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咆哮

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 切先が目に突き刺さる直前、その刃が弾け飛ぶように逸れる。

「クアッ!」

 突然叫び声があがり見上げると、奴の小刀を持っていた腕に矢が刺さっていた。
 他のミームが驚きの声をあげ辺りを見回す。

 トスッ──

 そのうちの一人の足に矢が突き刺さる。
 そいつは足を抱え込んで倒れ、苦痛の叫び声をあげた。
 俺を囲むミームたちは突然の何者かの襲撃に、蜂の巣を突いた様な混乱に陥った。

「※◎★● ○▼!!!」

 鳶色の目のミームが声を張りあげ、無傷の二人が矢の飛んできた方向に飛び去るように向かう。
 奴は顔をしかめ、腕に刺さる矢を引き抜こうとしていた。

 何が起こった!?

 俺も混乱していたが、奴に刺さった矢の矢羽をみて気づく。
 それは洞穴で何度も見た物だった。

 ファムだ! あいつ、俺を追ってきてたのか?
 相手は6人もいるのに、なんて無茶を!

 いくらあいつが弓の名手だからといっても、相手の人数が多すぎる。二人を手負いにしたとはいえ、まだ圧倒的に不利だ。
 木々の間を駆け巡る様なざわめきがし、奴らの罵る声が聞こえる。
 ファムが二人の追っ手から逃げ回っている様子がうかがえた。
 残った無傷の二人も矢をつがえ、辺りを警戒していた。

 ファム、自分の同族を裏切ってまで俺を……。

 俺は叫ぶ。

「ファム、来るな! 逃げろ!」

 俺のことはいい、今からでも逃げてくれ。
 お前が傷付くのを見たくはない。
 網の中でハラハラしながらそう考えていた。


 瞬間、白い光が俺のそばに降り立つ。
 光り輝く髪をなびかせ、迅る風と共にファムがいた。
 逆手にもった小刀を一閃させ、吊り下げられた網を切り裂く。
 必死の形相で俺を一瞥すると、すぐに飛び去った。
 ファムの立っていた場所にトストスと二本の矢が突き立つ。




 網が裂け、俺はどさりと地面に落ちた。
 ファムの去った方角を見るが、もう姿は見えない。
 二人のミームが疾風のようにその後を追う。

 俺は立ち上がると、大きく息を吸った。
 空気を肺に送り込む。
 限界まで吸い込み続ける。

 そして放つ!

 うぉおおおおおおおおおおおぉぉぉっっっっ ーーーーーーー!!!!

 吠えた。
 魂を震わせ、腹の底から、野獣のような雄たけびを上げる。
 怒りを込めた怒声が、ビリビリと辺りを揺るがす。
 小刀の痛みなど、今の怒りの前では屁でもなかった。

 その怒声でその場にいたミーム達が一瞬凍りつく。
 木々を飛び渡りファムを追っていた者さえも、何事かと一瞬俺をみかえした。
 奴らは驚きの顔で一瞥したが、そのまますぐにファムを追っていった。

 ファム、逃げ延びろよ! おまえがくれたチャンスを無駄にはしない。

 俺はそばにいた鳶色の目の邪悪なミームに目を据える。
 奴はギクリとしながら目を見開いていた。
 地を蹴り、突進する。

 右腕が無事でよかった。
 これなら剣にしっかり力を籠められる。

 奴は俺が憤怒の形相で飛びかかってくる様を見て、恐怖の表情を浮かべる。
 小刀を突きだそうとするが

 遅いっ!

 間合いに踏み込み、渾身の力で剣を奴ごと横に薙ぎ払った。

 バキンッ

 あまりの勢いに小刀が砕け散る。

「ごばあっっっ」

 上半身が断末魔を上げながら10メートル以上飛ばされ、下半身も縦に回転しながらどこかにはじけ飛んでいった。
 吹き出した内臓や血が辺りに飛び散り、一瞬にして凄惨な光景が広がる。

 返り血が俺に降りかかり赤く染まる。
 その姿を見た他のミームたちは青ざめ、呆然としていた。
 そのうち一人が我にかえり、叫び声をあげる。

「───※◎★!!!」

「◎★×!」

 何かを喚きながら、無傷の二人が顔を引きつらせその場から逃げ出していく。
 足を射られた奴も必死に這い出していた。
 俺はそれを見ても追わずに逃げるに任せる。
 蜘蛛の子を散らした様に、辺りから誰もいなくなった。
 リーダーを殺ればそうなると踏んでいた。

 あだはうったぞ……。

 心の中で仲間達を弔う。
 奴らが逃げ去ってくれて、内心ホッとしてもいた。
 脇腹の傷から血が吹き出ており、それ以上の戦いに自信が持てなかった。
 左肩も上がらない。

 だが、そんな事よりも重要な事があった。

 ファム、無事でいてくれ!

 ファムを探すために、奴らが向かった方へと足を早める。
 俺は祈る様な気持ちで森を進んでいった。
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