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4【クロード視点】
しおりを挟むまさか、私の瞳を怖がらない令嬢が現れるとは……。
自室の窓から外の景色を眺めつつ、眼帯に触れる。
この紫目は魔力が強い者に現れるのだが、強過ぎる力は恐怖の対象として見られる。
そのため、戦闘時以外はこうして眼帯を付け片目を隠して生活をしている。
眼帯をしているため視界が悪いことと『隻眼』とよく間違われるのが難点だが、そうでもしないと不用意に周囲を警戒させてしまう。
それでも、初見は皆一様に私から目を逸らし距離を取られてしまうが、強い魔力を恐れる気持ちもわかる。
私のように強い魔力持ちが魔法を発動させれば、人を傷付ける事も簡単だ。
常に凶器をチラつかせている人間が近くにいれば、身の危険を感じ離れるのはある意味普通のことであり、私自身もその反応に慣れてしまっていた。
それにも関わらずあの令嬢は私の瞳を真っ直ぐに見てこう言い放ったのだ。
『綺麗な紫色……宝石みたい』
今は亡き実の親ですら、私の瞳を恐れていたというのに。
「エステル嬢か。面白い奴だ」
そもそも私は結婚などする事なく、辺境伯としての使命に生涯身を捧げるつもりでいた。
しかし、周りの者達……特に国王がそれに対し口出しをして来たのだ。
国防に関わる故の判断なのだろうが、私としては非常に面倒な事になった。
そのため、ここ数ヶ月は休みの度に楽しくもない縁談をこなしていた訳だが、皆一様に私の瞳に震える令嬢ばかりだった。
本当は私に心を開いてくれる女性を選びたかったが、もうこの際、仕事の邪魔をせず後継者だけ産んでくれる飾りの妻で良い。
ーーそう思い、今回縁談を受けたのがスターク男爵家のエステル嬢だった。
このスターク男爵家は経営が上手く行っていない様で、多額の支援金を条件に娘を差し出してきた経緯がある。
『娘はランブルグ卿の自由にお使い下さい』
スターク男爵から出された手紙には実の娘を嫁に出す言葉とは思えないような文面が綴られていた。
不審に思い調査をしたところ、エステル嬢は魔力を持たない、いわゆる『能無し』の娘だった。
そのため、きっと家族からも辛く当たられていたのだろうと推測が出来た。
私らしくもないが、そんな境遇を己の孤独な生き様に重ねてしまったのかも知れない。
男爵家の縁談話など普通なら断るところだが、『能無しの娘』として虐げられる生活よりは『飾りの妻』として生活する方が、令嬢にとっても環境的には良くなるはずだ。
私としてもビジネスと割り切ってくれる飾り妻の方が何かと便利なため、縁談を引き受けることにしたのだ。
しかし、令嬢は会っていきなり卒倒したので飾りの妻としても役に立ちそうにないと思ったのだが、目を覚ましてみるとまるで別人のように私の目を見て堂々と振舞っていた。
どのような心境の変化が起きたのかは分からないが、私の瞳を怖がらずに話せる令嬢など彼女くらいしかいないだろう。
そんな事を思っているとコンコンと扉を叩く音がした。
「セバスか、入るといい」
セバスは「失礼致します」と言うとテキパキした様子で扉を閉めた。
「旦那様、エステル様にはお屋敷に留まる様説得致しました」
「そうか、ご苦労だった」
「旦那様……本当に宜しかったのですか? このままですと借金を抱えたスターク男爵家は既成事実として結婚を推し進める可能性がございますが」
「構わん。このままエステル嬢と結婚する予定だ」
セバスは物言いたげな様子だったが、一呼吸を置いた後に話を続けた。
「……左様でございますか。では、先方へは手紙を出す必要があるかと」
「ああ、分かっている。出来上がった手紙は私の魔法で飛ばす。返信用の封筒も用意してくれ、そちらにも魔法を掛けておこう」
「畏まりました」
「ああ。それと、エステル嬢は今日からこの屋敷に住まわせる予定だ。部屋は空いている場所を適当に見繕っておけ。用意は任せる」
セバスは「承知しました」と一礼すると、颯爽とした様子で出て行った。
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