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一章 はじまりの罰ゲーム
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「よおーし、笑苗のひとり負け決定! 罰ゲームとしてクラスの男子に告白して十日間、付き合うこと~!」
公立清風学園の図書室。人気のないその場所にはしゃいだような女子の声が響き渡った。
図書室という静謐なるべき場所にあるまじき大声だったが、他に特に人もいないので迷惑になるわけでもない。本来ならば注意すべき立場にいる司書も定年間近の年寄りとあって心地よさげに居眠り中。気がつくことはなかった。
七月初めの初夏の日差しが降りそそぐ午後のことだった。
初夏と言ってもなにぶんいまの時代。外に出れば一昔前の基準で言えば『夏真っ盛りも真っ青』という異常な暑さにうだることになる。しかし、図書室内はきちんと冷房が効いているので不快さはない。
そんななか、カードゲームでひとり負けした笑苗は友人の澪に右腕を高々ともちあげられ、冷や汗を流していた。
「ダ、ダメだよ、そんなの! 嘘告なんて相手に悪いじゃない」
笑苗はどうにかそう言った。せめてもの抵抗だったがまわりは相手にしなかった。
「なに言ってるの。負けたんだから罰ゲームは当たり前じゃない」と、あきら。
「そうだぜ、柊。罰ゲームはちゃんとしないとな」と、慶吾。
「大体、お前だって承知しただろう」と、雅史もメガネをいじりながらクールに指摘する。
笑苗を含むこの五人は小学校の頃からずっと一緒。いわゆる『連れ』である。笑苗と一緒にいるだけのことはあり全員、見た目からして一般高校生とは格がちがう。
香山澪は明るい性格とアイドルの王道を行く外見で『守ってあげたい女子ランキング』では昔からずっと上位。本人もチヤホヤされるのに慣れているのですっかり甘え上手に育った。猛獣使いならぬ男子使いの腕前に関しては校内屈指。
加藤あきらは長身でボーイッシュ、それでいてグラビアアイドル並の巨乳というギャップで男子から大人気。サバサバした男っぽい性格に見えて、男性経験は実は笑苗や澪よりずっと上という強者でもある。
三杉慶吾は『さわやかイケメン』を絵に描いたような好男子。小学校の頃からサッカー部員というスポーツマン。と言っても、あくまで『女にモテる』ためのファッションサッカー部員であり、ガチで打ち込む気などさらさらない。だから、今日もきょうとて、こうして部活をサボって連れと一緒にカードゲームに興じている。
遠井雅史はずば抜けた長身にメガネ、整った風貌という少女マンガに出てきそうな優等生キャラ。その見た目だけで迫力があって、このあたりでは誰も喧嘩を売ろうとはしない。
顔面偏差値とスタイルの良さではどこに行ってもトップクラスを誇ってきた笑苗を含め、小学校時代からずっとスクールカースト上位に君臨してきた陽キャでモテモテの五人組である。
その五人組は人気のない図書室で罰ゲームを賭けてカートで勝負していた。そして、めでたく笑苗がひとり負けして罰ゲームを振られたところであった。
罰ゲームの内容は男子であれば他の生徒の面前で女教師に告白して玉砕、女子であればクラスの男子に嘘告して十日間、付き合うというものだった。
笑苗としてはそんなことはやりたくない。
――嘘告なんかしたら相手に悪い。
その思いもたしかに多少は、ほんの少しは、ほんのりとだがあったりはする。しかし、それよりなにより、下手な相手と関わって自分のカーストを落としたくない。
カーストというものは上にいるものは簡単に落とされるが、下にいるものが上にあがることは絶対に許されない。下位カーストの生徒が一念発起して上位にあがろうとすれば他の生徒たちから『下位カーストのくせに生意気な!』と、よってたかって潰される。いわゆる『のび太のくせに生意気な!』というやつだ。
もし、一度でも下位カーストに入れられた生徒が上位カーストに入ろうと思えば、自分のことを誰も知らない新天地に行って華々しいデビューを果たすしか道はない。上下がきっちり決まっていて、その秩序を覆すことは許されない。だからこそ、カーストなのだ。
