寝取られ予定のお飾り妻に転生しましたが、なぜか溺愛されています

あさひな

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 ーーハッ!!

 目を開けて飛び込んできたのはやたら煌びやかなシャンデリアだ。
 こんな高そうなシャンデリア、当然私の部屋にはない。
 ここは一体どこなのだろう。
 
「んん」

 あれ、いつもの声じゃない。
 むくりと状態を起こすとゆらりと栗色の長髪が視界の端に入った。

 この髪も、私の物とは違う。

 そういえば先程私は『エステル』と呼ばれていた。
 私が知らない筈の情報が入り混じって頭がすっきりしないけど、もしかして今この身体は私の物ではない……?

 疑惑を払拭するためにも、今の自分の姿を確認したい。
 そう思って辺りを見渡すと部屋の隅に鏡台がある。
 恐る恐る鏡台の前まで行き己の姿を映す鏡を見て、疑惑は確信へ変わった。

「……誰?」

 栗色の長髪
 小さめだがパッチリした琥珀色の瞳
 目を引くような派手さはないものの、品良く整った顔立ちをした女が目の前に映し出されている。
 
「これは、夢?」

 いや、ちょっと待てよ。私、この展開知ってるかも。
 まぁとりあえず一旦ベッドに戻って落ち着こう。

 やたら広いベッドの端に腰を下ろすと、シモ◯ズ張りにフカフカのベッドは私の重みに合わせてゆっくりと沈んだ。
 え? 何でシモ◯ズのベッドの寝心地を知っているのかって? それは冷やかしで行った高級家具屋にあった見本品で寝たことがあったからよ。

「ふぅ」

 ああ、私のせんべい布団と違ってこのベッドの寝心地最高だわ。
 どうせなら寝心地を堪能しておこう、と貧乏根性丸出しでモゾモゾと布団を被る。
 
 ここまでの行動で何となくお解りだろうが、私は決して裕福な家庭の育ちではない。 

 私の生い立ちだが、学生結婚をして間もなく夫を亡くし、シングルマザーとして一人息子を育て上げてきた。
 仕事家事育児を一人でこなすのはしんどかったが、人間いざとなればやれるものだ。
 そんな慌ただしい日々の中でも息子は逞しく育ち、社会人として独り立ちを果たした。
 子供の世話がなくなり時間の空いた私は、趣味としてラノベ小説や乙女ゲームをやるようになったため、この展開にピンと来たのだ。
 
 と、つい過去を振り返ってしまったわ。
 歳を取ると人生を振り返りがちよね、ってそれより今の状況について考えなきゃいけないわね。
 
 そうそう、この展開は異世界転生物のラノベに書かれていたシチュエーションと一緒だわ。
 その通りの事が起こったのであれば、私はきっと先程までやっていた乙女ゲームの世界の住人に転生してしまったのだろう。
 
 困ったわ、元の世界には戻れないのかしら。

 そこでふとこの世界に来る前の行動を思い出した。
 そうだ。私、片手でゲームしながら洗濯物取り込んでいたらゲーム機が落ちて咄嗟にベランダから身を乗り出したんだった。


 ……ってことは、元の世界の私は既に死んでいる可能性が……?


「もしあのまま死んで元の世界に身体がないなら、戻れない可能性の方が高いってことか……はぁ」

 そこでふと、一人息子の顔が頭を過ぎった。
 あの子は元々甘えん坊で泣き虫な子だった。
 独り立ちしたとはいえ、息子の気質を知っている故に色々と心配になる。

「せめてお別れくらいはしたかったな……」

 しかし、現実とは無情だ。
 どんなに元の世界に未練があろうとも時は流れ、こうしてクヨクヨしている間にも時間はどんどん過ぎて行く。
 元の世界に戻る方法が分からないのであれば、今は前を向いて行くしかないのだ。

 ーーそうよ、元の世界の時だって、夫が亡くなってから悲しむ間もなく必死に前を向いて生きてきたじゃない。
 
 自然と流れた涙を服の裾で拭いながら、グッと上体を起こした。

 よし! クヨクヨするのは一旦おしまい!!

 今はまず私の置かれた状況を整理しなければ。

 先程の記憶から、どうやら私は『エステル・スターク』というスターク男爵家の長子に転生したらしい。
 貴族に生まれたエステルだが、その生い立ちは決して恵まれたものではなかった様だ。

 ーーそれはエステルが『能無し』だから。

 この世界の人間はどの立場の者でも等しく魔法が使えるのだが、エステルは魔法が使えなかった。
 この世界ではそういった者達を『能無し』と差別扱いする風習があり、家族もエステルを厄介者として辛く当たっていた様だ。
 先程の倒れる前に見た胸糞悪いシーンも、その一部だったのだろう。
 
 この子は酷い家庭に育って大変な想いをしてきたのね……可哀想に。
 
 でも、エステルなんて名前のキャラ、ゲーム内にいたかしら?

「あ」
 
 先程いた攻略対象者とエステルの記憶から、何となく思い当たる節がある。
 この乙女ゲームは婚約者や既婚者のいる攻略者から奪略をする、いわゆるNTRというジャンルのゲームだ。
 パッケージに惹かれて中身をよく確認せずに手に取ったのだが、よくよくゲームの説明書きを読むと想像していた内容と違っていた。
 既婚の身からすると少々気分を害する内容だったため、始めたばかりだったがキリのいいところで辞めようと思っていたのだ。

 そのコンセプト通りの世界で今まさに攻略対象のキャラとお見合い中となると、自然と私のポジションは決まってくる。
 
「もしかして、私って……ヒロインに寝取られるモブ役?」
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