけあってイケメンだし。
「さ、ここが食堂だ」
「ありがとうございます」
おおー、さすがは一流貴族。元の世界とは比べ物にならないくらい豪華なセットと食事だわ。
席に着くと、早速使用人達が給仕を始めた。
「まずは乾杯でもしよう」
「あ、はい」
あ、このワイン好きかも。すごく美味しい。
前世はザルと呼ばれるくらい酒には強い体質だったこともあり、つい癖でごくごくとワインを飲んでいるとクロード様は「おお、エステル嬢は酒が行ける口か」と関心した様子で話かけてきた。
「え、ええ。このワインがとても美味しかったものですから」
「実はこのワインは我が領で作られた物だが、希少な品種を使用していて数が少なく市場には殆ど出回らない物でな。製造手法が普通のワインと異なる故に独特の風味があるのだが、これが良いアクセントになっているんだ」
「確かに、一口目に広がる香りには特徴はございましたが、とても美味しいですわ」
「そうだろう? このワインは人によっては好き嫌いが別れるようだが、エステル嬢の口に合っているようで良かった」
クロード様は機嫌を良くしたのか、グイッとグラスのワインを空ける。
そのまま和やかな雰囲気でいると、扉をノックする音と共にセバスさんが入ってきた。
「旦那様、少し宜しいでしょうか」
何だろう、緊急の用事かな?
そんな事を思いつつ二杯目のワインをグビグビ飲んでいると、話を聞いたクロード様は「エステル嬢に伝える事が出来たようだ」と私に向かって話しかけた。
え、セバスさんのやり取りは私に関する事?
「エステル嬢。晩餐の席ですまないが、こういった事は早めに話をしておいた方が良いだろう」
「は、はい」
やはり私も絡む話なのか。
何だろう、悪い話かな。
一先ずワイングラスを置いてクロード様の話に集中することにしよう。
「私はスターク家との縁談を受けることにした。そして先程魔法を掛けた手紙を介してスターク家より了承の返事を貰った。つまり、私達はこの時点で婚約者になった」
「え」
「婚姻届についても既にスターク男爵が記入済みのものを出してきたから私のサインをして明日提出しておく。明日から貴女は私の妻になる。式準備についてはスターク家は一任するとあったので、全てこちらで取り仕切ろう」
「ええ?」
「それと、先方は嫁に出した娘だからスターク家には戻さないで欲しいと書いてあった。急ではあるが今日からエステル嬢は我が屋敷で暮らすことになったので、晩餐が終わったら早速部屋を用意しよう。屋敷内の物は好きに使ってくれていいし、何か不都合があれば使用人に言ってくれ」
えええ、ちょっと待って?
縁談の席でいきなり結婚生活スタート!?
いくら貴族同士の結婚とはいえ、これはあまりに急展開過ぎませんか!?!?
話についていけずにぽかーんとしていると、クロード様は何食わぬ顔で「話しは以上だ。さ、食事を続けよう」とさっさと食事を再開し始めた。
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