笑苗はカースト上位としてそのことを知っていたし、自分の立場が不安定なものであることも承知していた。ちょっとの油断でいつ下位カーストに落とされるかわからないし、下位カーストに落とされた元上位カーストの惨めさたるや。
かつての仲間からは見下されるし、もとからの下位カースト連中からは『いままでの恨み!』とばかりに標的にされる。
笑苗はそのことを知っていたし、そもそも笑苗自身、上位カーストの仲間を下位カーストに叩き落としたこともある。それを知っている以上、下位カーストの誰かと関わり、自分が下位カーストに落とされる危険を冒すわけには行かないのだ。
とは言え――。
雅史の言ったように、笑苗自身がゲーム開始前に罰ゲームを承知していた。と言うより、笑苗がいちばん乗り気だった。である以上、いまさらなにも言えない。
――最近、勝ちまくってたから調子に乗ったわあ。こんなことならせめて別の罰ゲームにしとけばよかった。
そう思い、後悔したが『後の祭り』とはまさにこのこと。
そもそも、罰ゲームに反対したりしたら『ノリが悪い』と言われてハブられてしまう。承知しないわけには行かない。
「……大体、誰に告白しろって言うのよ?」
笑苗は仕方なくそう言った。
澪が少し考えてから答えた。
「そうね。新道樹なんてどう?」
「げっ! よりによって、あの陰キャのボッチ!」
笑苗はカエルを踏みつぶしたような声を出して身を引いた。表情が強張っている。その様子だけを見れば本当に生きたカエルを足で踏みつぶした直後のように見えなくもない。
「いいじゃん、いいじゃん。新道とは一年、二年と同じクラスでしょ。顔見知りなら悪くないじゃん」
と、あきら。完全に面白がっている。
「お、同じクラスって……本当にただ同じクラスだったってだけで口を効いたこともほとんどないし……」
それも、クラスの行事などで事務連絡をしたことがあると言うだけのこと。プライヴェートな話をしたことなど一度もない。と言うか、慶吾や雅史も含め、クラスのなかで樹と話をしたことのある生徒などほとんどいない。
なにしろ、新道樹は典型的な陰キャのボッチ。いつもひとりで過ごしていて友だちと一緒にいるのを見たことがない。クラスでもほとんど話さず、本を読んでいるか、ぼんやり窓の外を眺めているかのどちらかだ。クラブにも入っておらず授業が終わればさっさと帰宅。放課後、誰かとどこに行くということはまったくない。
「クラスの連中も、半分ぐらいは名前も知らないんじゃないか?」
と、慶吾が言うのも納得のボッチ振りである。
「名前ぐらいはさすがにみんな知っているだろう。出席のときに呼ばれるんだからな」
と、いかにも優等生っぽくメガネをいじりながら言ったのは雅史である。
「名前より、声を知らないやつの方が多いと思うぞ」
そう言うのが誇張に思えない。それぐらい、クラスのなかで口を開くことがない。それが新道樹という生徒だった。とは言え――。
樹には陰キャ独特の卑屈さやいじけた印象などはまったくない。むしろ、いつも堂々とした雰囲気で『我が道を行く』という印象。慶吾や雅史に比べれば見た目は平凡だが成績は上位だし、運動もそれなりにこなす。体育の授業ではサッカー部の慶吾ともそれなりに渡り合ってみせる。ボッチと言っても、自ら進んでその道を選んでいる、と言ったような風格めいたものがあるのだ。
そんな樹であるから陽キャたちからイジられる、と言うことはない。むしろ、一目置かれている、と言ってもいい。陽キャたちの方が『敬して遠ざける』という感じでよりつかない。無口と言ってもこちらから話しかければ普通に答えるので、本人がどうとか言うより、まわりのそんな態度が結果的にボッチキャラにしているのかも知れない。
決して上位カーストではないが、かと言って下位カーストというわけでもない。むしろ、カースト外の存在、と言った方がいいだろう。
――新道樹かあ。
う~む、と、笑苗は脂汗を滲ませながら考え込んだ。
いくら罰ゲームでも下位カースト相手の嘘告なんて断固拒否。例え『振り』であっても付き合うような真似をするのはリスクが大きすぎる。だけど、カースト外の存在である新道樹なら自分のカーストに影響することはないだろう。
――それならまあ、悪くないかな?
