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最終章 旅立ちのとき
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数年後。
笑苗と樹は澪たちに見送られながら空港に立っていた。いままさに、世界に向けての旅立ちのときだった。
無事に大学を卒業し、いよいよ世界に向けて旅立つとき。籍だけを入れて結婚式は後回し。新婚旅行がわりに世界中をまわって新しい時代を目指す農業の現場を見、話をし、共に働き、仲間を作る。そして、一緒に未来を作る。
そのための旅。
何年かかるかわからない。
それでも、笑苗も、樹も、あとのことに心配などしていなかった。
「安心して行ってこい。畑はおれたちに任せてな」
慶吾が胸を叩いて請け負った。その隣には澪が寄り添っている。少し距離を開けて、あきらと雅史がやはり、寄り添って立っている。
大学四年間、笑苗と樹のラブラブ振りを目の前で見せつけられてきた結果だろう。結局、この四人もそれぞれにくっついてしまった。そして、以前に言ったとおり、慶吾も雅史も農業の道に進んだ。笑苗と樹が帰ってくるまで、四人で樹の家に住み、樹の畑を守る。そう決めていた。
「ああ、任せる」
そう言う樹の表情にも、態度にも、不安げな様子は一切、ない。信頼しきった晴れやかな笑顔だけがある。
「お前も、雅史も、澪も、あきらも、大学四年間、本当に熱心に農業を学んだからな。雅史は経営者の資格までとったし。安心して任せられる」
「そう言われると光栄だな」
と、この数年間でますますメガネ優等生振りに拍車がかかった雅史が、もはやトレードマークと化した感のあるメガネを直しながらの仕種で応じた。
その横では澪とあきらが笑苗にエールを送っている。
「がんばってね、笑苗!」
「忙しい旅になるだろうけど、たまには連絡ぐらいよこしてよね」
「そうそう。外国の女は積極的なのが多いんだから。樹をとられないよう、ちゃんと監視しておくのよ」
「なに言ってるの」
と、笑苗は両手を腰につけ、あきれたように言った。
「樹が、あたし以外の女に目をやるわけないじゃない」
そのあまりに堂々とした惚気に――。
澪も、あきらも、『はいはい』と答えるしかなかった。
搭乗の時間がやってきた。
笑苗と樹は改めて連れたちに挨拶すると身を翻した。しっかりと、お互いの手を握ったまま進みはじめた。
「ねえ、樹」
「うん?」
「あたし、日本を出るのははじめてなのに、ちっとも不安じゃないの。ううん。正確には不安もある。でも、それよりなにより楽しみで仕方ないの」
「なんで?」
「あのとき、あなたに嘘告する前、あたし、あきらに言われたの。
『別の世界の人間と付き合うのも良い勉強になる』ってね。
いまにしてつくづく思うわ。あきらの言ったことは正しかったって。あなたと出会うことであたしの世界は広がったし、人生そのものもかわった」
「ああ。おれも同感だ」
樹もそう答えた。
「ギャルなんて一生、縁がない相手だと思っていたし、関わらなくてもなにもかわらないと思っていた。でも、君と出会ったことで、たしかにおれの人生はかわった。世界も広がった。未来の選択肢も増えた」
「そう。だからね。あたし、いまもこの旅でどんな新しい世界が見られるんだろう、人生がどうかわるんだろうって、すごいワクワクしてるの」
「ああ、おれもだ」
ふたりはしっかりと手をつなぎ、目を合わせた。
「さあ、行こう。新しい世界に」
「うん!」
完
笑苗と樹は澪たちに見送られながら空港に立っていた。いままさに、世界に向けての旅立ちのときだった。
無事に大学を卒業し、いよいよ世界に向けて旅立つとき。籍だけを入れて結婚式は後回し。新婚旅行がわりに世界中をまわって新しい時代を目指す農業の現場を見、話をし、共に働き、仲間を作る。そして、一緒に未来を作る。
そのための旅。
何年かかるかわからない。
それでも、笑苗も、樹も、あとのことに心配などしていなかった。
「安心して行ってこい。畑はおれたちに任せてな」
慶吾が胸を叩いて請け負った。その隣には澪が寄り添っている。少し距離を開けて、あきらと雅史がやはり、寄り添って立っている。
大学四年間、笑苗と樹のラブラブ振りを目の前で見せつけられてきた結果だろう。結局、この四人もそれぞれにくっついてしまった。そして、以前に言ったとおり、慶吾も雅史も農業の道に進んだ。笑苗と樹が帰ってくるまで、四人で樹の家に住み、樹の畑を守る。そう決めていた。
「ああ、任せる」
そう言う樹の表情にも、態度にも、不安げな様子は一切、ない。信頼しきった晴れやかな笑顔だけがある。
「お前も、雅史も、澪も、あきらも、大学四年間、本当に熱心に農業を学んだからな。雅史は経営者の資格までとったし。安心して任せられる」
「そう言われると光栄だな」
と、この数年間でますますメガネ優等生振りに拍車がかかった雅史が、もはやトレードマークと化した感のあるメガネを直しながらの仕種で応じた。
その横では澪とあきらが笑苗にエールを送っている。
「がんばってね、笑苗!」
「忙しい旅になるだろうけど、たまには連絡ぐらいよこしてよね」
「そうそう。外国の女は積極的なのが多いんだから。樹をとられないよう、ちゃんと監視しておくのよ」
「なに言ってるの」
と、笑苗は両手を腰につけ、あきれたように言った。
「樹が、あたし以外の女に目をやるわけないじゃない」
そのあまりに堂々とした惚気に――。
澪も、あきらも、『はいはい』と答えるしかなかった。
搭乗の時間がやってきた。
笑苗と樹は改めて連れたちに挨拶すると身を翻した。しっかりと、お互いの手を握ったまま進みはじめた。
「ねえ、樹」
「うん?」
「あたし、日本を出るのははじめてなのに、ちっとも不安じゃないの。ううん。正確には不安もある。でも、それよりなにより楽しみで仕方ないの」
「なんで?」
「あのとき、あなたに嘘告する前、あたし、あきらに言われたの。
『別の世界の人間と付き合うのも良い勉強になる』ってね。
いまにしてつくづく思うわ。あきらの言ったことは正しかったって。あなたと出会うことであたしの世界は広がったし、人生そのものもかわった」
「ああ。おれも同感だ」
樹もそう答えた。
「ギャルなんて一生、縁がない相手だと思っていたし、関わらなくてもなにもかわらないと思っていた。でも、君と出会ったことで、たしかにおれの人生はかわった。世界も広がった。未来の選択肢も増えた」
「そう。だからね。あたし、いまもこの旅でどんな新しい世界が見られるんだろう、人生がどうかわるんだろうって、すごいワクワクしてるの」
「ああ、おれもだ」
ふたりはしっかりと手をつなぎ、目を合わせた。
「さあ、行こう。新しい世界に」
「うん!」
完
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