我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その七〇

初体験、ポポーの実!

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 朝、起きたらポポーの実が落ちていた。
 三つついている実のうち一番、小さいやつだ。
 いや、なにもこの頃、話題の台風10号のもたらす強風で落ちたというわけではない。このあたりは幸い、雨は降っても風はそれほど強くはない。いまのところ。
 単純に、自然に落ちたのだ。つまり、実が熟して落下したということ。ポポーの食べ頃に関する記事を調べたところ『熟すのは九月下旬ごろから』とのことなので、それよりは一ヶ月ほど早い。
 とはいえ、いつ熟すかは品種にもよるし、栽培条件によってもかわってくる。この猛暑では普通より早く熟しても不思議はない。一ヶ月ぐらい早くても驚くことはない。
 ポポーの実は熟すと自然に落ちるというのは知っていたので、以前からネットで覆ってある。そのネットのなかに落ちていたので実に傷はついていない。
 二日ばかり追熟させておいて独特の香りが出てきて、皮が緑から黄緑にかわり、身が柔らかくなったら食べ頃……と言うことなので、そのまま部屋に置いておくことにした。その後、気がついてみるともうひとつの実も落ちていた。最初に落ちた実よりは大きいが、まだ枝に残ったままの実よりは小さい。一番、小さい実と、二番目に小さい実とが連続して収穫できたわけだ。
 とにかく、部屋に置いて追熟するのをまつことにしたわけだが……夜になってみて驚いた。小さい方の実がすっかりかわっている。皮の色が薄くなり、ところどころ薄い茶色っぽく変色している。実もすっかり柔らかくなっていた。
 記事に載っていたままの変貌振りなわけだが、やけに早すぎないか? 記事には『二日ほど』と書いてあったのに一日とかからずこの変化とは。
 と言っても、もうひとつの方は緑のままだし、実も堅いまま。もしかしたらこの小さい方、気がつかなかっただけで前日以前に落ちていたのかも知れない。ネットをかぶせているので気づきにい。
 まあ、とにかく食べてみよう。ポポーは痛みやすくて消費期限が短いということだから、下手に置いておくとだめにしてしまう。数年かけてようやく三つだけ実った大事な実だ。ひとつだって無駄にしたくはない。
 さて、このポポーの実だが、大きさはだいたいユズぐらい。これがポポーとしてどの程度の大きさなのかはわからない。しかし、あとのふたつはどちらもこれより大きいからポポーとしては小さめなのだろう。おそらく。
 身が柔らかいので下手に皮を向こうとすると手がべちゃべちゃになりそうだ。記事には『ふたつに切ってスプーンですくって食べる』とあったので、そうすることにした。
 では、まな板の上に実を寝かせてナイフを入れるとしよう。
 緊張の一瞬だ。
 柔らかいので抵抗もなく刃が入っていく。むしろ、潰してしまわないか心配だ。そして、ポポーの実はふたつにわかれた。まず、目についたのは小豆色の種。濃い小豆色したなかなかに大きい種が真ん中にデン! と収まっている。種は計三つあった。実の真ん中に三つ、縦に並ぶようにして入っていた。
 まずはその種を取りのぞく。そして、肝心の実の方だが、色はオレンジ色で見るからに柔らかそう。ネットリ系のサツマイモといった感じか。そう。ちょうど、紅はるかの焼きイモのような感じ。
 スプーンですくって食べてみる。
 う~む。これは……。
 なんと言えばいいのだろう。単に甘いというわけではないし、果物らしい酸味があるわけでもない。マズいというわけではないのだが、適当なたとえが思い浮かばない。
 熟れすぎたカキ?
 ネットリ系の焼き芋?
 どちらもなにかちがう。いっそ、チョコレートと言うべきか。いや、それもちがう気がするし……。
 とにかく、表現に困る独特な味わい。果物っぽくはないし、ちょっといままでに食べたことのない味だ。
 ただ、舌に苦みが残るのはなんなのだろう。ポポー的に、これは普通のことなのだろうか。苦かったり、渋かったりする果実なんて普通にあるし、一口にポポーと言っても味は品種や栽培状況によってかわってくるので、その点はわからない。
 とにかく、一言にまとめると『どう表現していいのかわからない独特の味』だ。
 決して『マズい』というわけではないのだが、そこがまた表現に困る。
 とはいえ、数年かけてようやく実った実を無事に味わえたのは単純に嬉しい。それに、いままでに味わったことのない未経験の味を味わえたというのも貴重な経験。
 『果物らしい』果物なら、そのへんでいくらでも売っている。どうせ、ベランダ菜園で育てるならスーパーには売っていないものがいい。その意味では、ポポーは一〇〇点だと言える。
 残っている実はあとふたつ。このふたつも同じ味わいのか。それとも……。
 楽しみである。
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