そう思う。
どのみち、罰ゲームには従わなくてはならないのだし、それなら他の正真正銘の陰キャを指名されるよりはましだ。
もっとも、澪たちにしても下位カースト相手に『付き合ってみせる』リスクの高さはよく知っている。だからこそ、カースト外の樹を選んだのだろう。
「でも、やっぱりダメだよ。新道って悪いやつじゃないし、罰ゲームなんかに付き合わせられないって」
笑苗はなけなしの良心をフル動員して訴えた。しかし、連れたちは相手にしない。
「いいじゃないか。どうせ、あいつは女子と付き合ったことなんてないだろうし、思い出を作ってやれよ」
と、雅史がクールに言い切った。
「そうそう。高校三年間、一度も女子と付き合ったことなし、なんてさびしすぎるからな。一度ぐらい、いい夢、見せてやれって」
慶吾が持ち前のさわやかな笑顔で言った。
「笑苗のためでもあるしね」
と、あきらも言った。
「笑苗って昔っからあたしらとばっかり付き合ってるじゃん。たまには別の世界の人間と付き合うのも良い勉強になるって」
刺激になるし、成長できるってもんよ。
と、自分もいつも同じメンバーとしか付き合わないのにそう言ってのけるあきらだった。
「はい、それじゃ決定~。明日、新道に告白ね」
満場一致! と、ばかりに澪が宣告する。
笑苗の意見など関係ない。まわりの連れが一致したなら満場一致なのだ。
笑苗としても覚悟を決めるしかなかった。ここでなおもごねればハブられてしまう。それだけは避けたい。
笑苗としては樹に嘘告するしか道はなかった。
――まあいいか。ボッチの陰キャにかわいい女の子との交際を経験させてあげるのも『功徳』ってものよね。別れ方なんてどうにでもなるだろうし、思い出作りに協力してあげるか。
笑苗はそう思い、自分を納得させた。
しかし、笑苗たちは知らなかった。他に誰もいないと思い、はしゃいでいるまさにそこ、薄い壁一枚に隔てられたPC席で、当の新道樹が調べ物をしていることを。
公立清風学園の図書室。人気のないその場所にはしゃいだような女子の声が響き渡った。
図書室という静謐なるべき場所にあるまじき大声だったが、他に特に人もいないので迷惑になるわけでもない。本来ならば注意すべき立場にいる司書も定年間近の年寄りとあって心地よさげに居眠り中。気がつくことはなかった。
七月初めの初夏の日差しが降りそそぐ午後のことだった。
初夏と言ってもなにぶんいまの時代。外に出れば一昔前の基準で言えば『夏真っ盛りも真っ青』という異常な暑さにうだることになる。しかし、図書室内はきちんと冷房が効いているので不快さはない。
そんななか、カードゲームでひとり負けした笑苗は友人の澪に右腕を高々ともちあげられ、冷や汗を流していた。
「ダ、ダメだよ、そんなの! 嘘告なんて相手に悪いじゃない」
笑苗はどうにかそう言った。せめてもの抵抗だったがまわりは相手にしなかった。
「なに言ってるの。負けたんだから罰ゲームは当たり前じゃない」と、あきら。
「そうだぜ、柊。罰ゲームはちゃんとしないとな」と、慶吾。
「大体、お前だって承知しただろう」と、雅史もメガネをいじりながらクールに指摘する。
笑苗を含むこの五人は小学校の頃からずっと一緒。いわゆる『連れ』である。笑苗と一緒にいるだけのことはあり全員、見た目からして一般高校生とは格がちがう。
香山澪は明るい性格とアイドルの王道を行く外見で『守ってあげたい女子ランキング』では昔からずっと上位。本人もチヤホヤされるのに慣れているのですっかり甘え上手に育った。猛獣使いならぬ男子使いの腕前に関しては校内屈指。
加藤あきらは長身でボーイッシュ、それでいてグラビアアイドル並の巨乳というギャップで男子から大人気。サバサバした男っぽい性格に見えて、男性経験は実は笑苗や澪よりずっと上という強者でもある。
三杉慶吾は『さわやかイケメン』を絵に描いたような好男子。小学校の頃からサッカー部員というスポーツマン。と言っても、あくまで『女にモテる』ためのファッションサッカー部員であり、ガチで打ち込む気などさらさらない。だから、今日もきょうとて、こうして部活をサボって連れと一緒にカードゲームに興じている。
