未来世界で恋と仕事と冒険を

藍条森也

文字の大きさ
上 下
1 / 7

はじめに

しおりを挟む
 世界は鬱蒼うっそうたる森に覆われ、そのなかに、まるで海に浮かぶ島のように都市がポツリポツリと建っている。道路などと言う、星を傷だらけにする時代遅れな無粋ぶすいなしろものはすでになく、人と物の移動は空をく飛行船によって行われる。
 都市のなかをエルフやドワーフが普通に歩き、森のなかにはドラゴンが闊歩かっぽする。だからと言って異世界に転生したわけでもなければ、住んでいる町ごと別世界に転移したわけでもない。
 ここは地球。
 まぎれもない地球。
 ホモ・エレクトスが世界を旅し、釈尊とイエス・キリストが教えを説き、ルネサンスが花開き、ヒトラーが演説し、アポロ宇宙船が月まで飛んでいったあの地球。ただし、西暦にすると二三世紀半ばの。
 DNAをいじくり、新しい生物を生み出す技術、バイオハック。いまや、小学生でさえ、自宅のキッチンでDNAをいじくり、新しい生物を生み出せる時代。合成したDNAから組織を培養し、バイオ3Dプリンタにデータをセット。すると、バイオ3Dプリンタが組織を吐き出し、骨を、筋肉を、内臓を、血管を、神経を積みあげ、重ねていく。仕上げに脳が作られ、頭蓋骨によって覆われ、皮膚が張られ、毛が植え付けられる。すると、あら不思議。生きて動く一個の生物のできあがり、と言うわけだ。
 作れるとなればなんでも作るのが人間。いまや、エルフやドワーフ、ドラゴンと言った伝説の存在はもとより、無数の新たな生物が生み出され、あふれかえっている。
 そんな神秘の森に囲まれて『庭園』と呼ばれる場所がある。
 中世貴族の庭園付きの屋敷を模した農場で、農園の他に屋敷風の高級アパートがついている。農園には作物の他、様々な果樹が植わり、動物たちがはなされ、池には魚たちが泳いでいる。この池は夏にはプールとなり、冬には温泉となる。
 太陽電池と燃料電池の複合発電によって熱と電気を得、水を循環化させる。バイオガス・プラントを設置し、ガスも生産する。農園だけで食糧はもとより、水も、エネルギーも、生きるために必要なものはすべて生産出来る。
 それが『庭園』。
 地球の上に作られた、ポケットサイズのもうひとつの地球。
 『庭園』を経営するのがオーナーメイド。農園を管理してアパートの住人に水と食糧とエネルギーを提供し、世話をする。
 住人は苦労なしに農園付きの快適な暮らしを送れるし、オーナーメイドは家賃収入を得ることで作物を直接、売るよりも高く、安定した収入を得られる。
 もともとは栽培費の高騰と後継者不足で壊滅寸前となった農業を救済するために生み出されたシステム。
 それがいまや、世界中に広まっている。
 世界中に何百万という『庭園』があり、それと同じ数のオーナーメイドが存在する。
 これは、そんなオーナーメイドの恋と仕事と冒険の物語――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

殿下の婚約者は、記憶喪失です。

有沢真尋
恋愛
 王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。  王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。  たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。  彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。 ※ざまあ要素はありません。 ※表紙はかんたん表紙メーカーさま

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

処理中です...