遠井雅史はずば抜けた長身にメガネ、整った風貌という少女マンガに出てきそうな優等生キャラ。その見た目だけで迫力があって、このあたりでは誰も喧嘩を売ろうとはしない。
顔面偏差値とスタイルの良さではどこに行ってもトップクラスを誇ってきた笑苗を含め、小学校時代からずっとスクールカースト上位に君臨してきた陽キャでモテモテの五人組である。
その五人組は人気のない図書室で罰ゲームを賭けてカートで勝負していた。そして、めでたく笑苗がひとり負けして罰ゲームを振られたところであった。
罰ゲームの内容は男子であれば他の生徒の面前で女教師に告白して玉砕、女子であればクラスの男子に嘘告して十日間、付き合うというものだった。
笑苗としてはそんなことはやりたくない。
――嘘告なんかしたら相手に悪い。
その思いもたしかに多少は、ほんの少しは、ほんのりとだがあったりはする。しかし、それよりなにより、下手な相手と関わって自分のカーストを落としたくない。
カーストというものは上にいるものは簡単に落とされるが、下にいるものが上にあがることは絶対に許されない。下位カーストの生徒が一念発起して上位にあがろうとすれば他の生徒たちから『下位カーストのくせに生意気な!』と、よってたかって潰される。いわゆる『のび太のくせに生意気な!』というやつだ。
もし、一度でも下位カーストに入れられた生徒が上位カーストに入ろうと思えば、自分のことを誰も知らない新天地に行って華々しいデビューを果たすしか道はない。上下がきっちり決まっていて、その秩序を覆すことは許されない。だからこそ、カーストなのだ。
笑苗はカースト上位としてそのことを知っていたし、自分の立場が不安定なものであることも承知していた。ちょっとの油断でいつ下位カーストに落とされるかわからないし、下位カーストに落とされた元上位カーストの惨めさたるや。
かつての仲間からは見下されるし、もとからの下位カースト連中からは『いままでの恨み!』とばかりに標的にされる。
笑苗はそのことを知っていたし、そもそも笑苗自身、上位カーストの仲間を下位カーストに叩き落としたこともある。それを知っている以上、下位カーストの誰かと関わり、自分が下位カーストに落とされる危険を冒すわけには行かないのだ。
とは言え――。
雅史の言ったように、笑苗自身がゲーム開始前に罰ゲームを承知していた。と言うより、笑苗がいちばん乗り気だった。である以上、いまさらなにも言えない。
――最近、勝ちまくってたから調子に乗ったわあ。こんなことならせめて別の罰ゲームにしとけばよかった。
そう思い、後悔したが『後の祭り』とはまさにこのこと。
そもそも、罰ゲームに反対したりしたら『ノリが悪い』と言われてハブられてしまう。承知しないわけには行かない。
「……大体、誰に告白しろって言うのよ?」
笑苗は仕方なくそう言った。
澪が少し考えてから答えた。
「そうね。新道樹なんてどう?」
「げっ! よりによって、あの陰キャのボッチ!」
笑苗はカエルを踏みつぶしたような声を出して身を引いた。表情が強張っている。その様子だけを見れば本当に生きたカエルを足で踏みつぶした直後のように見えなくもない。
「いいじゃん、いいじゃん。新道とは一年、二年と同じクラスでしょ。顔見知りなら悪くないじゃん」
と、あきら。完全に面白がっている。
「お、同じクラスって……本当にただ同じクラスだったってだけで口を効いたこともほとんどないし……」
それも、クラスの行事などで事務連絡をしたことがあると言うだけのこと。プライヴェートな話をしたことなど一度もない。と言うか、慶吾や雅史も含め、クラスのなかで樹と話をしたことのある生徒などほとんどいない。
なにしろ、新道樹は典型的な陰キャのボッチ。いつもひとりで過ごしていて友だちと一緒にいるのを見たことがない。クラスでもほとんど話さず、本を読んでいるか、ぼんやり窓の外を眺めているかのどちらかだ。クラブにも入っておらず授業が終わればさっさと帰宅。放課後、誰かとどこに行くということはまったくない。
「クラスの連中も、半分ぐらいは名前も知らないんじゃないか?」
と、慶吾が言うのも納得のボッチ振りである。
「名前ぐらいはさすがにみんな知っているだろう。出席のときに呼ばれるんだからな」
と、いかにも優等生っぽくメガネをいじりながら言ったのは雅史である。
「名前より、声を知らないやつの方が多いと思うぞ」
そう言うのが誇張に思えない。それぐらい、クラスのなかで口を開くことがない。それが新道樹という生徒だった。とは言え――。
樹には陰キャ独特の卑屈さやいじけた印象などはまったくない。むしろ、いつも堂々とした雰囲気で『我が道を行く』という印象。慶吾や雅史に比べれば見た目は平凡だが成績は上位だし、運動もそれなりにこなす。体育の授業ではサッカー部の慶吾ともそれなりに渡り合ってみせる。ボッチと言っても、自ら進んでその道を選んでいる、と言ったような風格めいたものがあるのだ。
そんな樹であるから陽キャたちからイジられる、と言うことはない。むしろ、一目置かれている、と言ってもいい。陽キャたちの方が『敬して遠ざける』という感じでよりつかない。無口と言ってもこちらから話しかければ普通に答えるので、本人がどうとか言うより、まわりのそんな態度が結果的にボッチキャラにしているのかも知れない。
決して上位カーストではないが、かと言って下位カーストというわけでもない。むしろ、カースト外の存在、と言った方がいいだろう。
――新道樹かあ。
う~む、と、笑苗は脂汗を滲ませながら考え込んだ。
いくら罰ゲームでも下位カースト相手の嘘告なんて断固拒否。例え『振り』であっても付き合うような真似をするのはリスクが大きすぎる。だけど、カースト外の存在である新道樹なら自分のカーストに影響することはないだろう。
――それならまあ、悪くないかな?
そう思う。
どのみち、罰ゲームには従わなくてはならないのだし、それなら他の正真正銘の陰キャを指名されるよりはましだ。
もっとも、澪たちにしても下位カースト相手に『付き合ってみせる』リスクの高さはよく知っている。だからこそ、カースト外の樹を選んだのだろう。
「でも、やっぱりダメだよ。新道って悪いやつじゃないし、罰ゲームなんかに付き合わせられないって」
笑苗はなけなしの良心をフル動員して訴えた。しかし、連れたちは相手にしない。
「いいじゃないか。どうせ、あいつは女子と付き合ったことなんてないだろうし、思い出を作ってやれよ」
と、雅史がクールに言い切った。
「そうそう。高校三年間、一度も女子と付き合ったことなし、なんてさびしすぎるからな。一度ぐらい、いい夢、見せてやれって」
慶吾が持ち前のさわやかな笑顔で言った。
「笑苗のためでもあるしね」
と、あきらも言った。
「笑苗って昔っからあたしらとばっかり付き合ってるじゃん。たまには別の世界の人間と付き合うのも良い勉強になるって」
刺激になるし、成長できるってもんよ。
と、自分もいつも同じメンバーとしか付き合わないのにそう言ってのけるあきらだった。
「はい、それじゃ決定~。明日、新道に告白ね」
満場一致! と、ばかりに澪が宣告する。
笑苗の意見など関係ない。まわりの連れが一致したなら満場一致なのだ。
笑苗としても覚悟を決めるしかなかった。ここでなおもごねればハブられてしまう。それだけは避けたい。
笑苗としては樹に嘘告するしか道はなかった。
――まあいいか。ボッチの陰キャにかわいい女の子との交際を経験させてあげるのも『功徳』ってものよね。別れ方なんてどうにでもなるだろうし、思い出作りに協力してあげるか。
笑苗はそう思い、自分を納得させた。
しかし、笑苗たちは知らなかった。他に誰もいないと思い、はしゃいでいるまさにそこ、薄い壁一枚に隔てられたPC席で、当の新道樹が調べ物をしていることを。
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